シリーズの中にまともなのが居る事を切に願う
「……確かに、名ばかりだったモノが本当の意味で繋がれば、それは喜ばしい事に間違いはありません。ただ、それも、ラメゼリア王国と軍事国ネス次第。……少なくとも、ラメゼリア王国には歩み寄る気がある、という事はわかりました。あとは軍事国ネスがどう動くか」
ロイルさんはそこで一旦言葉をとめ、少しだけ考える。
「……なるほど。アドル義兄さんの考えは、二国の事をきっかけとして使い、他国に歩み寄りが上手くいくための協力をお願いする事で、各国の関係修復と強化を図ろうという訳ですか」
そうなんですか? と俺はアドルさんを見る。
「その通りだ、ロイル。といっても、この考えはラメゼリア王国の王、ゴルドール殿と共に考えたモノ。大魔王軍に対抗するには『EB同盟』を以前のように……アイオリとエアリーが居た頃のように戻さなければならない」
「それはわかりますが」
「だからこそ、協力して欲しい。ビットル王国にもサーディカ姫が向かっている。東部の国々は、ビットル王国とサーディカ姫が纏めてくれるだろう。あとは西部。ここ魔族の国と、あとは獣人の国が協力を明言してくれれば、他の国も追従してくれるに違いない」
それから少しの間、アドルさんとロイルさんは沈黙して、互いに見つめ合う時間になった。
色々と推し量っているのかもしれない。
でも、周囲としてはオロオロしてしまう。
……違った。
オロオロしているの、俺だけ。
この場に居る他の人たちは、すまし顔で見守っている。
ワンですら、腕を組んで黙っていた。
なんか傍から見ると、オロオロしている俺だけ小物感が半端ないな。
……よし、訳知り顔で黙っていよう。
絵面的にそれで正しいはずだ。
……ふんふん、なるほど……そういう事ね……ふんふん……。
「わかりました。他ならぬアドル義兄さんからの頼み。魔族の国も協力しましょう。ロアナ姉さんがこの場に居れば、同じように協力をお願いしていたでしょうし」
「すまない。助かる」
アドルさんはありがとうと笑みを浮かべ、ロイルさんは仕方ないと苦笑を浮かべた。
そして、ロイルさんは外から人を呼び、宰相をここに連れて来るように、と告げる。
少しだけ待つと、頭に六本の角がある宰相さんが現れた。
「お呼びとの事ですが、何用でしょうか?」
そう言う宰相さんの顔は、何か面倒事の予感……と、しかめっ面だ。
……あれは、宰相が王様に向けて良い表情じゃないと思う。
実際、ロイルさんは過剰に反応した。
「ね、ね、アドル義兄さんも見たでしょ! あの顔! 絶対余を疎ましく思っていて、殺そうと色々画策しているはずだから!」
「そうなのか?」
「滅相もございません」
アドルさんの問いかけに即座に反応。
……言い慣れている感が凄い。
「………………」
それでもロイルさんは信じられないのか、ジィーッと宰相さんを見る。
「……フッ」
宰相さん、ニヤッと笑う。
「はい、うそー! 今の顔は絶対何か企んでますー!」
「そうなのか?」
「滅相もございません」
即座の返答。
なんだろう……ロイルさんの反応で遊んでいるような気がする。
いい性格している宰相さんだな、と思った。
いや、それくらいじゃないと、この国の宰相は務まらないのかもしれない。
「そんな事より、私を呼び出したのは一体どういう用件でしょうか?」
「そんな事! 余が感じる危険性がそんな事で片付けられるの!」
「ロイル様。話が進まないので愚痴はあとで聞きます」
「愚痴!」
……原因は宰相さんだと思う。
ロイルさんが項垂れながら、先ほど読んでいた紙を宰相さんに渡す。
宰相さんは上から下までサッと目を通すだけ。
「なるほど。各国の協力を得て、『EB同盟』の完全復活を目的にしている訳ですね」
今のでそれを読み取ったの?
ロイルさんはもう少し考えていたよ?
あぁ、なるほど。わかった。
この宰相さんもアレだ。
槍の神様と同じで、なんでもそつなくこなす、ムカつくタイプだ。
「何か?」
「いえ」
急に宰相さんがこっちを見たからビックリした。
やっぱ怖いタイプかもしれない。
「余もこれに協力する事にした」
「かしこまりました。この国の王はロードレイル様です。ロードレイル様がそうすると決められたのなら、私共臣下もそのように動きます。何より、良い事ですので」
宰相さんが真面目な顔で、ロイルさんに向けて一礼する。
「宜しく頼む。それでまずは」
「国内の意思を一つに纏めるのですね。各種の代表者を呼び出しておきます」
「そうしてくれ。余、自らが話を通す」
「かしこまりました」
どうやらこれで、話は一旦纏まったようだ。
ただ、俺は違う事を考えていた。
あれ? アドルさんの話によると、このあと……獣人の国に行くの?
⦅はい⦆
普通に確定した。
直ぐ向かうんだろうか?
⦅いいえ、まだ終わっていません⦆
そうなの? と思っていると、確かに宰相さんはまだ居る。
というよりは、何か言いたそうだ。
ロイルさんもそれに気付き、尋ねる。
「宰相、どうかしたのか? ……まさか! これを機に国家乗っ取りを!」
「しません。ですが、良い機会なのは間違いありません。義兄であるアドル様に協力して頂いて、ロードレイル様のお后様を決めましょう」
「………………」
ロイルさん、黙った。
というか、宰相さんを凄く睨んでいる。
余計な事を言いやがって、みたいな感じ。
「そうだな。そろそろロイルにもそういう相手が居ても良いな」
アドルさん、急にニヤニヤし出して乗り気。
「決めるという事は、何人か候補が居るのか?」
「はい。こちらに資料を用意しています」
宰相さんがどこかから資料の紙束を取り出し、アドルさんにスッと見せる。
仕事が早いね、この宰相さん。
「どれどれ」
アドルさんが確認し始めると、インジャオさんとウルルさんが野次馬のように後ろから見始める。
……いや、ワンも。
急いでワンのところに行って、こちらに引っ張る。
「ワン! お前、何やっているんだよ!」
「主だって興味あるだろ? あたいは興味ありありだぜ!」
そう言うワンの顔は、興味;2、企み:8、という感じに見える。
「………………もしかして、選ばれなかった人を慰めて、そのまま……みたいな事を考えてないか?」
「それで元気になるんなら、別に良いじゃねぇか」
こいつ、開き直りやがった!
やっぱりこのシリーズ、ろくなのが居ないんじゃ……。
「じゃあ、主は関わらない気なのか?」
「そうとは言っていないけど」
「いえ、構いませんよ。アキミチ様もどうぞ」
宰相さんかニッコリ笑顔で許可が出た。
ロイルさんが、わかってくれるよね? みたいな目で俺を見ているのも気になる。
……う~ん。確かに何か企んでいるように見えなくもない。
ただ、それでも最初は断ろうと思っていたけど、ロイルさんからもこのままじゃ選べないとお願いされたので、協力する事にした。




