夢から覚めて
目覚めると、変わらぬ自室の天井がぼやけた視界に広がる。
夢を見た。あの花畑でアリシアが眠っていて、俺はその隣で、最後を――――
「失礼します」
俺の思考を断ち切ったのは、コンコンというノックの音と、落ち着きのある老齢の懐かしい声。
「………クロッカス様?」
返事を返されなかったことを訝しく思ったのだろう、執事のスチュアートが怪訝な顔をして扉を開けた。
だが、俺はそれどころじゃなかった。
――――なぜ、スチュアートが生きている?
スチュアートは俺が学園に通っている間に事故に遭い、帰らぬ人となった。
俺はずっと仕えてくれていたスチュアートを失った悲しみで一時期塞ぎ込んでいたが、リリーが私がいるからと、慰めてくれた。だが、あの夢によれば、それさえも、リリーが仕込んだことであったようだが。
スチュアートは早くからリリーの本性に気づき、俺にリリーとの付き合いをやめるように進言する一人だった。
だが、スチュアートを邪魔に思ったリリーによって、馬車に細工をされ、あの雨の日に――――
「クロッカス様っ!!」
ハッと顔を上げると、焦ったような、心配するような顔をしたスチュアートが目の前にいた。
「スチュアート、なのか………?」
俺が確かめるように、手を取り撫でると、長年仕事をこなしてきたと分かる、力強い大きな温かいカサカサとした感触が伝わってきた。
「………どうなされたのですか?少々、顔色も悪いようですし………」
困惑した表情で、俺の心配をするスチュアート。茶色の目は確かに色を持ち、俺を見ている。
あの頃と変わらぬ姿があり、生きている。
これは俺の都合のいい夢なのか?夢ならば、夢はいつから始まっていた?俺は、アリシアを――――
「はあ………。これは、どうしましょうか?ああ、そうだ、デルフィニウム様がいらっしゃっていますから、お通ししてみましょうか」
信じられない思いで放心し、抜ける手を思わず追いかけると、目を見張ったスチュアートが柔く微笑んで、俺が小さい頃よくしてくれたように、頭を撫でられた。
温かい。これは、本当に、夢、なのか………?
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