その目は危険だと思います
「ただし」
ウルルさんのパパさんの話はまだ終わっていない。
どうやら、何かしらの条件があるようだ。
「まず、アドルは駄目だ。元とはいえ、一国の王だった者の参加は望ましくない。既にその強さも名も知れ渡っているからこそ、武闘会に参加するのではなく、普通に代表者や長老たちと個別に会って説得する方が良いんじゃないか? その場は我が用意しよう」
「……あぁ、私もそうした方が良いと思っていた」
「それと、インジャオもだ。お前の今の状態はその……犬系統に対して特化し過ぎている。それだとまともな戦いではないと、文句が出てくるのは確実だ」
どうやら、インジャオさんが骸骨だと知っているようだ。
そりゃそうだよね。
アドルさんたちの事を知っているからこそ、ウルルさんが一緒に行動する事を許しているんだろうし。
ウルルさんのパパさんの性格を考えると、駄目なら絶対許さなそうだしね。
そんなウルルさんのパパさんが、鼻をひくひく動かしてから言う。
「それにしても……前以上に噛み応えが増していないか?」
しかも、まだ説明していない、骨の硬化も察知している。
匂い? 勘?
まぁ、察知されたという時点で、どっちでも良いか。
でも問題がない訳ではない。
ウルルさんのパパさんの尻尾が左右に揺れて、ソファーをバシバシ叩いている。
その上、インジャオさんをギラついた目で見ていた。
……その目……娘の彼氏に向けて良い目じゃないと思う。
ほら、ウルルさんが威嚇し出した。
こほん、と冷静さを取り戻すように、ウルルさんのパパさんが一つ咳払い。
「ウルルは出ても構わない。というよりは、ここに来るまでに顔を見せた以上、既に帰って来た事は広まっているだろう。なら、もう出場しなければ収まりがつかないだろうな」
「でしょうね。私もそれは理解しているわ。だから出るつもりよ。同盟のためにも」
「まぁ、確かに、ウルルの強さなら優勝は難しいかもしれないが、充分な活躍は出来るだろう。同盟の話はそれで充分だ。だがもし我と当たれば……わかっているだろうな? 負けたら、パパと呼ぶように」
「それはママと相談して」
ウルルさんがピシャリ。
ウルルさんのパパさんも、それ以上何かを言う事はなかった。
あれかな? 力関係はウルルさんのママさんの方が上なのかな?
うん。よくある事だ。
……というか、ウルルさんのパパさんが俺をジッと見ている。
「……それで、お前は誰だ? アドルたちの新たな仲間だというのはわかるが」
えっと自己紹介した方がよさそうなので、軽く自己紹介する。
もちろん、エイトとワンの事も。
セミナスさんの事に関しては、セミナスさんにとめられたので言わないでおく。
多分だけど、武闘会対策なんじゃないかな?
「ふーん」
ウルルさんのパパさんの返答。
全く興味なさそう。
あれだよ? 俺なら、やろうと思えばパパ呼びに戻す事も出来るんだよ?
「でもまぁ……お前は武闘会に出ない方が良いな。参加は出来るが弱そうだ。なんの盛り上がりもなく負けるだろうが、それでも参加したいなら参加して良いぞ」
ウルルさんのパパさんは俺を上から下に見て、そう判断した。
それは当たっていると思う。
だが、納得していないスキルが居る。
⦅マスターをそう評するとは愚かな事をしますね。ふふふ……良いでしょう。全て私にお任せ下さい。目にモノを見せてあげましょう⦆
声からはどことなく怒りを感じる。
もし体があってこの場に居れば、濃厚な殺気を振り撒いていそうな感じだ。
「集まれ」
アドルさんの一声で、顔を突き合わせて円陣を組む。
ほら、エイトとワンも入って。
「どうする? 私とインジャオが参加出来ない以上、ウルルに出て貰うのは当然だが、アキミチもとなると」
「さすがにウルトラン陛下の言う通り、勝つのは難しいと思います」
「そうだよね。そもそも元となる身体能力が違い過ぎるし……まぁ、私が頑張れば問題ないから出場しなくても大丈夫だよ」
アドルさんたちの意見。
俺は出なくてもよさそうな流れ。
「きっとご主人様こう考えています。『ヒャッホー! 獣耳ばっかで興奮する! 尻尾もふもふさせろ! 誘惑されるなぁ! ちょ、エイト、お前、今日は獣人のコスプレして俺の部屋に居ろよ! ……ん? 武闘会? よっしゃ! ならここで活躍して、色んな獣人をモノにしてやるぜ!』と」
「マジか! 主はあたいと同じ考えしているのかよ! ならここは一緒に出場して、一緒に一晩過ごさないか、聞いてみっかな」
エイトとワンの意見。
まずエイト、俺はそんな事を一切思っていないので、その思考はやめるように。
あと、「今日は……俺の部屋に」って何?
まるでこれまでにもあったかのように言うのは駄目だと思う。
珍しく気付いたよ、俺。
それにほら、アドルさんたちが誤解しちゃっているし。
聞こえているから、ひそひそ話さなくても良いですよ。
それとワンは……エイトの想像の中の俺と同じ事を考えていたの?
それはそれで問題あると思うけど……このシリーズは製作者が製作者だからなぁ……。
悪事を働かないのなら、好きにさせておこう。
武闘会も出たいなら出て良いと思う。
「色々意見を言うのは良いが、やはりこういうのは本人の意思が重要だ。まずはそこから確認するべきだった。アキミチ、どうしたい?」
アドルさんがそう尋ねてくる。
確かに先に聞いて欲しかった。
「えっと……セミナスさんが『任せて下さい』と言ってい」
「「「出場させます」」」
言い切る前に、アドルさんたちがそう答える。
あれ? 俺の意思は?
しかも、これで安心だと輝く笑み付き。
アドルさんたちの、セミナスさんへの信頼感が半端じゃないな。
まぁ、セミナスさんに言われて心構えはしていたから別に良いけどさ。
「あ、あぁ、わかった。手続きしておこう」
ウルルさんのパパさんが呆気に取られている。
「ちょっと待った! あたいも出たい!」
このままだと話が流れると判断したのか、ワンが手を上げて言う。
ウルルさんのパパさんが、俺を見た時と同じように、ワンを上から下まで見ていく。
毎回そんな事をしているのかな?
セクハラで訴えられない?
「……よし。良いだろう」
ウルルさんのパパさんの返事に、ワンが喜ぶ。
よかったね、ワン。
動機は不純だけど。
するとそこで、この部屋の奥から一人の人物が現れる。
その人は煌びやかな白いドレスを身に纏う女性。
狼の獣人で、ウルルさんを成長させて、体付きをエロくして、顔立ちをより美人にしたような感じ。
という事は?
「ママ!」
ウルルさんが嬉しそうに言って、その女性のところまで駆けてそのまま抱き着く。
ウルルさんのママさんも、嬉しそうに抱き締め返していた。
ウルルさんのパパさんは、あれ? 我の時と接し方や態度が違う気が……と固まっている。
大丈夫。気のせいじゃないから。
親子の再会を充分堪能したウルルさんたちがこちらに来る。
ウルルさんのママさんは、アドルさんに向けて一礼。
「お久し振りでございます。アドル様」
「あぁ、久しいな。ルルシャ」
アドルさんとの挨拶が終わると、今度は俺にきた。
「初めまして、ルルシャと申します」
「あっ、どうも。アキミチです。で、こっちはエイトとワンです」
ウルルさんのママさんは俺だけじゃなく、エイトとワンにもどうもと挨拶を交わした。
なんというか第一印象は悪くない。
そしてウルルさんのママさんは、インジャオさんに視線を向ける。
「はぁ……インジャオ……何やら増々魅力的になっていない?」
「ははは……」
インジャオさんの乾いた笑い。
ウルルさんのママさん。その目は娘の彼氏を見るような目じゃないと思う。
娘さん、もの凄く警戒しているよ?




