2話 情報収集の基本は『酒場』から
酒場に入ると、真っ昼間だというのに客で溢れかえっていた。
結構客の入りが良く、いかにも大衆酒場ってとこだな。とりあえずカウンターに座って店員に話しかけてみようと思い、とても人間サイズとは思えないデカイ椅子に腰掛けたとたん、カウンターにいた猫耳娘が話しかけてきた。
「いらっしゃい、何飲みます? って、えぇ!! ヒト!?」
「あっ……人間です、ちょっと話がしたくて」
「マスターマスター!! ヒトだよ、ヒトのお客さん!!」
――さっきまで賑やかだった酒場が一瞬にして静まり返る。
マジかよ……何で皆んなして黙るんだよ、さっきの姉ちゃんも絶滅危惧種とか言ってたから人間ってそんなに珍しいのかよ!! あんまり目立つのは得意じゃないんだが。
すると店の奥から、毛むくじゃらのデカイおっさん二号がでてきた。
「何ィ!? ヒトだと? またテツの爺さんか」
テツの爺さん? この町にも人間がいるのか、詳しく話きかないとな。さっきまで静まり返っていた酒場もまた賑わっている様だ。
「お前さん、何者だ」
毛むくじゃらのデカイおっさん二号は怖い顔して俺を見つめている。そんな顔で俺を見ないで欲しい……別に怪しい者じゃないんで。
「えっと、人間ッス」
「ヒトって事は見たらわかる!! 俺が知りたいのは、お前さんの素性だ、それに見慣れない装備だ、何処から来た」
「俺は大学生で、パチ屋から来ました!! この服はダル着ッス」
嘘のつきようもないだろ、事実を話すまでだ。別にやましいことをしてるわけじゃないんだから落ち着けば何とかなる、それにこのおっさんは何か知ってるはずだ。
「大学生? 聞いた事ない職業だな!! それに驚いたな、テツの爺さんの時とほぼ一緒じゃねーか!」
「ほぼ一緒? って事は、そのテツって爺さんもこの世界に迷い込んだのか? その爺さん今どこにいるんだ!」
「そうだ、あの爺さんも最初来た時は、見慣れない装備でパチ屋から来たとかなんとか言ってたぞ」
テツって爺さんもパチ屋から来たのか!? どうなってるんだよ、すぐにでもその爺さんに話を聞きに行かなきゃ。
「爺さんの事知らないのか? この世界でたったひとりの人類だ、場所は教えてやってもいいがそれなりに金を出してもらわないとな、ここは表向きは酒場もやっているが傭兵達の情報屋、こっちもビジネスだからな」
傭兵? そう言われてみれば、さっきの神問所や歩いて来た道、この酒場にいる奴らは皆んな武装してるんだな。それに情報料取るのかよ……俺の財布は空っぽだ、てかこの世界での通貨はなんだよ!! 元の世界の金は使えるのか? どちらにせよ俺には金がない、完全詰んでる。何か策を考えなければ……
「俺、金無いッス、でもどうにかして教えてもらえないでしょうか」
「何ィ?! 金が無いだ?金もないのに酒場に来たのか、お前さん、良い度胸だな」
いや、ちょっと前に会った姉ちゃんに聞いたから来たんだけど……ヤバイ、何かまずい雰囲気になってきた。そこでひとつの考えが浮かんで来た、俺にはこの元世界で買った缶コーヒーが有る、ここが別世界なら、珍しいはずだ、これで何とかならないだろうか。
「おっさん、俺は金が無いんだが……どうだろう、ここはひとつ取引しないか? 俺がいた元世界の缶コーヒーと情報を交換してくれないか」
「コーヒー? 何だよそれ、聞いた事ないぞ、元いた世界ってのは爺さんの言ってたヒトだけの世界か? それならかなり珍しい物だな……いいだろう取引成立だ」
ハァ……助かった、俺は運が良い。とりあえずこれで爺さんの場所が聞けるな、早くここから抜け出さないと俺の新台が。
「ほらよ、これがその缶コーヒー、ヨージアのブラックだ、俺の少ない小銭で買ったから大切に飲んでくれ」
「ほう、飲み物か……まあいいだろう、今回は初回特別サービスで何でも話してやるよ」
やってやった、獣人相手の取引に勝った。
「まずはここの事、それから爺さんの居場所を教えてくれ!」
「ハッハッハ!! お前さんは最初に爺さんがここに来た時と同じで何にも知らないんだな」
知ってる訳ないだろってツッコンでやりたいが、何かされたらたまったもんじゃないし、大人しく話を聞こうと思う。
「ここはクレモネール王国領のアルポルカ国だ、爺さんはこの世界じゃみんな知ってる凄腕の発明家だ‼︎爺さんなら、丘の上の屋敷で暮らしてるぜ、会うならそれなりの理由が無きゃ中々会わせてくれないがな」
「おっさんありがとな、丘の上の屋敷か、早速いってみるぜ!!」
「おい兄ちゃん、ちょっと待て!! 爺さんに会うには許可証が……って、行っちまったか」
善は急げって言うし、俺は話の途中で酒場から飛び出した。確かさっき酒場に向かう途中に丘の上に立派な屋敷があったよな? きっとあれだ。俺は屋敷を目指して全力で走った。久々に全力で走った。だが運動不足ですぐに息が上がる。それでも全力で走った。何故なら、俺が大当たりを付けた新台がどうなったか気になるからだ……早く戻らねば、空き台にされてしまうのだ。