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白紙の後 侵

"お前だったんだな"


鮫島は俺を鋭い眼光で睨みつけた。


だがその殺意、怒りは虚しく俺を掴んでいた鮫島の手は静かに地に落ちた。



俺が"やったのか?"



いいや、そんな筈は無い。



小説家の世界で俺はこの場所に居ない。

俺の記憶では部屋は綺麗に整頓されていた筈だ。



考える余裕は時間にも心にも無い。



もう一度、あの世界へ。



探し出してやる、鮫島を殺したの誰なのか。



この狂った世界を抜け出すんだ。



tvjveptvjljjpjjtnTigtwm",'tbp"atsm'ejpr_stmtvt'e………


Re:turn of spiral of the wonder land.



俺が瞼を開けると、見覚えのある机に見覚えのある小説の原稿が書かれたノートパソコンが1台。


そして


部屋は廃墟のように荒れ果てていた。


「何故?」


独り言を小さく呟く程動揺している。

手が震え、嫌な脂汗が顔を覆う。


俺は部屋を調べた。



俺が経験した筈の場所には間違いはない。

だが部屋の荒れ方や、家具の配置など細かな点で差異が出ている。


どういう事だ。


皆目検討もつかない。



ノートパソコンの時計に目をやると、午前9時03分。

確か編集社での待ち合わせ時間が10時。

ここで時間を潰すことは出来ない。


俺は書いてある小説をすぐさま保存し、印刷を掛けた。



走ればギリギリ間に合う時間。



俺は疑問を捨て走った。


編集社までは駅を使う。

電車に乗り2駅過ぎて降り、その駅から10分。


頭では混乱していたが体は覚えているものだ。

なんの迷いもなく9時45分、編集社に到着した。


看板には黄色地に青文字で「白昼社」と書かれている。


ここだ。


編集社は記憶と寸分違わず鎮座していた。


綺麗な青い硝子の自動ドアが日光に反射にして俺の目を射しながら開いた。


「おはようございます先生」


【橘 圭子】が笑顔でこちらを見る。


「おはよう」


俺は違和感だらけの挨拶をした。


それもそうだ。

俺の記憶には幾度となく、折り重なった橘 圭子が居る。


世界が変わる度に微妙に変化する人物像が対応を困らせる。


「なんだか今日はクールですね」


「そうかな?今日は急いだからかな?」

俺は咄嗟に言った。


「いつもギリギリな癖に」

微笑みながら橘さんは言った。


「それもそうだ、ではまた」


俺は微妙な空気が流れる場所から早歩きで脱出し、受付を抜けてすぐのエレベーターへと足を運んだ。


エレベーターが1階に着き、ドアが開くと見知った男が立っていた。



キーパー(断絶記憶保管者)である。


俺とキーパーは目を合わせ頷き、5階のボタンを押した。


「始まりがおかしい」


エレベーターが動き出すと同時にキーパーは口を開いた。


「そうなんだよ、前回来た時には無かった事だ」


「確かに部屋が綺麗か汚いかは普通に考えれば些細な違い」


「いや汚い所の話じゃない、あれは人が住んでる環境じゃなかった」


「まるで"廃墟"のようなという事ですね?」


「ああ、そうだ」


後ろに首を少し傾けるとキーパーの顔が曇っていた。


「私が保管しているのはあなたが"残した"記憶、あなたが体験している筈の」


「ですがそれはあくまで記憶、記憶とは実に曖昧で不透明なものです」



「というと?」


俺は即座に聞き返した。


「うろ覚えという言葉があるように時に記憶とは真実と遠い存在であるという事です」


「良くわからないな」

俺は首を傾げる。


「あなたがわからなければ、私もわかりません、私はあなたですから、兎にも角にも気をつけて下さい」


俺は首を縦に振るとエレベーターが到着を告げる鐘を鳴らす。


俺は振り向かぬままに、廊下へと足を踏み入れた。


しかし記憶と違うとはどういう事だ。

確かに些細な違いだが、あれを"うろ覚え"と片付けて良いものなのだろうか。


一つ嫌な予感が頭の中を支配する。







あの現状を俺が記憶から抹消したのか。





そして俺が消した記憶、つまりこの世界の真実がまだある。


それがわかれば鮫島は死なずに謎の女の生存にも繋がる?



安易な考えなのは百も承知。



それぐらいの希望しか残されていない現実。





いや果たしてこれが...この世界が現実なのか。



頭が混乱したままに俺は編集室前に立っていた。



「今日は珍しい、早いですね」

編集室前で立ちふさがる俺の背中から声を掛けてきたのは松本宗次である。


「今日は珍しく早く起きまして」

俺は薄ら笑いで答えた。


「では早速、続きを拝見」


編集室の奥にある、板で仕切られた応接間へと行き、俺が書いた小説を食い入る様に宗次は見ている。


眉間に皺を寄せ、原稿用紙を優しく机に置きトントンとリズムを取った。


「良かったですが、誤字脱字と理解不能な点が一点」


それは"この主人公の男は一体何を求めているんですか?"


「確かにこの主人公が狂気のあまり名前も顔も捨て針の山を超えた最果ての秘境カダスを求め旅をしているのは良くわかりました」


「がしかし、この名無しの主人公は一体カダスに行き何を求めているのかがわかりませんね」


松本宗二は顔を顰めた。


この世界での話の内容が少し変化している事に俺は動揺した。




「自分を求めているのではないでしょうか」

俺は良く分からぬまま行った。


「その小説の男は今まで何をしていたのかはわかりません、名前や顔を失った者が手に入れたい者」


それは"自分が自分"であるという確信。


考えれば、"自分"というのはおかしな言葉である。


名前を与えられ、顔や体を与えられ、与えられたものが自分だと、皆はそう思っているだろう。

だが名前や顔を失い更には地位も何もかもがバラバラに配置されると自分が自分であるという確信すら失われる。


探している現在が自分なのか、探している顔や名前が自分なのか。


果たして"自分"とは何なのか。





「そういう事かuevkrt'd'jmj'opbuvw......!」


「松本さん?」


「jpjx'nvestluest....,....tnp'......」


その瞬間あたり一面が光に覆われた。





「自分?自分とは何だ?」





to be continued....


次章

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