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番外?3

「千秋、今日は買い食いするわよ。」


放課後園芸部の活動を終え、加奈子ちゃんが唐突に言い出した。

どうでもいい情報だが、先輩方はこれから男の子のつまみ食いに行くんだそうだ。お盛んなことである。

買い食いね。珍しい発言が出てきたものだ。


「いいけど。どうして買い食いがしたいの?」

「ほら、中学って放課後の買い食いを禁止する謎の校則があったじゃない。」


うん、あったね。先生に発覚すれば生徒指導室に呼び出され、反省文を書かされるという重い処罰が科される理不尽な校則が。

思えば中学って謎の校則多いよね。

高校になってから急に弛くなったので、驚いたぐらいだ。高校生なんだから自己責任で対処せよってことなんだろう。

まあ、中学の頃、買い食い禁止なんて校則わざわざ破ろうと思ったこともないからあってもなくても僕には一緒だったな。

しかし、加奈子ちゃんにとってはフラストレーションの溜まる校則だったのか、提案してきたというわけだ。


帰宅する生徒達に混じって加奈子ちゃんと並んで歩く。


「それでどこか行きたいアテでもあるの?」

「商店街のクレープ屋さん行きましょ。」


クレープか……いいね。

夏美と一緒じゃないと男1人では近づくことも出来なかったお店だ。

どちらかというと甘党な僕にはうれしいお誘いだ。


「異議なし!僕も食べたいです!」

「よろしい。ならば買い食いだ。さ、急ぎましょ。お店が閉まっちゃうわ。」


5分後、僕達は商店街に到着した。

最近、良い思い出も悪い思い出もあった場所だ。

ここは良い思い出を重ねて悪い印象を払拭するチャンスだ。何食べようかな♪


目当てのクレープ屋さんは女の子達で賑わっていた。

同じ学校の子もいるし、会社帰りのOLさんまでいる。

あ、母校の中学の女の子達もいる。堂々とクレープにパクついているので、校則が変わったのだろう。

厳しい謎の校則が非難を浴びてレギュレーションが変わるのはよくある話だ。

加奈子ちゃんも後1年遅く産まれていれば良かったのにね。


僕達は列に並んで順番を待った。

看板のメニューを見てどれにするか選ぶのが楽しい。オラ、ワクワクしてきたぞ!


「千秋、アンタ……言い出しっぺの私より楽しそうね。」

「へ?」

顔に出てしまっていたか。

「甘いものは好きだけど、こういう店はいりづらかったし。それに……」


ほら。と最前列にいる男子高校生を指した。

彼は1人で並んでいる。

隣に彼女がいるというわけでもないソロプレイヤーだ。

これまで彼は前後に女の子のグループしかいないという居心地の悪さを味わっているように見えた。

そんな試練を乗り越えた彼はようやくお店のお姉さんからクレープを受けとることができた。ポイントカードに判子までもらっている。

よっぽどクレープが好きなのだろう、受け取ったクレープはトッピングマシマシのゴージャスなものだった。

彼はお店の傍で落ち着きなく平らげ、背中を丸めてそそくさと立ち去っていった。

哀愁の漂う背中だった。


「僕は彼のような真の勇者にはなれなかったんだよ。」

「男って大変ね」

加奈子ちゃんはそんな勇者の偉業を一言で片付けた。

「それより千秋は何にするか決まった?」

「ストロベリークリームかチョコクリームかで悩んでる。アイスものっけようかな?加奈子ちゃんは?」

「私はチョコバナナにするわ。それと千秋、アイスはやめときなさい。アンタのことだから落としても知らないわよ?」

「むぅ……」

周囲を見てみると、溶けたアイスがクレープのお尻の部分から漏れてしまい、狼狽している女の子がいる。制服汚したら母さん怒りそうだな。

「……アイスはやめとくよ。」

「それが賢明よ。」


さて、僕達の順番が回ってきた。

「私はチョコバナナで。千秋は?」

「あ、僕はストロベリークリームでお願いします。」

かしこまりましたーとお店のお姉さんが返事をして生地を焼き始める。

ものの数分で二人分ができあがり、僕達はクレープを持って少し移動する。

おお!美味しそうだ。

辛抱できなくなって僕はクレープにかぶりつく。

「ナニコレ!すごく美味しいっ♪」

この体になってから甘いものがより美味しく感じられるようになった気がする。


「へえ、一口味見させてよ。ほら、私のも味見していいから。」

二人いればそれぞれ別の味も堪能できる!

なんて素晴らしいんだろう。

加奈子ちゃんのもチョコレートが濃厚でバナナのまろやかさによく合っている。

あ、チョコが垂れちゃう……

加奈子ちゃんの死角から垂れてきているので僕がフォローしなければ。

制服のポケットに手をいれてハンカチを取り出す。

が、ハンカチはひらりと僕の指を離れ、地面に落下した。

一度地面に落ちたハンカチで食べ物を拭くのは問題外だろう。どうするか……あ、垂れる!垂れちゃう!

僕は咄嗟の判断で加奈子ちゃんのクレープに唇を近づけた。垂れそうになっていたチョコレートを舐める。

既に味見で間接キスみたいなことをしてしまっているので問題ないだろう。

あ、ここも垂れそうだ。加奈子ちゃんの指についちゃう。再び僕は舌を伸ばす。


「ちょ!ちょっと!千秋!私の指まで舐めてる! 千秋が私の指を……?やだっ!変な気持ちになるっ……あっ!あんっ!あっ…………もっと……!すご……いいっ……あ……。」


よし、チョコレートが垂れてるところはなさそうだ。よかった。

ごめんね。急に舐めちゃってと加奈子ちゃんに謝ろうとして僕は顔を上げた。

そこには頬を真っ赤に上気させ、扇情的な、女の顔をした加奈子ちゃんがいた。

目は潤んでいて、熱い吐息を吐いている。

それは僕が今までに一度も見たことのない表情だった。

加奈子ちゃんは僕の視線に気がつくと、ボッと発熱したようになって顔をさらに赤らめた。

「えと、その、ごめんね。」

「え、ええ。千秋もありがとね……」


僕達は黙ってクレープにかぶりついた。


食べ終わる頃には加奈子ちゃんは恥ずかしさが引いたのか元気に戻っていた。


「美味しかったわね。また今度食べに行きましょ。」

「うん、喜んで!」

「それはそうと千秋。ほっぺたにチョコついてる。」

え?どこ?っと探すが、鏡もないのに分かるわけがない。加奈子ちゃんのクレープを舐めた時についたであろうことしか。

すると加奈子ちゃんは僕の頬に唇を近づけて舌で舐めた。

予想しなかった加奈子ちゃんの行為に、全身に電流を流し込まれたような衝撃が走った。

加奈子ちゃんは顔を離すと

「さっきのお返しよ。」

とふっと笑った。


「……!」

今度は僕が恥ずかしさで赤面する番になったのであった。



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