なんでも肯定する俺の婚約者
いつかは連載したいと思ってます。
俺の婚約者は少し変わっている。
異常があるということでもない、だが変わってる。
あいつは"肯定"しかしない。
見合いの時からずっと、問われたことには肯定する。
「お前は俺との婚約をなんとも思ってないだろ」
『そうだよ』
最初の肯定はこれだった、王子である俺との婚約を何とも思っていない、甘やかされて育った俺は頭を土器で殴られたような感覚が襲った。なんだこいつ、俺との婚約だぞ?!嬉しそうな顔もせず…むしろ興味ないような顔しやがって!無礼だぞ?!今までの女達なら泣いて喜ぶほどだぞ?!
「…本当になんとも思ってないのか?」
『うん』
変な女だ!そして無礼を極めている!こんな女願い下げだ!……そう父上に言ったら怒られたうえに婚約が決定してしまった…母上もあの女のことを気に入っているらしく、婚約を喜んだ。何故だあの女のどこに気に入る要素がある?父上にさえも無礼な態度だぞ?
「決まってしまったことは仕方がない。俺に恥をかかせるようなことはするなよ」
『わかった』
婚約が決まってから俺はあいつのことを観察するようになった、皆が口を揃えていい娘だと褒める…どこがだ?そんな疑問を抱いた俺は今日もあいつを観察する。
わかったことは、どうやらあいつは猫を被るのがうまいらしい。王妃教育を受け始めて教育係たちは優秀だ、最高の淑女になる、王を支えるべきものをすべて持っている…大層な褒められようだ、出される課題を完璧にこなしているそうだが…気になって自分の課題をほったらかしにして観察していたら俺が怒られてしまった、あいつは頑張っているのに俺はさぼっていて恥ずかしくないのか、と…くそ何故俺が怒られないといけないんだ、あいつのせいだ!!…むかついたが、あいつと比べられるのは苦痛だ、俺は今まで適当になってきた課題を真剣に取り組むようになった。
「お前は花が好きなのか」
『そうだよ』
「そうか、王宮の庭はすごいだろう」
『そうだね…綺麗。』
観察だけではわからないこともあるからな、適度に二人で話すようにもしている。こっちが話を振らなければ基本黙ってぼーっとしているようなやつだ、話題作りに苦労するがふとあいつの好きなものや嫌いなものがわかるといい気分になるな、これからも続けるか……って俺まで絆されてないか??いかんいかん、こいつのどこがいい娘なのかを知るための会話と観察だろう…あいつのことが気になるわけではない。矛盾とかいうなよ!
「甘いもの好きだろ」
『そうだよ』
「苦いもの嫌いだろ」
『…そうだよ』
「本を読むの好きじゃないだろ」
『…そうだよ』
「走り回ったりするの好きだろ」
『うん…』
慣れてしまえばあいつの考えていることもわかるようになった、感情表現が苦手でいつもは無口、表情も硬い…よくみているとわかりやすいもんだな、声のトーン、表情の緩み……俺は問うことを慎重に選んでいた、その全部にあいつは肯定する、否定したことないのか?そんなことも考えたりもする。あいつの観察も会話もなかなか面白くて、俺の中であいつは無礼な女から面白い女になった…そして婚約してから時間があたったある時、好奇心で聞いた問いで俺の中であいつは面白い女から手放すのは惜しい女になった。
「お前、俺のこと好きだろ」
『!…そう、だよ』
これか!!!好奇心で聞いたけど、ダメージを受けてしまったぞ!しかも急所にクリーンヒットだ!…否定されたら立ち直れないが、頬を赤く染めながら肯定されるのもなかなか……絶対これだ、こいつが人に好かれる理由…知っているぞ、こういうのをギャップ萌えというやつだな!すっかり絆されてしまったようでむかつくが、これからも観察していくからなっ
婚約が決まってから六年、俺は18歳であいつは16歳になった…国の決まりで俺は二年前から学園へ入学し寮に入っていた、この二年間は苦痛でしかなかったな…勉学なら王宮で既に身に着けているのに…寮でなければよかったのに…はぁ、趣味の観察もこの二年はまともにできていない、なんて苦痛なんだ、ストレスではげるぞ。まあ、今年はあいつが入学してくるし、顔を合わせる機会も今よりかは増えるだろう…だが俺が卒業すればまた二年も……いや、それはその時になったら悩むか。
「俺と会えなくて寂しかっただろ」
『うん…そうだよ』
相も変わらず肯定ばかりするな、だが悪い気はしないな!あいつが入学してきて再認識したがやはり猫を被るのがうまいな?微笑みが美しい…なんていわれてるそうだが、作った笑みを顔にはっつけているだけだ、まったくこれだから素人は、六年間みてきた俺には眉毛一ミリの変化でさえわかるんだぞ?…ちょっと気持ち悪いな?まあ、いい…あいつが入学して観察する機会は増えたが、一つ面倒なことがおこった……あいつと同級生の女が俺にべったべたしてくる、正直うざい。厚化粧で香水も浴びてきたのかと思うほど強烈…美人だと評判らしいが俺はあいつの観察に忙しいんだ、その甘ったるい声で腕きひっつくな。鬱陶しさを極めているがいいこともあった、なんとあいつが…ヤキモチを焼いたんだ!あの時の顔は最高だったな…頬を膨らませながらポカポカ俺を殴ってきた、なんというか…かわいい。薄々気づいていたが、あいつ…実はめちゃくちゃ可愛いのでは?くっ、俺のこと好きだろ、と好奇心で聞いたあの時よりも絆されている!…あ、庭園にあいつがいるな、声かけるか。
「ジークさまぁ…マリア様が私に酷いことをしたんですぅ!!」
今日も厚化粧で香水を浴びてきたかのような女が腕にひっついてくる。そろそろ慣れそうだぞ…そもそもあいつが何をしたというんだ、あいつ割と他人に興味ないぞ?お前なんて眼中にないからな?階段から落とされた?水をかけられた?持ち物を捨てられた??バカバカしいな、あいつはそんなことをするようなやつじゃない。不器用だが優しくて素直なやつだ、不満があれば俺に直接いうようなやつだぞ?最近だって、くっついてくるお前をちゃんとあしらえと言ってきたぞ??…いや、まあ、俺があしらったほうがいいだろ、と言ってそれに肯定しただけだが、実質俺に言ってきた。…ギャーギャー騒いでうるさいし、あいつの反応も気になるから一応聞いてみるか…自分がやっていないことを問われてあいつは、肯定するのか、または否定するのか…
「この女がお前にいじめられたと騒いでるんだが、そうなのか?」
『?!…ち、違うよ、そんなこと、してないよぉ…』
…結論を言うと後悔した。なぜこの女の味方をするようなことをしたんだ…こんな顔、させたかったわけではない…否定するのか、どうか気になっただけ……目を見開き青ざめた顔で俺の問いを否定した。俺は驚いたが、この女も驚いている。あいつが肯定しかしないと知っているからだ…それを利用しようとしたが、あいつは否定した。…さて、あいつに謝り倒してデロデロに甘やかす前にこの無礼な女をどう処罰してやろうか……やっぱやめた、謝って甘やかすのを先にする!腕にひっつく女を剥がしてっと…
「マリア、すまない…騒ぐから念のためにと聞いただけなんだ。…俺のこと怒ってるだろ」
『…うん、そうだよ』
「俺のこと嫌いになっただろ」
『!嫌いじゃない…嫌いにならないよ…』
んんんんんん、ほらみろ可愛いだろ?俺にすり寄って、嫌いにならない…好きだよ…だってよ、可愛い極めすぎだろ~……はっ…もしかして俺、こいつに惚れてるのでは…?やられた!完全に絆されちまってる!…でも悪い気はしないな、俺はあいつに惚れている、あいつも俺が好き…ハッピーエンドじゃないか!!
『ねぇ…私のこと好きでしょ』
「は?…そうだな、手放せないぐらいには惚れてるよ」
完全にハッピーエンド!六年もいたせいで俺まで肯定するようになっちまったな、ずっと見てきたんだ癖が移ることだって仕方ないことだ!
あ、いそういえば隣国の王子が結婚するらしいな…相思相愛の婚約者と、すでに懐妊してるらしい…懐妊はともかく相思相愛で結婚か、俺もしたいな…相手はもちろん肯定癖のある俺の婚約者だ!!!
他の短編と少しつなげてみたりしちゃいました
ジーク
ある国の王子様、俺様気質で無意識に婚約者を溺愛している
マリア
王子様の婚約者、婚約が決まった時は何とも思ってなかったが次第に惹かれていきわかりにくいが王子様大好き。