Kissからはじまる相互理解
哲子はブックオフの外で自称宇宙人と落ち合う。少年が本を買って来たのを確認し、二人で近くの公園へと移動した。
「あそこに座って少し話そうよ」そんな哲子の提案に自称・宇宙人は素直に従い二人でベンチに腰を掛けた。
「はい、これ買った本。僕にも読ませて欲しい」
「わかったわ」本を受け取り袋から本を取り出す。『神秘の宇宙パワー』か、あからさまに怪しい本である。しかしフカバスに対抗するためには宇宙パワーしかないような気もする。
「おつり」律儀に数十円のお釣りを返してきた。
「いいわよ、そんな小銭。あんたにあげるわ。とっておいて」
「本当に!」自称宇宙人は凄く嬉しそう。哲子は生来の貧乏性から少しお釣りが惜しくなったが、気を取り直して今度は少年に興味を移す。
「あんた名前は?」
「人に名前を聞くときはー」
「そういうのいいから」
「芝草宇宙といいます」
「私は哲子」
「ところであんた、本当に宇宙人?」
「なるほどなるほど。哲子は僕がこの国のお金を手に入れたので宇宙人か怪しくなった訳ですね」
「違うけど、そういうこと」
「お互いにわかり合う必要があります」宇宙はそう言うと突然哲子の唇にキッスをした。
「!?」哲子が反射的に宇宙にビンタを食らわそうとする。しかし、その手は宇宙のほっぺたにヒットすること無く空を切った。
「えっ」空振りに驚いた哲子は、続けて何度も宇宙に向けてビンタやチョップを繰り出す。しかし同様に虚しく空を切るだけだった。
「おわかりいただけただろうか」
「あんた本当に…」
「ワオ、キッスの力で相互理解が深まった」
「あんたが読んだ本は他の国用だから。この国ではやたらめったらキスはしないの」
「それよりもあんたってマジモンの宇宙人だったの?」
「マジモンだよ」
「なんでこんなところにいるの?」
「宇宙船の燃料切れかな」
「どうしてキスは出来るのにビンタは当たらないの?」
「僕に危害を加えようとする接触は当たらない」
「なるほど」などと納得していると。
『パシャ』フラッシュが焚かれた。
「て、哲子ちゃんが男に走った〜〜」バッチリと先輩に目撃されていた。




