表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/52

32話 はじめてからだナビ

僕が尊敬する師、二ノ宮尊徳先生は夏に食べた茄子の味が秋茄子の味がしたというヒントだけで冷夏を予測し、寒さに強いヒエを植えさせ、歴史的な飢饉から救ったという逸話がある。



何でこんな話をするかって?

この逸話が教えてくれるのは、ささいなことでも見逃さず、想像力を働かせろということなのだ。


僕もこの話を知った時は彼の成した偉業に素直に敬服したけれど、それが実践できるかどうかはまた別の話なのだ。


だから、結論から言おう。


僕は失敗した。


何が失敗したのか?

それは僕が知らぬうちに作ったシーツの赤い染みをご覧になっていただければ賢明な皆様にもご理解いただけると思う。

やっぱり見ないでください。

話を聞くだけに留めてください。

そろそろだとは思ってた。


この体になってから大体一ヶ月経過したのだ。


女の子は旅行なんかの日に限ってホルモンバランスが崩れて、きてしまうことがあると、母さんや夏美から教わってはいた。

僕の場合、旅行から帰ってきたことで緊張の糸が切れてしまったんだろうね。


母さんは毎日基礎体温を測れなんて言ってたけど、そんな習慣身に付かなかった。

正直女の子舐めてました。

それに僕はその、軽い方なのだろう、自覚があるほどの精神的、あるいは肉体的な変調が事前に起こることがなかったのだ。


したがって僕はこの事態を予見できず、溢れだした血液はパンツから漏れ、パジャマのズボンを貫通し、シーツを汚しているというわけだ。


さて、時刻は午前9時。

いつもなら6時に起き出して部屋の鉢植えに水をやり、家庭菜園の様子を見に行っている。

旅の疲れもあってか、完全に寝過ごしてしまったのだ。


いつも朝の早い僕が起き出してこないとなると、家族が様子を見に来るだろう。


つまり、僕にこの状況を解決するための時間は残りわずかだ。


明らかに粗相してしまっている下腹部を見おろす。


自分の体から出てきたものとはいえ、ベタベタして気持ち悪かった。


とりあえず、今歩きまわったりすれば床にも赤黒い染みを作ることは必至だ。


パジャマのズボンとパンツを脱いで下半身裸になる。

脱いだものは汚れた部分が下にならないよう畳んで洗濯カゴへ。

学習机の上のノンアルコールウエットティッシュを取り、中身を5枚ぐらいひっこぬく。

これだけ大量の血液、直視していると頭がくらくらしてくる。

ウエットティッシュ越しに触れる血の感触は気持ち悪いが我慢する。

結局計10枚近くのティッシュを消費して僕の下半身はキレイになった。

だが、この後も中から新しいオリモノがでてくるだろう。

僕は購入してから学習机の上にずっと放置されてきた生理ナプキンに手を伸ばした。

薄いビニールの包装に包まれたそれに指を指し込んで破る。

中身を取り出して目の前にぶら下げてみた。

どうやって使うんだったっけ?

過去に母さんからレクチャーされたが忘れていたので、パッケージを再び手に取り説明のイラストに目を通す。

なるほど、コンビニのおにぎりのパッケージを剥く要領だな。

使い方は理解した。

ならばナプキンをセットするため、パンツを取りに行かないと。

ベッドを下りて、タンスを漁ろうとしたその時だった。

非情にもドアがノックされる音が響いた。


女家族というのはなぜノックはするのにこちらの返事を聞かずに入ってくるのか。


「おにーーっちゃん!朝だよ♪」


十分な睡眠をとって元気いっぱいになった夏美が部屋に押し入ってきた。

だが一見してスプラッタな僕の部屋と僕自身の惨状を見て、事態を一瞬で理解したらしい。


「おめでとうございます。お姉ちゃん。」


夏美は背筋を正して厳かに言った。

だが、この場にいるのは妹の前で下半身を丸出しにした兄だ。


「夏美」

「なあに?お姉ちゃん」

「部屋から出ていってくんないかな?」

「え?お姉ちゃんが困ってたらアタシ手伝うよ?」

「いらないよ。頭を冷やす時間の方が欲しいよ。」

「そんなあ、お姉ちゃんの『初めて』をアタシがリードしてあげようと思ったのに。」


夏美はしぶしぶといった様子で部屋を出ていった。

さて、ぼやぼやしていると母さん(狂った闇霊)も侵入しかねない。

母さんに生まれたままの状態の下半身など見られたくないのだ。

最悪汚れても妥協できるパンツにナプキンをセットして僕はパンツに足を通した。

パンツの中の嵩が増したことによる違和感が甚だしい。

その内慣れるさと自分に言い聞かせて、汚れたシーツと衣類を洗濯すべく僕は部屋を出ることにした。



経血で汚れたシーツにパンツ、パジャマを洗うのは難航した。

母さんの指導によって、たらいにぬるま湯を用意し、ランジェリー用洗剤で手洗いをする。

これが専用洗剤でも中々に落ちないのだ。

時間が経ちすぎてしまったのが主な原因だろう。

パジャマは元々の色があるから目立たないにしても、パンツとシーツはシミになってしまった。

このシミを見るたびに僕は初めてのことを思い出すんだろうな……

生理で憂鬱になる女の子は多いっていうけど、僕もその例に漏れないようです。


洗濯を済ませて自室に戻るとスマホが丁度良いタイミングで振動した。

メッセージアプリを立ち上げると、加奈子ちゃんから連絡が入っていた。


『学校の課題今日で済ませようと思うんだけど、千秋今日は予定ある?』


ふむ、確かに3日間遊んでたから課題は手つかずだ。

加奈子ちゃんのお誘いはありがたいところだ。

しかし、ただいま僕は絶賛生理中。

ここは僕の家にお招きするのが正しい選択だろう。


『予定はないから一緒にやろうよ。僕の家でいい?』

『いいわよ。ヒロトも誘う?』


ヒロトか……

はっきり言ってヒロトには僕が生理中であることは絶対に知られたくない。

加奈子ちゃんであればまだマシだ。

この先学校でこういう問題に直面して相談することもあるだろうし。

ともかく今はヒロトだけは駄目だ。

普通にしていれば生理かどうかなんて他の人には分からないらしいんだけど、

たびたびオリモノの対処でトイレに立っていたらそれはそれで気まずい。

今となっては同性の加奈子ちゃんの方は理解があるので

ここはヒロトには悪いが声をかけないでおこう。

えーとどんな文面がいいかな……

ストレートにいけばいいか。

小細工を弄すると後で痛い目を見そうだ。


『今日は加奈子ちゃんと2人きりがいいんだけど駄目かな?』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ