7話 世界とは悲劇なのか
モールでの長い1日が終わり、僕は家に到着するなり、頭を抱えてフローリングの床を転がった。
やらかした!ヒロトに思いっきり別人のフリしちゃったよ!よりによって夏美の女友達の演技までしてしまった。
義理堅いヒロトのことだ。
休日はよく僕の手伝いに来てくれていたし、そう遠くない内にやってくるだろう。
あああ、どうしよう。どうしよう。
友達の少ない僕が同じ高校に通う予定のヒロトまで失ったらきっと孤立してしまう。
自分から声はかけられないのに孤立するのはイヤ。我ながらなんてめんどくさい男なのだろう。
もう既に一生分の醜態をさらしたというのに。
考えうる限り最悪の展開を予想してしまう。
頭上から見下ろす二つの呆れた視線が僕に突き刺さる。
モールでヒロトに会ったことは夏美経由で母さんの知るところとなった。
「お兄ちゃんって覚悟が決まると大胆だけど、それ以外はとことんヘタレだよね。」
「でもそこがこの娘の可愛いところなのよ。」
言葉の刃が僕をザクザクと切りつける。
自業自得なのだから尚更痛い言葉だった。。
もはや僕一人で解決できる領域を離脱している。
居住まいを正した僕は二人に土下座した。
「助けてください!何でもします!スカートだっていやいやはいたりしません!どうか!愚かな私目に知恵を授けて下さい。」
二人はやれやれねと言わんばかりに肩を竦めた。
「分かったわ。それじゃあ明日ヒロト君を招待しましょう。加奈子ちゃんもね。受験の合格の打ち上げってことにして。詳細は母さん達がプロデュース……じゃなかった。考えてあげるわ。その代わり何でもするって言ったんだから素直に言うことを聞くように。」
母さんは妙に優しい微笑みを浮かべて言った。
後から思い返せば、この時の二人の表情はボロい契約を結んだメフィストフェレスとその使い魔の微笑みと大差なかっただろう。