8話 散歩道で出会った『召魔士』と、ひとつ屋根の下?!
「あらお帰り、驚いた? セフィーヌ様が滞在する間はここの屋敷を使ってくれって事だから、今日からこの子とお世話になりまーす!!」
そこには昼に町の外で出会った召魔士のマルカと俺を吹き飛ばした特級魔物が出迎えてくれた。
「お世話になるって……この魔物は危険じゃないのか? ミーシャが吹き飛ばされたらどうするんだよ」
「大丈夫大丈夫!! この子は臆病なだけだから、慣れれば大人しいのよ」
いや、慣れればって……それにしても、昼見た時よりだいぶ小さくなってるって事は大きさも自由に変えたり出来るのか!? 召喚魔って意外と便利なんだな。
「ヨシト、お帰りなさい、事情はマルカ様から聞きましたか? それと、お風呂の準備は出来ていますので上がり次第食事に致しますね」
「ありがとう、いつも助かるよ! じゃ、行ってきます」
完璧だ、完璧なメイドだ、この疲れた体と心を癒してくれるのはミーシャしかいない……いっそマジで嫁に欲しいぐらいだ。何考えてんだ俺、さっさと一風呂浴びてこよう。
「待って!! この子も一緒に入れてくれる?」
「え、コイツと一緒に!?」
「プキュ」
「コイツって言わないでよ、ちゃんとプリマって名前があるんだから! 頼むわね、私はミーシャの手伝いをしてるから」
「おい、ちょ待てよ」
行っちまった、でも何か俺、今キムタカっぽかったな! そんな事より困ったぞ……これも裸の付き合いってヤツか? まぁ、プリマは元から服着てないんだけどな。いつもは一人風呂だから、たまにはこんなのも良いかも。ってか魔物と風呂なんて初めてだろ、まずどこ洗えばいんだよ!! それより言葉知らないし、コミュニケーションが取れないのが問題だろ。そんな事を考えながら俺とプリマは風呂場に向かった。プリマは魔物だが大人しくペタペタと後ろをついて来るとこを見ると、臆病って聞いたが案外人懐っこくて見た目も可愛いヤツだ。何だか愛着が湧いて来る。
「よーし、んじゃまず足? ってか下? の泥を洗い流すぞ」
「プキュ? ……キューッ!!」
俺はプリマにお湯を掛けてやったんだが、気がつくと浴槽にダイブしていた。そうだ、また吹き飛ばされたみたいだ。広い風呂で実に良かったぜ、驚いたのか? いきなりお湯を掛けたのがいけなかったのだろうか!? 俺はちゃんと流すぞって言ったんだが。それより鼻にお湯が入ってきて激痛が、この感じ学生時代のプール授業以来だな。
「ちょっと!? 何今の音、プリマは大丈夫なの?」
「俺は鼻にダメージを負ったが、プリマは問題ないぞ」
今の音に驚いたマルカがドア越しに様子を聞きに来た様だ。
「ゴメン言い忘れてたけど、いきなりお湯掛けたりしたらビックリしちゃうから、最初は水を掛けてあげてね! って、その調子じゃもう遅かったみたいだけど」
「それを先に言ってくれよ! 最初は水からって、召喚魔も世話するのに結構手が掛かるんだな、普段から風呂に入れるときはそうしてるのか?」
「いや、私の家はお風呂が小さいから入れてあげられないの、だから普段は魔法で綺麗にしてあげてるのよ! プリマが問題無さそうなら私は手伝いに戻るわね、そろそろ食事の準備ができるわよ」
ハァ? 魔法で綺麗に出来るのかよ!! それなら最初からそうしてくれよ……でも、何か吹っ飛ばされるのも慣れたし、手の掛かる子ほど愛着湧くよな、うんうん。少しは俺の心配もして欲しいとこだが、ちゃっちゃとプリマを洗ってあげて晩飯食って今日は寝るとするか。明日は一人で魔物狩りしてレベル上げたいからな。
プリマはお湯に慣れたのか大人しくなり、俺と一緒に浴槽に浸かって百の数字を数えた頃にはすっかり俺に懐いていた。やけに静か過ぎると思っていたが、どうやらのぼせてしまったらしく、風呂から上がったらマルカにこっ酷く叱られたよ……気付いてやれなくてゴメンな、でも仕方ないだろ、言葉もわからないし。
夕食はいつも通りの和食、ここの屋敷では和食しか口にしてないんだが、他のレパートリーはないのかな? いや、居候の分際で文句は言うもんじゃないだろ。それと俺が気になっていたプリマの飯はと言うと、召喚主の魔力を吸うらしい。特級魔クラスだと一回の食事でかなりの魔力を消費するみたいだが、マルカはいたって平然としている……って事は、見かけによらずとんでもない魔力を秘めてるって事かよ。
食事も終えて俺はベッドで考える。
明日は今日と同じ場所で魔光集めしてからレベル上げるって予定だ。って事はレベルが上がると同時にスキルポイントも獲得出来るんだよな? それを魔力に振ったら俺も魔法使いや召魔士になれるのだろうか。やっぱり異世界だし俺も魔法とか使ってみたいよな、でも確か魔法適正ゼロだったはず……とりあえずレベル上げてもらう時にでも聞いてみるとしよう。ただでさえ現実離れしてる現実の世界だから人間の俺にも少しは希望が見えてくるかもしれないだろ。
気付けば俺はいつもの様に爆睡していたんだが今日の朝は少し、いやかなり体が重く感じる。疲れが溜まって来てるのだと思い、目を開けると。
「プキューッ!」
「……原因はお前だったのか」
どうやらマルカの指示で俺を起こしに来たらしい。プリマは俺を起こすと満足気な表情を浮かべ、ペタペタと部屋を出て行った。魔物からのモーニングコールも悪くはないんだが、出来れば毎日ミーシャからの方が。それにしてもテツさんは色々な物を発明したみたいだが、目覚ましは発明してないのか? 結構重要だと思うんだけど。
そんなこんなで朝を迎え、朝食も済ませた俺はフリードと散歩した道に向かった。
魔物狩りって言うか魔光集め? に行くって言ってもな、どのくらい集めりゃいんだよ。だいたい一回の戦闘ってか、あの魔物を倒して一体幾つ魔光が手に入るんだ? フリードかマルカに聞いときゃ良かったな。
しばらく町の外を歩いていると、舗装された道の脇に認識票が落ちていた。
これって確か、傭兵にとっては免許証みたいな大切な物だから落ちてたら拾って届けてくれって言われてたはず。どこの世界でもドジなヤツっているんだな、俺も財布、携帯とかは落とした事あるけど、流石にネックレスとか首から下げる系の物は落とした事無いぞ……仕方ないが大切な物って話だし、後で届けてやろうか。
認識票をポケットにしまい、先に進むと魔物様のお出ましだ。
今日の魔物は昨日と違って少しデカイヤツだったが、一人でも何とかなるだろう。
俺は剣を力一杯握り、魔物に向かって突き刺さそうとしたんだが……