5話 まずは『『装備』を揃えます
「お前、年頃の女の子にアレのサインしたのか?!」
「アレのサインってなんだ?俺はただ親指立てて挨拶しただけだ」
「そいつはマズイぞ!! 親指ってのはお父さん指だ、それを立てるって事はだな……」
勿体ぶらずに言ってくれ。俺がミーシャにしたハンドサインはこの世界ではどんな意味があるのかは知らないが、元の世界ではグッドサインだ。
「お父さんになりたいから、子供を作ろうって意味だ」
なん……だと、少なくともあとひと月はあの屋敷で世話になる予定だ、それなのに俺は初日から大胆にかましたって訳かよ。だからあんなに顔が赤くなってた訳か、って感心してる場合じゃないだろ。どんな顔して帰ればいいんだよ。
「フリード、俺は気まずい!! 帰りたくない」
「ハッハッハ!! お前は随分大胆なヤツだな、俺は嫌いじゃないぞ、謝っとけば何とかなるだろ」
他人事のように……って他人だから仕方ないか、ミーシャには帰ったら謝っておこう。
「おいカチャ、こっちに来てくれ!!」
「イエッサー!! もうすぐ上がるから少々お待ち」
酒場の看板猫耳娘がエプロンを片付けてこちらにむかってくる。看板を背負ってるだけあって中々の美セリアで、俺のストライクゾーンだ。
「お待たせ! あとはマスターに任せて上がって来たよ」
「紹介する、新人のヨシトだ、中々大胆で面白いヤツだから面倒見てやってくれ」
「へー、傭兵登録したんだね、ウチはこの酒場で看板娘させてもらってるカチャ、よろしくね」
「よろしく、それと昨日はどうも」
「昨日はビックリしたわよ!!ヒトのお客さんなんて珍しいもの」
「なんだ!? お前達知り合いだったのか? まぁ、今日は俺の奢りだ、遠慮なく好きな物食って飲めよ!!」
随分太っ腹だな、そろそろ俺の空腹具合も限界だ。こう言う場合、相手のしてくれるって好意を遠慮しちゃ失礼ってもんだよな。
「ありがとうフリード、遠慮なくいただきます!!」
「おう!! カチャも遠慮すんなよ」
「もちろん、財布を空にしてあげるわ」
「そ、それはちょっと……」
俺達はすぐに打ち解け合って会話が弾む。
「ところでウチさ、ひとつ思った事があるんだけど、ヨシトは傭兵になったんでしょ、装備は揃えたの?」
「おっと、すっかり忘れてたな!! 明日は予定入れるなよ、装備を見に行くぞ‼︎待ち合わせは装備屋だ」
そうか、今の状態だと装備無しって事になるよな、明日の予定なんて何も無いしフリードと装備を見に行こうか。
「了解した、よろしく頼むよ」
「ハッハッハ、明日も忙しくなるぞ!!」
酒も飲み、料理もたらふく食べた俺達は閉店まで語った、もう夜も遅い。少々、いや、かなり気まずいが屋敷に戻るとするか。帰りの足が重い……気まずさで重いんじゃなく、ただの飲み過ぎだ。
「ミーシャ、帰りが遅くなって済まない、ただいま戻った」
「お帰りなさいヨシト、お酒を飲まれたのですか?」
「酒臭いか? ゴメンゴメン、それと昼の事は謝るよ」
「い、いえ、気にしてませんから、食事は済まされた様ですので、お風呂にしますか? それとも……」
これは、王道のパターン!! ご飯にする? お風呂にする? それとも、私にする? ってヤツだろ、やっぱり昼の事気にしてない、とか言ってかなり気にしてたって事か。マズイぞ、雇い主がいないこの屋敷でメイドと……なんて事はヤバイだろ、そんなつもりじゃなかったのに!!
「そ、それとも……?」
「もう寝ますか?」
あ、そう言うパターンね。はいはい、妄想した俺、恥ずかしいな。
「あ、ありがとう、今日はもう寝ようかな、風呂は明日の朝イチで入りたいかな」
「では明日、お風呂の準備が出来たら呼びに参りますので、お休みなさい」
俺はそそくさと部屋にもどり、ベッドに入る。異世界生活も捨てたもんじゃない、毎日誰かに出会い、毎日新しい事の連続、今俺は凄く充実している、コレがリア充?! リアル充実ってやつなの? いや、異世界だからリアルじゃないか、でもコレが現実なんだよな。 異世界に転移して充実生活か、異世充ってとこだな。ははっ、何考えてんだ俺、痛過ぎるだろ、誰も俺の心の声が聞こえて無いのがせめてもの救いだな。もう夜も遅い、寝よう……
俺はいつも通り爆睡、夢に何かがでてきて、とかは全くない。
「ヨシト、お風呂の準備が出来ました、起きてください」
頭が痛い、昨日の酒は抜け切ってない。だがいいぞ、猫耳メイドからのモーニングコールは痺れる、最高ッス。
「おはよう、ミーシャありがとう、早速朝イチ風呂に入ってくるよ」
「ヨシトがお風呂に入っている間に、朝食の準備をしておきますね」
よく出来たメイドさんだ、ずっとこのままがいいな。いやダメだ、俺は旅に出て帰り道を見つけなければならないんだ。この幸せな時間も全部テツさんのお陰だからな、何かしら恩返ししなければ。こんな事を考えながら、俺はとんでもなくデカイ風呂を堪能して食事を済ませた。朝食は俺を気遣って和食を用意してくれた様だ。
「ヨシト、今日のご予定は?」
「今日はフリードってヤツと装備屋で待ち合わせしてるんだ」
「装備屋という事は、無事に傭兵登録が済んだのですね、それにフリード様とご一緒なら安心ですね」
「フリードの事知ってるのか? 確か名のある傭兵って言ってたもんな」
「はい、この国の英雄でした、しかし今は膝に銃を受けて引退しておりますね」
「へー、フリードってそんな強い傭兵だったのか、それに膝に銃を受けるって……相当激しい戦闘だったのか?」
「いえ、ご結婚なされて引退されました、膝に銃を受けたとは、この世界での古いことわざでして、銃を膝に受けると地面に片方の膝が着き、その姿がプロポーズ姿に似ているとの事からです」
おいおい、ますますどこかで聞いた事あるぞ。元いた世界でもそっくりな話あるよそれ。
「な、なるほどそういう事か、ありがとう、勉強になったよ」
「いえいえ、このぐらいの知識はメイドとして当然ですよ」
満面の笑みを浮かべるミーシャ。やはり可愛い、天使だ。そう言えば、フリードから待ち合わせされたが、お互いに酔っていたので時間などの指定はされていない。
「フリードとの待ち合わせ時間を聞いてないんだが、連絡を取るにはどうしたらいい?」
「心配ありませんよ、フリード様のご実家がその待ち合わせの装備屋なので」
「そうなのか!?それなら、待たすのも悪いからすぐに出発するよ」
「わかりました、では気を付けて行ってらっしゃいませ」
俺はいつもの様に、屋敷を出て町の中心の案内板に向かった。装備屋ってのも、傭兵所からさほど離れてなかったのですぐに見つけることができた。
「ごめんください、フリードと待ち合わせしてた者です」
「いらっしゃい!! フリードが来るのか? それなら奥で待っていてくれ」
どうやら張り切って早く着いてしまった様だが、フリードの実家って事もあって、親父さんともすぐに仲良くなれそうな雰囲気だ。フリードは嫁さんを貰って両親とは別に暮らしているそうだ。そんな話をしていると、すぐに彼が来た。
「親父、息子が帰ったぞ!! 今日は新人傭兵が装備を揃えに来るんだ」
「おぉ、フリードか、その新人ならもう来とるぞ」
「もう来てるって!? 随分気合い入ってるじゃねえか、ますます気に入ったぜ」
「おはよう、時間も聞いて無かったし、待たせるのも悪いと思って早く着いちまった」
「逆に待たせちまったみたいだな、じゃ早速揃えるか、武器は俺のお古だが良い剣をやる、昼からはちょくら町の外を見に行くか!! 昼飯はここで食ってけ、母さんの作るスープは最高だぞ!!」
装備を揃えるのを手伝ってくれて、昼飯までご馳走してくれるなんて、今日も運が良い。だが、俺の所持金は価値がいまいちわからない硬化五十枚、装備は揃うのか。値段的なのは防具一式セットで、下は一銅から銀ってのもあって、上は五十金ってのがあるな。俺が持ってる硬化の色は金……何と言う事だ、ヤバイだろ、全く価値がわかってなかったけどテツさんは俺にとんでもない金額よこしたって訳かよ。とりあえず、一番安いので揃えようか。
「親父さん、これにするよ!!」
「そんな装備でいいのか?」
「一番安いのを頼む」
金はくれるとは言っていたが、返すつもりだし節約第一で行こうと思う、命には代えられないが普通のゲーム的な感じなら、始まりの町あたりの魔物はさほど強くは無いはずだ。
「本当にそんな装備でいいのか?」
「いいよ、問題無い」
俺は最安値で木の防具一式を買った。それにしても、このやり取りどこかで……
「防具は決まったか? よし、武器はこれを使え」
「随分と年季の入った剣だな、どうせならその腰に下げた剣が欲しいな」
「ハッハッハ!! これは女王陛下から貰った剣だからな、あげられないぞ、それにその剣は俺が現役の時に使ってた相棒だ」
「英雄の剣ってやつか?そんな剣貰っていいのか」
「いや、英雄が現役だった頃の剣ってやつだな!! その剣は特殊な性能でな、裂け目で拾った武器だ、自分のスキルで攻撃力が変わるシステムさ、本物の英雄の剣は今腰に下げているぞ、そいつも新しく使ってくれるヤツがいて喜んでるはずだ」
裂け目? テツさんがそんな話してたな、そういえばフリードは女王と共に裂け目を封じたって昨日飲んでた時に話してたっけ、あんまり覚えてないけどな。とりあえずこれで装備は揃った、いよいよ町の外で魔物との対面だな。その前に昼飯だ、フリード母さんの特性スープが待っている。
武器も譲ってもらい、装備も揃った所でフリードの親父さんが俺達を呼びに来てくれた。