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8話 ご馳走…いっぱい…

打ち上げ日当日僕と母さんはオードブルをリビングのテーブルに並べていた。

母さんはせっかく女の子になったんだから料理のひとつも覚えなさいと言ったので、不器用ながら手伝いをした。

父さんは仕事に行ってしまったけれど、前日に僕の大好物のタラバガニを買ってきてくれた。

食欲をそそるご馳走ばかりだけど、これから重大な暴露をするためヒロトと加奈子ちゃんに迎えることを思うと気が気でなかった。

まず、真面目な話をすることになるので母さんは僕の服装にもこだわった。

上品なフリルをあしらい、胸元に紺のリボンのついた純白のブラウスを着て、下には先端にレースのアクセントのついた膝丈までのスカートをはいている。

仕上げに夏美が僕に薄く化粧を施して完成となった。

まるでお屋敷に住む深窓の令嬢ねと喜んでいいんだか分からない感想をいただいた。

令嬢は令嬢でも父さんの職業柄一応僕は社長令嬢ということになるのだろうか?

着せられた服は上下合わせて千秋王国3年分の国家予算に匹敵する。

まさに令嬢仕様の価格なのであながち間違いではあるまい。

うっかり汚そうものなら母さんからどんな折檻が、もといセクハラがあるか分からない。

おぞましい想像をして身震いした。

時間まで撮影会を始めた二人を尻目に僕は緊張をまぎらわすため、どうでもよいことにつらつらと思いを馳せていた。

撮影会が一段落したところで玄関のチャイムが音を立てた。現実逃避していた僕の心臓が跳ね上がる。

僕は母さんと妹からがんばってと無言の声援を受け、意を決して玄関に向かった。


ドアを開けると二人とも並んで立っている。

二人とも僕の姿を見て鳩が豆鉄砲を食らったような表情だ。

僕の今の姿を見知って耐性のあったヒロトが先に声をかけた。

「大原さん?」

昨日咄嗟に名乗った偽名で呼ばれ、ヒロトを騙してしまったことに対する罪悪感が込み上げてくる。

僕はできるだけ笑顔を作って二人に声をかけた。ひきつってしまったけど。

「ヒロトさん、加奈子さんようこそいらっしゃいました。どうぞ中へ。」

「あ、ああ。ご丁寧にどうも」

肩をつつかれて正気を取り戻したらしい加奈子ちゃんがヒロトに続く。

おじゃましまーすと二人は声をあげて玄関に入った。



俺達は打ち上げがしたいという、千秋にしては珍しい提案を受けて彼の家に向かった。

電話越しでの千秋の声はずいぶん変わっていた。風邪をひいたりしていなければいいが……

玄関でチャイムを鳴らす。

「はぁい」と千秋にしてはソプラノよりの返事が聞こえてくる。

ドアが開き、顔を出したのは昨日会ったばかりの女の子だった。

予想だにしていなかった顔が出てきて俺は面食らう。

こういう時たいがい千秋が子犬のようにパタパタと駆け寄ってくるんだが。

加奈子は世にも美しい少女の姿に絶句している。

俺も最初は驚いた。せいぜい驚愕するがいい。

加奈子が復活したところで少女は俺達を玄関の中に案内した。

我に帰った加奈子が小声で俺に話しかけた。

「名前知ってたみたいだけど、あんな可愛い子、アンタいつ知り合ったのよ?」

「昨日ジュオンに買い物に行ったら、夏美ちゃんと一緒にいたんだよ。夏美ちゃんの友達らしいことしか俺は知らん。」

「ふーん。もしかしたら千秋の彼女かもね。」

加奈子がニヤけてそう言った。

女ってどうしてそんな飛躍した発想が出てくるんだと思ったが、

可能性はゼロではない。

もしそうなら残念だが千秋を応援してやろう。

そう思いつつ俺は少女の後に続いた。



「どうぞ、かけてください。」

僕はリビングのソファに二人を促して、まずは飲み物をとコップにペットボトルのお茶を注いでいく。

これから話すべきことを思い描いて、緊張で手が震えてきた。

武者震いってやつだ。

狂いそうになる手元を必死に抑えるが、力みすぎたのがよくなかったらしい。

「あ……」


指先の脂汗がペットボトルを滑らせ、お茶をヒロトの膝から腰にかけてまんべんなくこぼしてしまった。その拍子に肘があたってコップを倒してしまい、加奈子ちゃんの分に注いだ追加の液体がヒロトのズボンの中心部を盛大に濡らした。

「うお、つめたっ❗」

「あわわ、ごめんなさい❗」

僕は慌ててハンカチを取り出してヒロトのズボンをぬぐった。

「い、いや、大丈夫だ。自分でやるから。」

彼の言葉が耳に届かなくなっていた僕は最も濡れている彼のズボンの腰の部分の中心を拭いた。ハンカチの吸収量はすぐに限界を迎えたので、ティッシュを何枚も重ねてとって水分がなくなるまでその部分を拭う。ここはさすがに濡れちゃったら不快だよね。同じ男として理解できる。

水気が減少したおかげかヒロトのズボンが膨らんできた。

ティッシュ越しにズボンの硬さを感じた。

もっと拭いてあげないと。

ティッシュをさらに取ろうとしたところで、顔を真っ赤にしたヒロトが僕の両肩をがっちり掴んで僕の体を引き剥がした。

温厚なヒロトはまず滅多なことでは怒りを露にしない。

お気に入りのズボンだったのだろうか?

それなら彼の怒りももっともだ。

早速粗相をしてヒロトを怒らせてしまったことに僕は沈鬱な気持ちになった。






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