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魔獣の壺シリーズ

魔獣の壺 - 番外編 - 運命の出会い

作者: 夢之中

私の名前は、サール。

傭兵協会で傭兵試験の試験官をやっている。

しかし、あの件が無かったら今のわたしは無かっただろう。

そう、あの運命の出会いが、、、。


サールは、毎日がつまらなかった。

同じ日々の繰り返しにうんざりしていた。

何かしら刺激がほしかった。


サールは、自分の顔が好きではなかったが、

嫌いでもなかった。

子供の頃のあだ名は、ゴリだった。

そう、彼の顔はゴリラ顔だったのだ。


この顔のおかげで得したこともあった。

皆が自分のことを忘れないのだ。

最初はからかわれたりした事もあったが、

怒るとかなり怖いらしく、

過去に本気で怒ったこともあった。

それ以降、からかわれる事も無くなった。


だだ、どうしても許せない欠点があった。

そう、もてないのだ。

異性と友達にはなれるし、仲良くもしてもらえる。

しかし、恋人としては、、、全滅だった。

何回、告白したことだろうか。

その全てが、

 「これからも、お友達でいましょうね。」

だったのだ。


いつか、ゴリラ顔が好きという人が現れることを祈っていた。

きっと現れるだろうと希望を持っていた。

いままでは、その希望を原動力として日々をすごしていた。

しかし、現実はそれほど甘くは無かった。


自宅で目覚めると、一人寂しく朝食をとっていた。

一人で食べる食事のまずさも知っていた。


 「あーあ、嫁さんほしいな、、、。

 いや、その前に彼女だよな、、、。

 でも、この顔じゃな、、、。」


毎日がこの繰り返しだった。

食事を終えると、せっかくの休みだったので、

何をしようか考えた。

家にいるのは、あまり好きではなかった。

というより、家にいたら彼女ができる確立が減ると思っていた。

たとえそれが、限りなく0に近かったとしても、

0であるはずが無いと思っていた。


そして、一人町へと繰り出した。

ぶらぶらと街中を歩く。

商店街のメイン通りに到着すると、

さすがに休日ということもあり、そこは込み合っていた。


 「うぁ、人多いな。」


人込みが嫌いだった。

人込み自体が嫌いというより、人が多ければ多いほど

見なければならないカップルが嫌いだった。

いや、カップルが嫌いなのではない。

カップルを見ている自分が嫌いなのだ。

カップルが楽しそうに腕を組んで歩いているのを見ると、

男性の方に自分を重ねて見てしまう。

そんな自分が嫌いだった。


極力周りを見ないように人込みを避け、

小走りで奥へと進んで行った。


ふと前を見ると、ビルの一角に人だかりができている所を

発見した。

なんだろうと思い、そこへと向かった。


 (かわいい。)


それが第一印象だった。


 (王女様なのだろうか?)


赤いドレスを着ているその姿は、いままでの人生で一番

かわいいとさえ感じた。

しばらく、目を離すことが出来なかった。


しかし、この位置からは、横顔しか見えない。

なんとか前から見て見たい。

そんな気持ちが自分の中から湧き上がっていた。

その時、自分の後ろから声がした。


 「お姉さん。こっち向いて。」


その声に反応して、こちらを向いた。


 (ナイス!!、後ろの人。)


私は、その声の主に心の中で感謝した。


正面から見た印象は、


 (テラかわいい)


だった。

彼は、今は、その系の人ではなかったが、

きっと、とっさにそう思ってしまったのだろう。


目が離せなかった。

そのクリッとした目がサールの瞳を釘付けにした。

正面から見たその顔は、サールの中ではラブリーと

表現する以外なかった。


じっと見つめる。

そして、目が合った。

いや、彼がそう思っただけかもしれない。

その瞬間、全身が雷にでも打たれたようにビクッと痙攣し、

頭の中が真っ白になった。

そんな中、こちらに近づいてくるのが見えた。

周りで声が聞こえたが、彼の耳には届いていなかった。

そして、サールの目前まで近づいた。

なにか言っているようだったが、まったく入ってこない。


 「あのーーっ?」


その一言だけが耳に届いた。

さらに舞い上がってしまった。

自分に声をかけたのか確認したかったが、声がでない。

仕方なく、自分を指差そうとした。

筋肉が自分の以外の指令を受けて動いているのかと思えた。

まるで、ロボットダンスを踊っているように、カクカクとした

動きで自分を指差す。


 「はい、そうですよ。」


その言葉が耳に届いた瞬間、さらにヒートアップした。

聞こえないはずの心臓の鼓動が音をたてて脈動するのが

判った。

体中の血液が全て頭に昇ってきたかのような感覚だった。

何かしら話しているようだった、しかしその声の断片だけしか

聞き取ることができなかった。


 「一緒・・・生活・・・婚姻・・・

 結婚・・・家族・・・子供・・・」


頭の中をそれらの言葉がぐるぐると回る。

そして、頭の中が真っ白になった。

なにが起こったのか分からなかった。


意識を取り戻すと、そこは自宅だった。

どうやら、机の上で寝ていたらしい。

窓の外は、夕日で真っ赤に染まっていた。


 (夢だったのか?)


そう思いながら、机の上をみた。

そこには、婚姻届と書かれた紙が置かれていた。


 「えっ、何だこれは?」


サールは、何が起きたのかまったく分からなかった。

部屋の中を見回す。

それはいつも見ている景色となんら変わりは無かった。

そして、恐る恐る隣の部屋の扉を開き、中をのぞいた。


なんと、そこには、真っ赤なドレスを着た、

あの王女様が鎮座していた。


一瞬は、夢ではないかと考えた。

しかし、夢でもなんでもかまわなかった。

サールは、決断した。

一気に近づくと、抱きしめたのだ。


感無量だった。

長い間それは続いた。

サールは、この瞬間が永遠に続くことを祈った。


そう、プリティベアーズとのはじめての出会いだった。

目の前にあったのは、王女様の服装と化粧をした

くまのぬいぐるみだった。


プリティーベアーズの購入者の集いで、

初めての出会いを、こう語っていた。


しかし、事実は違った。

初めて出会った時、確かにかわいいと思っていた。

自分の中にこんなに購入意欲が沸いたことは初めてだった。


 (これほしいな。)


そう思ったが、さすがに大の大人がこれを買うのは、

恥ずかしかった。

その時、売り子の女性が私に話しかけてきた。


 「お子様へのプレゼントに、いかがですか?」


その言葉は、天にも昇る程の天使の囁きだった。


 (そうか、子供へのプレゼントか。)


なぜ、そこに気がつかなかったのだろう?

子供はいない、そもそも、結婚もしていない。

しかし、売り子はそれを知らないのだ。

この顔のおかげで、中年に間違われることは

しょっちゅうだった。

逆に若く見られることは無かった。


 (ナイスだ。この顔のおかげだな。)


本気でその時は、そう思っていた。

嘘をつく事への嫌悪感も少しはあったが、

それよりも、ほしいという気持ちのほうが大きかった。


 「子供へのプレゼントに、これください。」


その言葉は、思ったよりもすんなりと口からでた。

そして、そのぬいぐるみが包装される過程を

プレゼントを待つ子供のような気持ちで待っていた。

お金を払い、それを受け取ると、逃げるように自宅へと帰った。


そして、家に着くと、包装紙を慎重に開けてゆく。

そして、ぬいぐるみが現れた。

それは、王女様の服装をしたくまのぬいぐるみだった。

一緒に封筒も入っていた。


その愛らしい顔、3頭身の体つき、その全てが

サールの心を支配していた。

しばらくの間、そのぬいぐるみを机の上に置き、

そして、じっと眺めた。

サールの顔がにやけた。


 「きゃわいいーーーーっ。」


なぜか、女性っぽい言葉が飛び出した。

いままで、こんなことは無かったし、

そんな言葉使いは、男として恥ずかしいと思っていた。

よく、子供を授かった父親が、子供をあやすときに、

赤ちゃん言葉になることがあると聞いていた。

まさに、それだった気がする。


 「子供を授かったら、きっと、こんな気持ちなんだろうな。」


そんな気持ちがサールを支配していた。

しばらく経ったあとで、次の衝動が沸いてきた。


 「抱き上げてみようかな。」


そして、恐る恐る、抱き上げてみた。

そのやわらかい毛の感触。

いつまで抱いていても飽きる事は無かった。

そして、ぬいぐるみに頬ずりする。

その時、急に我に返った。


 「うぁ、何やってるんだ。」


そして、ぬいぐるみを机の上に置いた。

誰にも見られているわけでも無いのに、

それまでの行動が急に恥ずかしくなった。

そして、封筒の存在に気がついた。


 「これ、なんだろうな?」


封筒を開け、中を確認する。

そこには、説明書、登録書、婚姻届、出生届と

書かれた用紙が入っていた。


 「なんだこれは?」


とりあえず、説明書と書かれた用紙を読んでみた。

 STEP1.名前を付けましょう。

と書かれていた。

サールは、悩んだ。

色々な名前が頭の中を駆け巡った。

そして、王女様ということもあり、プリンセスクマ、

略して、”プリクマ”と名づけた。


そして、次を読んだ。

 STEP2.登録書の名前の欄につけた名前を

       記入しましょう。

となっていた。


 「なるほど、ここに書くのか。」


そして、登録書の名前欄にプリクマと書いた。

そして、次を読んだ。

 STEP3.貴方の名前と住所を保護者の欄に

       記入しましょう。

と書かれていた。

そして、それに従った。

次には、

 STEP4.登録書を販売店に渡しましょう。

と書かれていた。


 「なるほど、これで登録されるのか。」


用紙を良く見ると、固体番号と書かれている欄があった。

そこには、数字の羅列が書いてあった。

その横に、ぬいぐるみの足に同じ数字があると書かれていた。

くまのぬいぐるみを確認すると、足の裏に番号が書かれた布が

縫いこまれていた。


 「へー。この番号は、この子専用なのか。」


この時、ぬいぐるみを子供扱いしている自分に

気がついていなかった。


さらに、読み進めると、ぬいぐるみ同士の結婚登録と

子供の登録が出来ることがわかった。


 「なるほど、それで、婚姻届と出生届が入っているのか。」


そして、登録書を急いで販売店へと持参した。

数日後、戸籍が送られてきた。

それを見たとき、彼は思った。


 (家族ができたぞ、次は結婚、そして子供もほしいな。)


こうして彼の部屋は、プリティベアーズに占拠されていった。



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[一言] この短編だけ見たけど、本編も気になってきますね。 ・・・サール、・・・猿?
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