決戦は今夜
「おのれ、哲子に続き母さんまで」声の方向に眼をやると宇宙くんが母ちゃんにキスをしていた。
「あっちゃ〜」日本でキスは挨拶の代わりじゃないって説明したのになぁ。宇宙くんは母ちゃんとのキスを終えると父ちゃんに向き直る。
「なんだ、文句があるのか。文句があるのはムグッ」そして父ちゃんの口をふさぐキッス。
「こうしちゃいられない」と先輩が更衣室から飛び出す。
「先輩スカート!スカート!」スカートと靴を履かずに半裸で現場に駆け寄る先輩。私も後に続いた。
父ちゃんはキスが終わるとあまりのショックにその場にへたりこむ。
「宇宙人く〜ん、お姉さんともチューしようぜ〜」先輩が宇宙くんに吸い付いた。
「あ、今日は出来た」先輩がキスをし終わると宇宙くんがこっちを向いた。
「私はいいから」
「なんなんだよチクショ〜」やや虚脱状態から復活した父ちゃんを母ちゃんと先輩が慰める。
「お母さんお父さんともキスしたいな〜」
「おじさまキスしてあげるから制服の買取価格上乗せすれ〜」
父ちゃんは左右を半裸の先輩と母ちゃんに挟まれキス攻めにあっている。さっきの脱力から一転今度はヘブン状態に。浮き沈みの激しい一日だね。それをじーっと見ている宇宙くんに私は言った。
「昨日キスはこの国の風習じゃないって私言ったよね」コクリと頷く彼。
「でも、キスは大事だからやった。それを哲子に見てわかって欲しい」
「えっ」
「それとご家族に加護を」そういう宇宙の風習なんだろうか。
「バタバタしてごめんなさいね」とかなんとか言いながら母ちゃんが宇宙くんを東陽ライスでもてなす。
「ちょっと、嫌がらせは止めてよ。彼、お客さんよ」早速食べ始める宇宙くんには。
「それ人間の食べ物じゃないから」一口食べて固まった宇宙くんは。
「凄く美味しい」と言って残り一気にかき込んだ。
「おかわりありますか」うっそ~。人間の食い物じゃないと思っていたが、まさかの宇宙人ターゲットでしたか〜この料理は。
「ふぅ、ごちそうさまでした」「おそまつさまでした」嬉しそうに皿を下げる母ちゃん。
「地球で一番美味しい料理だったよ」
「それは良かった」棒読みである。
「これで宇宙もあんたらの一味になったってことじゃない?」
「先輩」新しい制服に袖を通した先輩がそう言った。そういえば私がフカバスに入った時も東陽ライスを食べる儀式があったっけ。
「でも、あれってフカバスに入る儀式でしたよね」
「宇宙は事が終わったら宇宙に帰るのだろう?」頷く宇宙人。
「じゃぁ、彼はフカバスには入らない。哲子に力を貸してくれる。哲子の仲間だ。そして力を使って哲子は何をしたいのかな?」
「私はフカバスに戻りたいです」
「そうか、わかってると思うけど、フカバスに哲子の席はもう無い」なんとなく想像はしていたかやはりそうか。ほんの少し先輩がとりなしてくれるかもと思っていた希望が失われた。
「だから、席は自分の力で勝ち取るしか無いの。哲子、みかかにあんたのパフォーマンスを見せつけてやりなさい」
「でも、どうやって?私みかかさんと戦いたくない」
「その為の方法を彼がさっき見せてくれたじゃないか」宇宙くんを見ると彼が頷いた。
「善は急げだ。行動は今夜にでも起こすべきよ」そう言うと、じゃぁね〜と先輩は帰って行った。
「宇宙くんも手伝ってくれる?」
「手伝うよ。これが僕の地球最後のミッションだ」
私は両親を呼び寄せると今夜フカバスに決闘を挑むことを宣言した。
東陽ライスとは、園子先輩が深川めしに対抗して開発した郷土料理である。深川めしはあさりの炊き込みご飯なのだが。「あら何?あさりがいいの?」ということで炊き込みご飯の代わりにあさりだけどっさりと。その上を生クリームでコーティング。おまけにお米をパラパラかけたものが東陽ライスである。とても人間の食べるものではない。その為東陽ライスは食すことが一種の儀式だったりする。
また、昨今東陽ライスを人間がまともに食べられる用にする為のアレンジも行われており、あさりの代わりにゼリー。そこにクリームをデコレーションしチョコフレーバーをパラパラ振りかけたスイーツ版東陽ライスも開発された。こちらは人間がまともに食べられそう。




