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41話デートその2 お茶の間を凍りつかせるアレ

本日の侵入成績

双特使い達の友情チェインに挟まれ

あっけなく死亡。

映画の出来は僕がこれまでに観てきたものの中で最高の出来映えだった。

映画宣伝のテレビCMが流れるたび、サクラ?の人が大げさに作品を賞賛しているのを見て、かえって興味が冷めてしまうなんてことがあった。

しかし、この作品に関してはたとえ仕事抜きでも大変に素晴らしいと声を大にして言いたい。

最初こそ『寝てしまったらすまん』なんて見る前から謝っていたヒロトも食い入るようにして見入っている。

本当によいものは万人の心に響くものなのだ。

僕のお気に入りの作家さんの作品がヒロトに評価されているのが誇らしい気持ちになる。

今度原作小説を貸してあげよう。

その内ミッチリと語り合いたい。


物語はやがて佳境を迎え、主人公の女性が意中の男性からプロポーズされるシーンに及んだ。

プロポーズを受け入れ男性に優しく口づけする主人公。

感動的なシーンに涙腺を抑えられず涙が零れた。

この気持ちをヒロトと共有したくて、かといって館内で声を出すことはできないので、とりあえず手を握ることにした。

想いよ届け。

長年の友情は言葉など解さなくても伝わるものなのだ。

きっと。

隣のヒロトがギョっとしてこちらを向くが、涙に濡れた僕の顔を見てそのままスクリーンに視線を戻した。

驚かせてしまったあたり、想いの送信は失敗に終わったらしい。

ここは人が多い、電波状況がよくないのだ。

ならば通じるまでひたすら握り続けるまでよ。

リンゴを粉砕して己の筋肉をアピールするビルダーのごとく。

さあ、主人公がキスを交わしてから場面が変わるぞ。

プロポーズを受け入いれてからの原作の流れは結婚式だった。

この映画はこれまで原作に忠実にストーリーをなぞってきている。

だが、次のシーンに変わった時、僕は我が目を疑った。

隠すべきところはしっかり隠れているのだが、結ばれた主人公と男性が裸で激しくベッドでまぐわいはじめた。


結ばれた男女が必然的に行う行為

愛の営み

子作り


そのぐらい僕だって知っている。

問題なのは、原作にこんなシーン一行たりとも描写されていないということだ。

なぜオリジナルの展開が追加されているのか?

昔たまたまアニメで見た格言を思い出した。


『キングのデュエルはエンターテイメントでなければならない。』


なるほど、映画もエンターテイメントだ。

最高の作品(キング)であればなおさらエンターテイメント性が要求される。

時には人の劣情を刺激するサービスも必要なのだろう。

きっと原作者さんは涙を飲んでこのシーンが追加されるのを受け入れたに違いない。

カネを出しているのはスポンサー様なのだ。

総理のご意向というやつだ。

とはいえ、主演の女優も男優も誰もが知る超有名芸能人だ、お客さんは彼らのきわどいシーンのためにここに足を運んでいるのではないかといらぬ邪推をしてしまう。

この気まずい光景を、周りの観客はポップコーンとジュース片手に『これぐらい当然っしょ』と言わんばかりに平然と眺めている。

しかし、僕はベッドシーンを見ながら食欲を満たせるほど図太くできていない。

映画館故のスクリーンの臨場感と迫真の演技、女優の嬌声でいたたまれない気持ちだ。

皆の神経の太さに驚嘆するばかりである。

これが我が家のお茶の間であったなら母さんと夏美から弄られコース間違いなしだけど、ヒロトは僕を茶化したりしないから安心できる。

ヒロト?

ふと僕は彼の手を握ったままだったことに気づいた。

手のひらに感覚が戻ってきてじっと汗ばむ。

もし、今手を離したりしたら僕がこのシーンを意識しているとヒロトに察知されかねない。

そうなると原作小説をヒロトに貸して話題を共有するという僕の計画が破綻してしまう。

『お前は官能小説を俺に貸すつもりなのか?』と言われようものなら立ち直れないだろう。布教どころの話ではない。


その手の……え、えっちな本とか堂々と教室で貸し借りする男子がいるのは知ってるけど、僕達はそんな関係ではないのだ。

小説を貸すとき原作にありもしないベッドシーンに触れられるのはもっとイヤだ。

だから、この手を離さない。僕の魂ごと切り離してしまう気がするから。

指先がしっとりしてきた。

握力を強くしても弱くしても察知されそうで下手に動くこともできない。

ええい、まだ終わらないのか!

いつまで抱き合って唇を貪りあっている!

いくらなんでも長すぎるだろが!!

内心の焦りが指先に伝わってしまったらしい。

ヒロトの拳に被せていた僕の手が滑り、

バランスを崩して思いっきり前につんのめる。

体を起こした瞬間お互いの視線が交錯した。

逃げることなどかなわないほど凝視されている。

間が持たない。

弁明しようとして声を出せばヒロトはおろか、周りの観客にも注目されるだろう。

僕にできることは陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせることだけだ。

ヒロトは『分かってる心配するな。』と言いたげに目を伏せた。


うわあああああああ!!!!!

ヒロトにエッチなやつだと思われたらどうしよう!?

なんで、そこまで大人な態度がとれるんだよう……

もしかしてヒロトも他の観客同様この程度のことは歯牙にもかけないのだろうか。

それもそうか、ヒロトモテるもん。

相手なんてこの先いくらでもいるだろうから余裕があるのだ。

じゃあ僕もいつか映画の中の男女のように経験する日がくるんだろうか……?

こ、子作りを……?

生理だってきたし、僕の体は立派に準備できてるんだよね。

決して邪な目で見てはいけない。

子供を産み育てるのは少子化が加速する日本では重要な課題なのだから。

僕はエッチではない。


仮に……もし、結婚することになったら子供は男の子と女の子一人ずつがいいな。

子供に多くは望まない。ただ、元気でいてくれれば。

ヒロトだったらきっといいお父さんになるよ。

週末は子供とパパと手を繋いでお出かけしたり……

その内3人目もなんて相談したり……

ああああ!!!!

結婚なんてまだ早いよ!というかなんでヒロト!?

あまりにあんまりな妄想に映画の感動など、どこか彼方へ吹き飛んでしまった。

結局エンドロールまで内容などロクに頭に入らないまま館内を後にする羽目になった。


館内通路で座りぱなしだった体をほぐす。

後半の緊張で筋肉はすっかりカチカチだった。

脱力感がして頭がぼーっとする。

背伸びをしたヒロトが声を発した。


「なあ、これから体を動かしに行かないか?長時間座ってたもんだからシたくなってきた。」


体を動かすって、これから?

したくなるって何を?

映画の中で激しくベッドで体を動かし絡み合う男女を連想した。

僕としたいの?アレを?

ヒロトだって男の子だもん、興味あるよね……

でもこういうのは以前ヒロトが言ったように段階を踏んでから、

……!?

そうじゃない!!僕達まだ高校生!そもそも親友!男同士!

子供作れるけど……


「ダメッ!ダメなんだから!僕達にはまだ早いよ!とにかくダメー!!」

「早いって何がだ?」


みなまで言わせる気!?


「1Fのスーパー銭湯に卓球台があるからやりたいって言いたかったんだかったんだが……」


「へ?」

目が点になる。

あー、卓球で体を動かしたいってことね。

さすがスポーツマン、肉体の強化に余念がない。

そういうことね。知ってたわー。


「あははは、卓球だよね。

 分かってたよウン。僕が親友のやりたいことを理解できないなんてことあるわけないじゃないか。」

「その前に何か誤解があったようなんだが、何をするつもりでいたんだ?」


いつもは疑問に思ってもあっさり流すヒロトがなぜそこに食いつく!?

こうなったら、こうなったら、


「し……」

「し?」

「知らないよ!ヒロトのバカーーー!!!!」


理不尽な怒りで誤魔化すしかなかった。

後で謝ろう……。









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