25話 計画
しょうせ昼休み。加奈子ちゃんとお弁当を食べながら僕はきりだした。
「ねえ、加奈子ちゃんはゴールデンウイークって予定あったりするかな?」
「今のところはないわね。うちの家族も家でゆっくりするつもりだって聞いたわ。」
「よかった。GW初日から3日間の休日なんだけど、山に行かない?」
「へえ、どこの山?」
「おじいちゃんが所有する山でね。えっとここ。」
僕はスマホを操作して地図アプリを立ち上げ、加奈子ちゃんに見せた。
「僕らの町からだと電車で1時間半、バスで15分、歩いて15分程でちょうど2時間ぐらいの距離だね。ちょっと遠いけど、どうかな?」
「それは問題ないわよ千秋と電車でのんびりお出かけもなかなか悪くないじゃない。って距離はともかく千秋のおじいちゃん山なんて持ってんの!?」
「うん、昔から相続してきた山で、おじいちゃん自身もかなりのお金持ちらしいから税金を払ってても余裕があるんだって。」
株式の配当で維持しているらしいと父さんから聞いたことある。
「私のような庶民には遠い世界の話ね……」
「僕にも遠い世界だよ。それでね、おじいちゃんはその山にペンションを持ってて、GW中遊びにこないかって連絡が来たんだ。」
「なるほどね。」
「どうかな?」
「絶対行く。仮に他に予定が入ってても全部キャンセルしてでも行く。」
「ほんと!?やった♪もうすぐ観光のオンシーズンで初日の午前中はペンションの掃除の手伝いをすることになってるけど、加奈子ちゃんはお客さんだからゆっくりしててね。」
「水臭いこと言わない。お世話になる以上私も手伝うわよ。それより……」
それより?
「千秋と2人で行くことになるわけ?」
「ヒロトも誘うつもりだよ。GW中は暇らしいから。」
「そっか、そうよね…………馬鹿」
「……?何か言った?」
「なんでもないわよ。」
「じゃあ今度の日曜日にヒロトも入れて相談しようよ。」
「分かったわ。楽しみね。」
というわけで日曜日、僕が久しぶりにヒロトの家に行きたいと主張したので、集合場所はヒロトの家となった。
途中で合流した加奈子ちゃんと並んで玄関に向かうと、ヒロトが祖先不明雑種の大型犬タロにエサをやっているところだった。
飼い主に似て精悍なイケメンの犬なんだけど、エサを前にして相好を崩した顔はすっごくかわいい!
「おはようヒロト。」
「よう、千秋に加奈子。すまん、エサの時間が終わるまでちょっと待っててくれるか?」
「えっと、タロに触りたいんだけどダメかな?」
「はは。そんなことで遠慮しなくていいぞ。タロもそんな心の狭いヤツじゃない。」
夢中でエサを食べていたタロは満足すると、今度は、遊んでくれるの?遊んでくれるの?と尻尾を激しく振ってこちらに近づいてきた。
こんな姿になっちゃったけど、タロは僕を分かってくれているのだろうか。
僕からも接近すると、タロは立ち上がってのしかかってきた。
タロは立ち上がると僕の首くらいの位置に顔があった。
新しい遊び相手に大興奮の様子だ。
僕まで楽しくなってくる。
タロの体を支えているとベロベロと頬を舐めてきた。
「あははは、こいつめ。」
タロのスキンシップに僕も負けじと毛並みをわしゃわしゃと撫でる。
しばらく撫でていたら、タロの体重を支えるのがつらくなってきたので、今度はしゃがんで頭を撫でることにした。
しかし、僕はイタズラ好きなタロのことを甘く見ていたのかもしれない。
タロは僕のスカートの中に頭を突っ込んできた。
「わ、ちょっと!?そこはダメだよ!きゃっ!」
そして、そのまま僕の太ももを舐めまわす。
「あははは♪くすぐったいよ♪ダメだって♪んっ、もう♪」
「こんのエロ犬!私の千秋から離れなさいよ!」
顔を真っ赤にさせた加奈子ちゃんがタロを引き剥がしにかかった。動物のすることなんだからそんなに怒ることないのに。
が、タロにとっては遊び相手が増えたぐらいの認識にすぎないらしく、今度は加奈子ちゃんにのしかかってきた。
突然のタロの動きに加奈子ちゃんは対応できず尻もちをついてしまう。
タロはキミも遊んでくれるの?って視線で訴えてきている。
家族以外の遊び相手に飢えていたのだろう。
加奈子ちゃんの返事を聞くまでもなく、その頬をベロベロ舐めた。
「こら!やめなさいよ!あ……そこは弱いんだって!やめて!あんっ千秋見ないで!」
加奈子ちゃんは脱出しようともがいているが、うまくマウントをとられているため逃げられない。
タロは加奈子ちゃんの頬を満足するまで舐めた。
「ヒロト!アンタ飼い主なんだからタロの粗相ぐらい止めなさいよ!……まったく、タロに似てスケベなんだから。」
「す、すまん……」
加奈子ちゃんに叱られてヒロトはしょんぼりしている。ヒロトが謝る要素があったようには思えないんだけどなあ。
加奈子ちゃんもタロと戯れてる時楽しそうだったし。
気を取り直してGWの計画を立てるため、家の中に入る。
「とりあえず、洗面所借りるわよ。顔、涎まみれだし。あ、あと千秋はシャワー借りちゃいなさい。足べとべとでしょ?」
「うん。ヒロトいいかな?」
「ああ、もちろんだ。使ってくれ。」
ヒロトの家は洗面所と脱衣所が一体となっている。
僕は加奈子ちゃんが顔を洗い終えるのを待ってから、服を脱いで、バスルームに入った。
涎まみれになっていた顔と足を洗い流していると、バスルームのドアのすりガラス越しに人影が映った。
シルエットからするとヒロトかな?
「すまん、千秋。バスタオル忘れてた。ここに置いとくから。」
ヒロトで合っていたようだ。
お礼を言おうと思い、ドアに近づいて、少し開き、隙間から顔を出す。
「ありがとうヒロト。もう少しで行くからちょっと待っててね。」
「ああ。分かったから……っ!?千秋!ドアから離れてくれ!……透けて見えるから。」
「へ?」
すりガラスにゆっくり視線を移すと僕の体が若干透けて見えていた。
「ご、ごめんね!」
僕が謝る頃にはヒロトは既に背を向けて洗面所を出て行ったところだった。
細部の見えないすりガラス越しとはいえヒロトに裸見られちゃった。
……恥ずかしい。
僕が戻ったことで、早速会議が始まった。
まずはペンションまでのルートを調べる。
電車とバスの乗り継ぎや降車駅、時間を確認していく。
おじいちゃんは営業の状況をブログで紹介していて、バス停からの徒歩でのアクセスも載せていた。
「やけに凝ったデザインのブログね……お年寄りが作ったものとは思えない。」
「なんでも現役時代はかなり多忙なビジネスマンだったそうで、時間を短縮するためなら、最新のツールの扱いを覚えることは必須だって聞いたよ。」
「へえ。」
最新機器に抵抗感を覚えるお年寄りの方は多いけど、おじいちゃんは道具は道具と割り切って使う人だ。
でなければ今の財産を守り、増やしていくことはできなかったのだろう。
「脱線しちゃったわね。それで、経路は把握したけど、何をして過ごすか決まってる?」
「初日の午前中は一度加奈子ちゃんには説明したけどペンションの掃除だね。男手が足りないみたいで、ヒロトには力仕事を頼みたいんだけど大丈夫かな?」
「部活が休みだからな。力仕事は大歓迎だ。」
「ありがとう。掃除の後は自由だから、山歩きもいいし、川で釣りもできるんだって。諸々必要な道具は貸してくれるそうだから準備も不要だって。僕としては山菜とキノコ採りを推したいですっ!」
「はは、千秋らしいな」
「ほんと植物馬鹿ね。キノコは植物じゃないから、菌類馬鹿でもあるわけか。」
「えへへ、それほどでも。あ、それとペンションから自転車で15分程山を下ると観光地になってて、色んなお店やお土産屋さんもあるから、最終日に寄って行くのもいいよね。」
そうして僕達は当日やりたいことをどんどん決めていく。
当日も楽しいことは間違いないけど、こういうのって計画してる時が一番楽しいよね。
わくわくしながら加奈子ちゃんとヒロトの家を出る頃にはタロはお昼寝と洒落込んでいた。




