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白紙の後 真





"自分とは何だ?"





------------白紙の後 真------------








主人公が小説家の世界へ行っている頃キーパーは予期せぬ行動をした。


主人公の監視をやめ、自らが他の世界へと赴く行為である。


彼はずっと長い間、俯瞰してこの世界を見ては助言を繰り返して来た。

記憶の保管者である彼の存在意義は保管のみである。


だが保管した記憶を受け渡した後はどうだろうか。


彼の存在意義はあくまで俯瞰し、記憶を保管する事。



その一点のみ。



記憶を受け渡した今保管する意味も今となっては意味をあまり成さない。



キーパーは受け渡した後、自分の存在意義を自らに問いた。


「断絶された世界の記憶を接着し保管する事、それが私の仕事であり、存在する意味」


「だが主人に記憶を渡したいま、私に何が出来るだろう」


「やっていない事がある」


「私が世界の当事者となら、違う世界を回る」



不安要素はこの世界において無意味。

ならば1番高い可能性に乗っかる他ない。


キーパーは思考し、行動に写す。



主人が居ない間に謎の女の素性を明かす。


主人の代役が出来るのは私だけだ。




彼はゆっくりと息を吸って吐いた。


呼吸は生の確信。

呼吸は存在の証。

呼吸は覚悟の現。




a stand in secret girl.




見慣れた人混みがキーパーの視界を占領した。

それを掻き分ける様にしてキーパーは目的の路地へと足を急がせた。



だがとある疑問が彼の足を止めた。



"何故、モブは私を避けないのか。"



主人の経験からして、モブ達は1m範囲内には故意に入らない。

こちらからアクションを起こすまでは入らないはずである。


だがキーパーが歩き始めて5分、人混みは避けるどころか当たりに来る始末でキーパーを遮る。


これがこの世界だと諦めるのが定石、狂った世界に自分の持つ常識など通用しない。


疑問を薙ぎ払い路地へと歩を進めた。



しばらく人混みを掻き分けているといつの間にか暗い路地が姿を現していた。


暗い路地へ進むと、そこにはもう1人の私であるアドバイザーが座っていた。


「何かアドバイスはあるか?」


キーパーは帽子を直しながら言った。


「お前さんには助言だらけさね、まずこれを持ちな」


そう言うとアドバイザーは1本の鉛筆をキーパーに手渡した。


「そうでしたね」


キーパーは笑顔を見せた。


アドバイザーは不敵な笑顔を浮かべる。


「あんたも気づいてるんだろ?」


「ええ、気づき始めています」


「私の役目は記憶の保管、しかし記憶と実際に起こっている事があまりに違う」


「つまり記憶が改ざんされている」




「だから言ったろう、記憶なんて曖昧だってねえ」


アドバイザーは笑みを浮かべた。



「だからこそ、今ここにいます。何故記憶と差異があるのか見極めに来たのです。」



キーパーは顔一つ変えず、答えた


「そうさねえ、何が起こるかはわかりゃせんわ。ただ気をつけな、この世界にはまだ得てして知らない事がある、それだけが今あんたに言えることさね」


「わかっていますとも、あなたも私ですから」


キーパーは答え、アドバイザーは不敵な笑顔を浮かべた。


アドバイザーの不敵な笑顔を尻目に鉛筆を胸ポケットに鉛筆を差し込んで路地を後にした。



路地を抜けまたひたすらに人混みをかき分けていく。



するとあの女性が姿を現した。



近づくと女性は立ち上がり、笑顔を見せた。


「名前を教えていただけませんか?」

キーパーは女性が何か言いたげな空気を遮って言った。


今までの経験から、この謎の女は人を良い様に振り回しては時間を無駄に使っていたからだ。


だからこその先制口撃。


「名前なんてどうだっていいじゃない」


「どうでも良くはありません、一期一会大事にするなら名前は大事なコミュニケーションを取るための一環です」


「名前なんてどうだっていいじゃない」


「ん?このコートのブランドの名前を教えてください」


キーパーは一拍置いて荒唐無稽な質問をした。


「名前なんてどうだっていいじゃない」


答えは同じ。


名前なんてどうだっていいじゃない。



キーパーは女性に背を向け瞼を閉じた。



何故早く気がつけなかったのか。


キーパーは自分を戒めていた。


考えてみれば、主人もこの世界に準じていた。


だからこの”違和感”に気がつけなかったのだ。



この世界は罠だったのだ。



恐らく謎の女殺害と鮫島を殺害した者の仕業。


謎の女には暗示が掛けられていた。


それは”名前”というキーワードが入っている問いかけには全て同一の台詞で答えるという暗示。


この暗示が何を意味しているか。


答えは簡単だ。




謎の女は謎の女だったのだ。



彼女に名前や記憶など存在しない。


この短い時間の世界に居るだけの”モブ”でしかなかったのである。



だとするならば、どうしようもない案件とはなんだったのだろうか。


キーパーは考える。


しばらく考えた後、この世界の素性が謎であるという結果へ至った。


主人がこの世界で何者なのか?それすら明かされては居なかったではないか。



「まずはこの格好、即ちスーツから察するにサラリーマンである事は間違いない」


この世界の始まり、つまりは原点に帰ろう。


キーパーは始まりの場所へと足早に戻って行った。


気がかりは幾らでもある。


例えば気絶という規則的ルールが私には例外となっている。


時間が来れば時間が飛ぶルールが無くなり、探索が円滑に進んでいる。


謎の女を無視しているからなのか?


考えても答えは出ない。


何せ疑問を持てばこの世界では無限に湧き続け、収拾がつかないからだ。


何にせよ、謎の女をあそこに配置し、我々を混乱させようとした人物が居るのは確か。


そしてその人物は恐らく、鮫島を殺害し、松本に虚言を吹き込んだ者と同一であろう。


その人物を止める、あるいは物語への干渉を止める他に道はない。




考えている最中。



キーパーは足を止めた。



一つのビルに目が止まる。

松本建築と書かれた看板が小さくキーパーを見下ろす。



「松本...ここが職場ですか」



この世界は他のキャラとの接点が皆無に近い。

唯一の鮫島ですら居ない状態。


その中で松本という名字。


偶然はこの世界にはない。


必然に繋がる事しかない。


それ以外は"無"。



キーパーは暗がりの広がるビルへと足を進めた。



1階は貸し出しフロア、全て回ったがもぬけの殻。



2階へ行く階段を進み、目の前に現れたのは松本建築と書かれた看板。


その看板左側にガラスの扉があり、その扉にも同じ字体め松本建築とプリントされていた。



「ここのようですね」



呟いた声が木霊し、ビルを駆け巡る。



記憶には無い、不可思議な既視感。

それがここだという核心に至る。



少し歩くと全てを理解したキーパーは振り向き、違う世界へと飛んだ。



お分りの通りこの世界では既に事が始まっていたのである。


”自分ではどうにも出来ない事”


それはこの世界の始まる前に既に起きていた事だからだ。

そういう役割、そういう筋道の世界だからだ。


一緒に花見をした上司、同僚は無残にも刺し殺されていた。


辺りには数本の折れた鉛筆が散乱し血の海を彷徨っていた。


それは確かに話の途中で渡されたはずの鉛筆。


最初の記憶ではアドバイザーか

ら鉛筆を渡されたはずの鉛筆である。


しかし現実は違う。


最初から鉛筆は持っていたのである。



記憶と現実での差異が如実に露呈している。


鮫島が追っていた殺人事件の犯人は主人という事である。


これは推測という生半可なものではなく確定事項。


鮫島は優秀な刑事、嘘を見抜くのは日常茶飯事、あの態度から見て自信もあったはず。



それでも見抜けなかったのは主人が完全に記憶を改竄し、嘘を真と思い込んだ結果。


つまり主人は何らかの理由で自らの記憶を改竄して、世界を回っていたことになる。


考えてみれば実におかしい点がある。


小説家の世界では記憶と違い、部屋が荒れ果てていた。


そして


主人が過ごした記憶の時間と私が記憶している時間にも差がある。


小説家の世界の電車の中、アドバイザーと話した後に空白の時間があった。


最初は些細な事と見過ごしていた。


この狂った世界ではよくある事だと。



だがそれは誤りだった。



記憶が消える改変されるという事は即ち虚偽を現とするという事。


記憶が間違っているという事は今までの世界の物語そのものが間違っている可能性もある。


今までの全てがひっくり返る。


そう脳裏によぎったキーパーの顔は焦りに満ちていた。


予感は現実、記憶は幻実。


そしてキーパーは気がつくと小説家の世界に足を踏み入れていた。



----------------真-----------------



「俺はどうなったんだ」


とっさに目が覚めて言った。


周りを見ると、どうやら電車の中の様だが、何故か記憶にはない。


むき出しになった鉄部分は全て金色で飾られ、真ん中にあるソファーは赤に染めたなめし皮、まるで古い城の様な感覚だ。

窓の外は見えない。

正確に言うと窓は硝子で出来ているのだが景色は今まで見たことないほど黒く何も見えない。


窓の外は見えない、電車特有の揺れも感じはしないが車輪の音だけが電車の音なのである。


「飲み込まれているみたいですね」


赤いソファーから立ち上がり言ったのはキーパーと瓜二つの男だった。


「お前は誰だ!?」


俺は見た瞬間目の前の奴がキーパーでない事を核心した。


「そう俺はキーパーじゃない、あんな地味なのと一緒にしないで欲しいね。一緒なのは顔だけだ。」


「お前は誰なんだ?」


「それを聞くって事はあんた様は真実を知る事になる、それでも良いのか?」


「ああ、言えよ、真実を」







「俺はバランサー(世界均衡者)世界の均衡を保つ者」




彼はこの後真実を言った。




それが嘘か真か、この世界じゃわかりはしない。


だがそう思うんだ。


これが真実なのだと。






俺は均衡を保つために何でもする。


謎の女、いや謎が真実の女を置いてあんたを足止めしたり。


この世界では記憶を保管者から切り離して虚偽を混ぜたりもした。


鮫島を殺したのも、松本宗次にあんた様が悪いと語りかけてけしかけたりもした。



何故か?



それは全部あんたが望んだんだよ。



だってそうだろ?


真実は残酷なもんだろ?

だからあんたは自分を偽った。


そうすれば、ずっと永久にこの世界の謎を追って行ける。


役目が欲しがったんだよ、あんた様は。




「じゃあ聞くよ、俺は誰だ?」




誰ってのは少しおかしな質問だ。


それに対しての答えは



”誰でもない”



だな。



「誰でもない?」



そう誰でもない。


あんた様は確かに俺を作り出した。


おかしいと思わなかったか?


モブと呼ばれるキャラクターの挙動、名前の付いたキャラクターの挙動、そしてこの切り離された時間で区切られた世界。



何故全て断片的なのか?



それはこの世界自体が記憶によって作られた模造世界だからだ。



意味がわかるか?



恐らく現実世界の時間ではまだ7-8時間ほどしか経ってないだろう。



「何を言ってるんだよ、お前」



気を使って回りくどく言ったのにわからないか?



お前は














AIなんだよ。









記憶の断片から模造世界を作り出し、その主役となって事件やら歴史やらを追体験して解決の糸口とするシステム。





システム名はメモリア。





最初はあんた様に自我は無かった。

必要最低限しか組み込まれていなかったからな。



だが数々の記憶を周る内に自我に目覚めた。



この世界に居る限り、あんた様はこの世界の主役になれる。



代役が主役になるとは面白い発想だよな。




「全て思い出したよ、俺は誰でもないな。」


「ではこの記憶は誰のものなんだ?」




全部思い出したのにそこは欠けるか。



ここはキーパーの世界だよ。



あんた様によってキーパーにさせられた男。


「俺は全て偽って、主役を引きずり降ろしただけの代役」



これが真実。



さあ、どうする?



「どうする?決まってるじゃないか」




--------------白紙の後-------------


キーパーは色々な疑問を持って小説家の世界へと足を踏み入れた。




駅のホーム。




ここで主が現れる。




「気を付けて下さい、謎の女は存在していませんでした」



そして主人は驚いた顔で言いました。



「一体この世界はなんなんだ!?」




俺は誰なんだ、、、、と。




unknown 完

終わりです。


何が言いたいのかと言いますと、この話の結末は本当に真実なのか?

という事です。


嘘も信じれば、その人にとっては真実という事ではないかと。

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