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3話 強運、故の『引き』の強さ

 ハァ……随分走った。町から見たら近いように見えた屋敷も以外と距離があるもんだな。明日は筋肉痛確定パターン。何て事を思いながらも足を止めずに屋敷に向っていたら、やっと門が見えて来た。耳の尖った男達が門番をしている。


 「待て貴様、何者だ!!許可証を提示せよ」


 許可証って何だよ!? そんな話おっさんから聞いてないし、俺の全財産で買ったコーヒー渡したはずだろ、何でそんな大事な事を言わなかったんだよ。一種の詐欺だろあのおっさん、それにブラックコーヒーの喜びを知りやがって、許さんぞ!!


 「えーっと、持って無いッス」

 「持っていないだと!? ならば中に入れることは出来ぬ、去れ」


 どうすんだよ、許可証が必要だって!? ここまで必死で全力疾走して来たのに、無駄足にも程があるだろ。それに許可証ってドコで貰うんだよ……

 

 すると、フリーズしている俺の背後から何かの足音がしてきた。俺の前に現れたのは、馬に似た動物が車輪付きの箱を引っ張ってこっちに向かって来る。馬車的な物で、この世界の移動手段ってとこか。


 「おい貴様、テツ様がお戻りだ、道をあけろ!!」


 テツ様だって!? 酒場のおっさんが言ってた爺さんだな、ちょうど帰って来たのか、運が良いな。


 「テツさん話を聞いてくれ、助けて欲しい!!」


 馬に似た動物は俺の前で止まり、中から老人が降りて来た。


 「なんと、お主はヒトなのか? なぜこんな所に」

 「よかった、テツさんの事は酒場で聞いた、俺の話を聞いてくれ!」

 「うむ……なにか事情があるみたいじゃな、中に入るが良い」

 「テツ様、しかしこの者は許可証を持っていません」

 「ホッホッホ、ワシが許可した、そう固くならぬでも良いではないか」


 助かったぞ、これで全てわかるはずだ。門番は俺を睨み付けながら身体検査を行なっているが、俺は何も持っちゃいない。かなり警備が厳しいみたいだな、テツさんって発明家? って聞いたけどそんなに凄い人なのか? にしても立派な屋敷だなここは。


 「テツさん、早速なんだがこの世界の事を話して欲しい」

 「待つのだ若者よ、そう焦るでない」


 凄くマイペースな爺さんだ、かなり歳を取ってるようにみえるけど何歳なんだろう。だが焦らずにはいられない、ここへ来て何時間か経ってるし、俺は早く帰りたい。テツさんと俺は、これまた豪華な内装の長い廊下を歩き、応接室と書いてある部屋に入った。


 「若者さん、何か飲むかね? 今日はオススメのお茶が入っておるぞ」

 「いや、そんな事より話を!!」

 「そう焦るで無い、まずは自己紹介してくれぬか?」

 「ヨシトって言います、パチ屋から来ました」

 「うむ、パチ屋じゃと!? 詳しく話してくれ」


 さっきまで穏やかだった表情が曇っている、やっと本題に入れたか。


 ――俺は、ここまでの経緯を全てテツさんに話した。


 「ホッホッホ、初めに神問のイスで見た女性がいたじゃろ? それは女神様じゃ、女神様は実態が無いんじゃが人間にはその姿が見えるのじゃ、しかし実態が無い故、その人の理想の女性として見えるのじゃよ、お主の理想のタイプは異国風の女性ってとこかの?」


 なんて事だ……俺のタイプが異国風の美少女ってのがバレてしまった。恥ずかしいぞ。小さい時から海外に興味があったので、大学もその道に進んだのだ。


 「そんな事は置いといて、単刀直入に言う!! テツさん、俺は帰れますか?」

 「すまぬ、ワシにも帰り方がわからぬ、ここへ来てもうかなりの時が経ってしまった」


 ――嘘だろ。


 「ワシもお主と同じじゃ、毎日ギャンブルに明け暮れる日々を送っておった、そんなある日の事、どう言う訳か休憩をとり昼ご飯を済まして席に戻ると、この世界に迷い込んだのじゃ、ワシも最初は女神様に会って驚いたものだ、ワシの亡くなった女房の若い頃にそっくりだったもんで、てっきり迎えに来たと思ってな」

 「なるほど……それでその後は帰る方法を探したりはしなかったのですか?」

 「ワシはこの世界は天国だと思っておった、元いた世界ではお世辞でも良い人間ではなくて、せめてこの世界では誰かの役に立つ事をしたくてな、模倣ではあるが元いた世界の物を沢山作り、この世界の生活を楽にしてきたのじゃよ」


 ふむ、それでテツさんは凄腕発明家って事か、それでいたる所に自動販売機とかある訳だな、それは納得したが、引っかかるのはテツさんも俺もパチ屋からの召喚って事だよな。


 「テツさんは、この世界に迷い込んだ事に心当たりは?」

 「最初は心当たりは全くなかったのじゃが、この世界を色々旅をしてあるひとつの事を聞いたのじゃ、人間には生まれつき強運の持ち主がいるとな、そしてこの世界に何らかの災いが起きる時、女神様がこの世界を救う為に救世主を召喚する準備を始めるそうじゃ、そこで運が良い人間は、その強運、故の引きの強さで異世界への扉を引き寄せてしまうとな」


 その言葉を聞いて心当たりがあった、俺は昔から運だけはよかった、だが世界を救うなど大層な事が出来る器ではないし、女神様ってのにも会ったはずだが、そんな重要な事は言っていなかっただろ。それに普通、世界を救う為とかなら最初に貴方はこの世界を救う救世主です、とか宣言されるはずだろ!?


 「じゃがしかし、強運で扉を引き寄せた人間は運が良いだけで、世界を救うには何にも役に立たないのじゃ、完全に召喚のイレギュラーじゃ、もちろん救世主と言うのはちゃんと召喚されるのじゃがな」


 おい待て、救世主はちゃんと召喚されるのかよ、俺とかテツさんは召喚の扉をたまたま運良く引いちゃったってわけかよ!!


 「それならテツさんも強運の持ち主でイレギュラー召喚されたって事か?」

 「ホッホッホ、そう言う事になるわい、ワシは元世界で宝くじが当たってな、全てギャンブルに使い果たしてしまったわ」


 ダメだこの爺さん、ダメダメだ、でも俺も人の事は言えたもんじゃない、奨学金もスロットに。でも確かにテツさんも強運の持ち主らしいな、これで俺が異世界に迷い込んだ理由はわかったと同時に、帰り道が全くわからない!! って事も判明したな。


 「テツさん、俺はどうしたらいいんだ、俺は帰りたい……」

 「ヨシトくんはまだ若い、焦らずゆっくりこの世界を見ながら帰り道を探せば良いのじゃ、見ての通りワシは歳じゃ、帰る事は諦めてしまったわい」


 テツさんの言う事はごもっともだ、俺はまだ20歳を迎えたばかりで、元いた世界では友達もいなく、親の元を離れて生活していたので多少の期間ならいなくなっても気づく人間はいないだろう……うん、それはそれで悲しい。


 ――だが俺は決めた、右も左もわからない異世界相手に旅をしてみようと思う。


 「わかったよテツさん、俺は旅にでる‼︎絶対に帰り道を探してみせる」

 「そうかいそうかい、じゃがこの世界にはたくさん魔物がおってな、気を付けなければ死んでしまうぞ」


 魔物!? そうか、冒険系ゲームあるあるには魔物は付き物だ、それにこのテツさんは世界中を旅して来たって言ってたし相当な手練れに違いない。それに、死ぬと言っても復活の呪文ぐらいあるだろう。


 「この世界には魔法はあるのか? あるとしたら死んでも復活できるはずだから問題ないだろ!!」

 「魔法はあるが、復活の魔法は残念じゃが無いのだ、ちなみに死ぬと跡形も無く消えてしまうぞ」


 何だよその妙なリアリティは、復活の呪文ぐらい作ってよ……ゲームとかで見た魔物なら勝ち目ゼロだろ、絶対人間なら勝てないだろ、どうすんだ。


 「魔物を倒したり、強くなるには戦ってレベルアップしてくのか?」

 「さよう、魔物を倒して獲得できる魔光を体に吸収し、それを神問所の女神様に献上してレベルアップさせてもらうのじゃ」


 なるほどな、経験値システムじゃない訳だ、ゲームで言うとブラックソウル方式みたいだな。あとはこの世界の種族についても聞かないとな。


 「それと、ここに来るまで色々な生物にがいたんだが、あれは?」

 「この世界には6種族あってな、獣人種のセリア、エルフ人種のエルフィ、爬虫類人種のレプティ、小人種のペピロ、機械人種のドロイ、人類のヒトじゃ」


 へー、以外にたくさんの種族がいるんだな、神問所で話した姉ちゃんはエルフィで、大衆酒場のマスターはセリアってとこか。


 「テツさんありがとう、聞きたい事はほぼ聞けた」


 夢中になって話していたので、外はもう暗くなっていた。


 「それはよかった、今日はもう出歩くのはやめなさい、お主は身寄りもないじゃろうし、幸いにもここの屋敷には空き部屋もたくさんあるから泊まって行きなさい、それにもうすぐ晩飯の支度が出来るはずじゃ」


 寝る場所と食べる物にありつけるなんて運が良い、今日はありがたくテツさんの言葉に甘えよう。


 そんな事を思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 「旦那様、食事の準備が出来ました」

 「ご苦労様、すまないがもうひとり分用意してくれないかね?」

 「かしこまりました、それでは食堂の席に座りお待ちください」


 メイドさんもいるみたいだし発明品で相当儲けたらしい。俺もこの世界で生活するには資金調達しないとマズイ。


 俺達は食堂へ移動し、料理が運ばれてくるのを待っていると、テツさんが気になる事を言い出した。


 「この世界に再び召喚者が現れたという事は、何かしらの災いが起きるのじゃな」


 そうか、災いが起きる時に女神は救世主を召喚するんだったな。


 「テツさんが召喚された時も災いは起きたのか?」

 「さよう、この国を統治する商いの地クレモネール王国、砂漠の地アムナシーム首長国、自然に囲まれた公国アーデルランド、極寒地帯の帝政ガルノワール、島国である京和皇国にそれぞれ魔世界へと繋がる裂け目が出来てな、時の救世主と各国々のトップ達により裂け目は封印されて、事態は丸く収まったはずじゃがな」


 この世界にはまだまだ沢山の国があるのかよ! これからの旅が楽しみだ。そんな事を話しているうちに料理が運ばれて来た。出て来た料理は和食で、味も見た目も元いた世界と変わりはなかった。もっとこう、ゼブリ映画の様な食事を想像してた俺は少しがっかりだったが、どうやらテツさんが元世界恋しさで調理士に和食を教え、それを好んでオーダーするらしい。


 食事も終え、俺は案内された部屋のベッドでこう思った。もしかしてこれは、寝て起きたら今日と同じ日を繰り返すのではないかと……


 そんな話もあったよな、だがそれは別の異世界の話であって、この世界には何の関係もない。ただの考え過ぎだ。少し疲れたな、少しどころか今日を振り返るとあり得ない事の連続でかなり疲れた。だが現実であって寝ようが起きようがこの状況に変わりはない。明日からは旅に向けての準備をしよう。


 そんな事を考えていたら、気がつくと俺は深い眠りについていた。


 次の日俺は……

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