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渦中の者達

檻で叫ぶ鼠一匹。

矢を運ぶと鼠が一匹。

穴があるよと鼠が一匹。

チュー告をと鼠が一匹。

関係ないよと鼠が一匹。

舌を失くした鼠が一匹。


PIXIVと重複投稿 名前は同じです。

蛇の章

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何かが絡み付いた様に喉笛が焼け付く。

「お怒りですか?」

「?」

「悪意の介入?それとも祈りかい?」

「そんなとこかな」

「だったら罰すればいい」

「それは・・・」

「ただ罰を与えたら罪だが、しっかりと正しい道を示すんだ」

「・・」

「忠告は罪じゃないよ、無知が罪なんだからね」

赤いスーツの老いた男。

その笑顔に同調した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





太陽が顔を出した、見慣れた時間の午前9時。

俺はいつもの様に家のドアノブを捻る。

ノブを捻ると爽やかな朝に軋んだ悲鳴を上げる。


扉を開けるとゴリっと”何か”が扉を重くする。



少し力を入れ扉を押すと支えが取れたのか、扉はシャンパンコルクの様に突然開いた。

入れた力はドアに受け流され倒れる体制と相成ったがノブを握った左手が体を制止させた。


その体制の拍子、俺は地べたを見せられた。。


そしてため息と共に体制を直した。


年期の入ったアパートにありがちなドアの不調などと安易な発想をした自分を恨む。

扉の開閉を阻んでいたのは”何かの死体”だったのだ。


起きたばかりの目を凝らして見ると、もう何が何だか良くわからない程の大量の血液であるが、これはげっ歯類の小動物の死体であることは理解できる。

しかもその死体に首は無い。


非日常的なこの光景に対しては声一つ出さずただただ頭を抱え「神よ」と祈る事しかできない。

ため息一つ、様々な重い思いが駆け巡り吐き出され縦横無尽に回り回って、頭を空にさせる。


「あいつだ・・・」俺は思いついた瞬間、独り言を口にした。




一ヶ月前の夜の電話まで遡る。




これは”ピリオド”と言うに相応しい。


俺は27歳で電話の相手は安藤(あんどう) (めい)

明とは同級生で12歳の時から付き合い初め、それからの15年間、俺は明と付き合ってきた。

だがそんな長くも脆い甘酸っぱい夢物語はこの日で終わりを迎える。


「別れよう」僕は少し震えた声で言った。


しばしの沈黙が電波でつながった俺と明を支配していた。。

沈黙は無音だと勘違いしてしまいがちだが、しっかりと音がある。

今回に至っては皮膚の擦れる乾いた音と常時砂嵐の様なノイズ音だ。



そしてもう一つの音で俺は気づいてしまった。



”彼女は泣いている”と。


「なん・・で?」言葉一つで俺の心を締め付ける。


「好きかどうか、わからなくなった」泣いている彼女に嘘を吐きかける。


「だったら距離を置くんでもいいじゃん?何で別れるの?なんで?なんで?おかしいよ」明の声は酷くおかしい。


壊れた蓄音機で音楽を嗜んでいるようだった。


罪悪感が心を蝕み、俺は同情してしまいそうになっていた。


「好きは一方通行、愛は交互通行」俺がそう言うと明はついに泣き声を表した。


「ゆるさない・・」その一言が俺への唯一の手向けだと思う。


「それでいいよ、一生恨んでくれて構わない」俺は電話をする前から願っていたのだ。


いっそのこと俺を恨んでくれ・・・と。


「わかってて・・・・・言うなんて」



「・・・・ツーツーツーツー」物言わぬスピーカーに俺は言う「幸せになれよ」。


それ以来彼女とは連絡を取っていない。

こんな終わり方なのだからしょうがないとも思う。

15年間結婚や不幸という言葉を躱してズルズル来てしまっていたのだから。


このエピソードを思い出しているのは言うまでもなく、俺の元彼女である安藤明を陰湿な悪戯の犯人として疑っているからである。


仕事まではまだ余裕はある。

俺は近所の目、世間体を気にしつつ、そっと・・さっと鼠を片付けた。

片づける時に数えると首なし死体は全部で6体であった。


掃除が終わりいつもどおりに出勤して、何のこともないデスクワークで時間は過ぎて昼休み同僚であり友達の松本宗次と共にうどん屋で昼食を取る事になった。


「今日さ・・」うどんを啜りながらする話で無いのはわかっていた。

だがどうしても言わずにはいられない。

今朝ドアの前に鼠の死体があった事、そしてその犯人が安藤明なのではないか・・宗次に合った事柄を説明した。


「おいおい、マジかよ」この話を聞いて宗次の顔は苦笑いだった。


「冗談でこんな話するかよ」俺はうどんを啜っては真実だと心から叫んだ。


「・・・」いつもなら茶化して笑いにする場面であるが今日の宗次はやけに静かだ。


「どうかしたのか?」俺は宗次の顔を捲るように顔を机すれすれで見上げた。

宗次の茶化しを期待して話をしていたのもあり、この沈黙は嫌な予感がしてならない。



「いや、まぁ聞けよ・・これは一週間ぐらい前の話なんだけどな・・・」そう言うと宗次は話を始めた。


「橘さんが噂になってたんだよ」話にある橘さんというのはうちの会社の美人受付、{橘圭子〔たちばなけいこ〕}

容姿端麗、完璧超人、有無も言わさぬ潔白美女、それが橘 圭子である。



「橘さん最近付き合い悪いって部署の中でも話題になっててさ、それで内の部署の先輩が悪戯半分で橘さんの帰りに後を尾けていったんだって」宗次は神妙な顔で続けた。


「美人なのに浮いた話も聞かないから、もしかして男でもできたんじゃないかってさ軽いノリってやつ」

「歩いてるとある場所に寄ったんだよ」宗次が俺に視線を合わせた。


「どこに?」俺はうどんが伸びることなどお構いなしに生唾を大きく飲み込んで宗次に釘付けになっていた。


「ずばりペットショップだ」宗次は人差し指を立てて言った。


「まさか・・」なんとなく予想はついていたが聞かなければならない・・答えを。


「そのまさかだよ、橘さんハツカネズミを6頭ほど買ってたんだとよ」俺はその言葉を聞いて頭が痛くなった。


「おいおい、嘘だろ」俺は頭を抱えた。


「お前なんか橘さんにしたんじゃねえの?」宗次は少しにやけて俺を見た。


「あっ!そういえば・・・」宗次の言葉を聞いて、あることを思い出す。





あれは今から二週間前の会社全員で行った花見でのことだ。





蜂の章

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鼠は何も知らず鉄柵を齧り、置かれた身を恥じる。

故に滑稽だ。

だからこそ忠告は鼠でなければならないのだ。

これは彼への希望、彼への忠告。


そのためなら我が手をも汚そう。

あの赤い老人は正しい。


導き手もなくてはならない。


鼠がもがくのを必死に抑え、その首をナイフで撫でた。

悲しいんだ、この世界は悲しみだ。

彼の悲しみが聞こえる。


鼠ののど元にナイフを降ろした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「桜ってのは偉いよな、散っても散っても来年にはまた咲く、更には歳を重ねるごとに綺麗に咲く、お前も桜みたいな男になれ」酔った先輩の戯言は耳が痛くなる。


「はい、咲きます!!咲いてみせますとも!!」俺はこの調子で虚勢を張ってわ、酔った先輩達の反応を伺いながら言葉を紡ぐ簡単なお仕事を桜の木の下で1時間ほど続けていた。


「お前はまたつまらない事を言いやがって、今時の若いもんは夢や希望を見ない、上を見ないただそこに居るだけなんだよ、それがお前のような正論武装に身を包んだゲリラなんだよ!バカたれこんちくしょう」あの返答以外の何を期待しているのか・・・この状況で浅はかな返答はお勧めできない。


「俺馬鹿なんで難しい言葉はわかりませんよー」俺は躱そうと必死に応戦する。


「お前が馬鹿だ?お前は自分の事をわかっているのか?自分の事をわかってるって思ってる奴ほど馬鹿な奴は居ない」どんどんヒートアップしていくのが俺にはわかる。

「皆自分が誰なのかをわかってないんだよ!俺達はそれを探してんだよ・・俺達は探求者でなくてはならないんだ」先輩がひとつひとつ言葉を言うたびに怒りで血が上っていくのが如実に確実に顔に表れている。



”まずい”そう思った時だった。



「先輩!ちょいこいつ借ります」そう言って俺のスーツの襟を掴んで持ち上げたのは宗次だった。


強引!!だがなんという救世主か。


「あんまり、あいつに捕まんなよ・・有名なんだぞ?」

宗次がそう言って連れて行ってくれたのはあの口うるさい先輩から逃れた避難民が集う隣のマット席。


俺が居たマット席は完全な地雷であったのがこちらのマット席を見れば一目瞭然であった。


社長・専務・課長・部長など上司達が社長に気に入られようと会社の理念を語るだけの地雷席。

その中で一人俺の様な鼠が座っていれば的にされるのは言うまでもない。


言わば鼠取りの席なのである。


「とりあえずここ座っとけや」そう言って宗次が座らせたのは俺にとったら人生の有終の美を飾ると言っても過言ではない席であった。

左には新入社員で最高に可愛い三上水琴みかみみこと、24歳。


「やっと来ましたか先輩」出来上がった水琴ちゃんは頬を赤く染め俺の太ももに手を添えた。


「おう・・どうも」俺は苦笑いで対応した。

内心心臓が破裂しそうなほどに緊張していたのだが見せたら負けだ。


左には最高に美しい受付嬢、(たちばな) 圭子(けいこ)さん、27歳。


「あら、遅かったわね」圭子さんは落ち着いた様子で俺に話しかけて居るが目線は水琴ちゃんが触っている太ももに置かれていた。


「はい、まずは乾杯」圭子さんは缶チューハイを俺に差し出した。


「じゃあ かん・・」


「ずるい、ずるーい、私もー」俺が言いかけたその時左隣の水琴ちゃんは俺の持った缶へと力強くぶつけて来た。


不意打ちを喰らった缶は無残にも俺の手から離れ、圭子さんの綺麗な赤いスカートに流布された。


「あっ」俺はあまりの惨劇に言葉を失った。


「すいません、すいません」俺は咄嗟に前に辺りを見回したが拭き取る様な物は無かった・・覚悟は生まれた時から出来ている。

俺はスーツのジャケットを脱いで酒の掛かった場所へ差し出した。


「ちょっと・・本気!?」圭子さんは驚いた様子だったがしょうがない、もうジャケットには酒が染み込んでいる。


「悪いのは水琴さんでしょうが!!」圭子さんは水琴を睨む。


「何か、すいません」良いことをしたはずなのに何故か圭子さんは俺を怒鳴りつけた。


「もう何してぇんですか先輩」当の本人はべろべろのべろべろでパッパラパーな目で俺を見つめていた。


「馬鹿女」圭子さんは濡れたスカートを見ながら呟いた。

誰にも聞こえない様な小さな声で呟いた。


”まずい”何だこの状況は・・・夢か?夢なのか?何にしても最悪な状況だ。


あの優しさの塊と会社内でも有名な圭子さんが汚い言葉を吐き出しているのが何よりの証拠。


「水琴ちゃんがもうダメそうなので俺帰します」逃げる・・これが俺にとっては最善の選択である。


こうして俺はこの後、水琴ちゃんと大人な行為に及び、大人な付き合いへと発展していくに至ったのである。




あのとき逃げたのが原因だろうか・・




「ああー」うどん屋の店内に俺の荒々しい叫びがこだまする。


「水琴ちゃんと付き合っちゃったのは知ってたけど・・そんな感じでいっちまったのかよ」宗次は心底俺に呆れていた。


「お前てっきり橘さんと付き合うのかと思ってたのにな・・・以外」宗次は独り言の様に続けて言った。

俺は伸びたうどんを啜りながら左上を見た。

”以外”?というのは不思議な言葉である。


「お前もしかして覚えてねえのかよ」呆ける俺の顔を見て宗次は更に呆れ顔で言った。


「なんの事だよ」俺は少し怒り口調で言った。


「圭子さんと良い感じになってたじゃねえか、あっちもまんざらじゃなかっただろうが」宗次は言った。


「圭子さんは良いお姉さんポジだよ馬鹿」俺は宗次に怒鳴った。

人に自分の価値観を押し付けるなど言語道断、友達といっても許すまじ行為。


「こりゃ駄目かな・・・よーく思い出してみろよ、俺に言ってたじゃねえか、ほら元カノの明と別れた次の日だよ」宗次は俺の口調に合わせるように強めの口調だ。




安藤明と別れた次の日・・・あれは会社終わりのことだ。




俺は残業が長引き会社を最後に出たんだ。

夜の11時の真っ暗な社内廊下を歩いて受付を通っていた時だ。


「お疲れ」突然の声に驚き声のした方向である受付カウンターに恐る恐る目を向けるとそこには居るはずのない圭子さんが帰り支度をしていた。


「圭子さん?なんでこんな時間に!?」俺は驚きのあまり"お疲れ様です"という社会人の礼儀作法を飛ばした。


「ちょうど、帰る頃だと思って」と不適な笑みを浮かべる圭子さんは妖艶で美しい。


「はぁ」俺は自分で自分の頭を撫でた。


「今日は暇?」圭子さんはいつもの顔に戻った。

いつもの顔といってもわからなかろう。

二重な眼は鋭く尖り、綺麗な三日月型の笑顔である。


その顔を見て決まって思うのだ。


腹の中は笑っていないのだと。


「今日は暇・・ですね」俺はスケジュールを必死に捻出しようとしたが無理難題であったのは確かである。


「暇!?だったら彼女もいないフリーなのね」圭子さんは冗談か真面目か、いつもと変わらぬ笑顔だ。


「話題が飛び越えてませんか?」少々いつもと違うキャラクターの圭子さんに圧倒されてしまった。


「なら何処かで会食でもしましょう」カウンターに鞄を置いて少し身を乗り出す圭子さん。


「はい、喜んで」先刻暇と申告した訳であり、これはもう断れない延長された仕事である。

上司に誘われた会食など愚痴と俺への当て付け以外の何物でもないと俺は経験上思う。


だからといって別に俺は佳子さんのことは嫌いではない。

というよりも憧れが強すぎてといった方が正しいだろうか。

あまりに浮世離れした綺麗さを持った女性に心の芯から好意を抱ける者はよっぽどの阿呆か自意識過剰ぐらいしか居ないだろう。

大体の人間は誘わず見るは高嶺の花、見て楽しむ者として少し離れて見ているものだ。


現に圭子さんはあまりの綺麗さに皆圧倒され、誰もその固い心を打ち落とせずにいる。

行動、言動、容姿 すべて揃ったパーフェクトサイボーグガール、だからこそ俺は怪しんでいる。

触れて傷つけば俺の様なガラスボーイなど木端微塵に粉砕。


”修復不可能”


それ故に現状は愚の骨頂。


だが顔には笑みを浮かべ、パーフェクトサイボーグガールのおでこを一心に見つめ必死に店までの道のりを食いつないでいるのだ。


長い時間お互いに口は開かれぬまま歩いた。


いったいこの不釣り合いな美人に何を話すればいいのか・・考えただけで頭は宙を舞う。


そのまま繁華街の雑多音に包まれながらしばらく歩くと、ある店で圭子さんは歩みを止めた。


”古い屋”という赤に黒の字の看板の店。

名前の通り古臭い木造建ての居酒屋であった。


今にも引っこ抜けそうな飾りガラスのスライド戸。


まるで圭子さんに似つかわしくない店構えであり、俺は多々動揺していた。

さもボンドガールにでも出会えそうな煌びやかなホール型のBARを想像していた俺は完全に出鼻を挫かれている。


実は道に迷っていて道を頭の中で整理するべく立ち止まった、とも考えられなくもないではないか。


「さぁ入るわよ」無情にも俺の想像と反し、立つような眼で俺を見つめ圭子さんは言った。


軋んだ飾りガラスの戸を圭子さんが勢い良く開くとギィィィヤァァァと女性の悲鳴の様な音を立て耳を苦しめた。


「いつもどうも」カウンターは俺の胸ほどまで床があり、その床にクッションをこさえた腰曲りの婆がにっこり笑っていた。


外観からの想像通りの店内はすべて古めかしい木製でカウンターには曇ったショーケースが並び、その中には宝石のように輝いた魚の刺身達が食べられたそうに輝いている。

カウンター席は全部で4つ、クッション製ゼロのナイロンと木で出来た椅子が立ち並んでいる。


「カウンターはさすがにね、奥に行きましょう」少し引き笑いをしながら奥へと促す圭子さんはどこか辺鄙な旅館に居る美人女将の様に見え、俺も少し微笑んだ。


カウンターに沿って奥にはふすまで完全に閉じられている場所があり、圭子さんは靴をきれいに揃えて脱ぎふすまを開けた。

ふすまの先はこれまたベターな畳の部屋で茶色の木目が気品漂わす二人分のテーブルが二つあり対面するようにして紫色にロールシャッハテスト柄座布団が備え付けられていた。


俺は圭子さんに通され右側のテーブルの前側に座った。

思ったより紫の座布団のクッション性は素晴らしく、ケツが悦に浸る様に沈む。


「とりあえずビールでいいわね?」


「はい、大丈夫です」なすがままに俺は圭子さんの注文に従った。


「生二つお願い」少し離れた場所まで聞こえる様に大きな声で言う圭子さん。


「はいよ」囁き声で頷いた婆はゆっくりと腰を上げ、後ろにある小さな冷蔵庫から瓶ビールを取り出す。


俺は婆の行動を観察していると俺の視界に圭子さんが入ってきた。


圭子さんは店内用のスリッパを履いて婆がカウンター内で用意していた瓶ビールとコップが置かれたお盆を婆から受け取りに行っていたのだ。


「悪いねえ」そう言うと婆は静かに定位置に腰を下ろした。


圭子さんはそれに笑顔でそれに応じ、早々と座敷へと運んできた。


「お待たせー」少し若めの口調と言うと圭子さんに失礼なのだがいつもの綺麗な言葉で慣れているせいか少々違和感があった。


「じゃあかんぱーい」圭子さんはビールをコップへ注ぎ、乾杯の音頭を取った。


ここまでは完璧な接待と言うにふさわしいが俺はまだ緊張が解けずにいた。


そして俺はビールを一気飲み。


「早いわね、はい」そういっては注ぎ、注がれては飲みを繰り返して俺はべろんべろんのぐろんぐろんで・・・





ここから記憶は全くない。





気づいたら朝で、気づいたら隣に裸の圭子さんが居て、気づいたらホテルで、気づいたら・・・




「あぁ・・」俺は何ともとれない吐息と声を吐いた。


「ホテルで裸で隣り合わせで寝てるってやることは一つだろ、お前罪背負い過ぎだろうが」宗次はわかってる事を再度言って俺を責める。


「そうなんだけど、少し話を聞け!」俺は大きめの声で宗次を止めた。


「仮に俺と圭子さんがそういう関係になっていたとしてその後連絡の一つや二つは貰わないか?普通さ」そう、俺はホテルで圭子さんの裸姿を見て混乱し、一応金だけ払ってホテルを逃げるように出たのである。


その日は仕事、俺は一足先に会社へ出勤し圭子さんの動向を伺っていた、もしそうなら・・・覚悟はあったのだ。


だがどうだ?


圭子さんは俺に会うや否やいつも通りの怖いくらい完璧な笑顔で俺に「おはようございます」と言ったのである。

それに圭子さんはそれ以降俺にメールや電話もくれていない。


前から俺と圭子さんの関係というのはこんな感じであくまで少し仲の良い仕事の美人上司という立ち位置だ。


つまり圭子さんと俺の関係は前進も後退もしていない。


そして俺は二つの都合の良い答えを導き出した。




其の一


”圭子さんも酔っていて覚えていない説”



これに関しては俺もどうかと思うほどに都合がいいがこれが真実なら納得できる部分もある。

俺は細心の注意を払い、静かにホテルを後にしている。

誰と寝たのかわからない程に俺も酔っていたし、あの後何件はしごしたのかも知らない。

酒が強いという噂は聞いたことは入社してから一度もない。

こう思えば実に平和的で実に公平な説である。

俺は酔っていて記憶も無い。

これは”そういう行為”をしていたとしても記憶として認識できなければ、”経験”とは呼べない代物。

圭子さんも覚えていないのだとしたら、それは然るべき現状とも思うのだ。




其の二


”何もせずいっしょに寝ただけ説”

説明不要、ただ男と女が生まれたままの姿で寝ただけに過ぎないということ。

行為に及んでいない。


この甘い答えが今の悲惨な現状を生んでいるかもしれないのは言うまでもない。




「まぁ何にしても気をつけろよ」宗次はそう言うと会計へと向かった。

俺もそれへ続いて会計へ向かう。


この言葉前にも言われた気がする。

少し前と言った方が・・これは既視感ーデジャブに近い感覚だ。


確実に言われたのは水琴と付き合うことになった花見の日。

あの日、俺と水琴はひょんなことから会場まで共に行くことになり、花見の日遅刻したんだ。





これは今から二週間と一日前に遡る。





それは彼女と別れてから二週間ばかりが経った時であった。

さすがに長く付き合った彼女だけあって自分から別れておきながら心の穴は埋まらない。

穴から押し寄せる何とも言えない焦燥感が脱力感を生んでいた。


サラリーマンで普通の会社員である俺はそんな気だるい日でも非常に非情なデスクワークを強いられていた。


「すいません!!」そう元気に声を掛けてきたのは入社してから3ヶ月の新入社員であり、今やこの会社の天使である 三上水琴(みかみみこと)


俺はその声に恐れおののいた「うぉ!!」まさに漫画の様なダサいリアクション。


「驚きたいのはこっちですよー、何回声掛けたって上の空で返事もしてくれないし・・・」彼女は少し頬を膨らませてお叱りモードプンプン。


「それはすまなかった」俺も中々に心が疲弊していたんだと今になってわかる、この時まで自分の精神状況について何の疑問も抱いて居なかったのである。


「驚いた顔が中々・・・そんな事より明日はご出席ですか?」中々の後がもの凄く気になるが水琴ちゃんはそんな事は構いもせず笑顔で言った。


「明日?はて?」今日はなんの日?ふっーふっー。

わからない・・・明日が来るのかすら俺にはわからない。

そんな俺にわかるはずがない。


「ボッーとして・・明日は社員で花見しに行くって社長が言ってたじゃないですか!!」眉を吊って言う水琴ちゃんは成程の可愛さである。


「そうだったね、行くよ」俺は即二つ返事。

完全な強制連行、この質問自体に意味が無いからだ。

社長が右掘れほいほいと言えば社員は右を掘らなければならない。

これが社会だ若き日本人よ。


「あーよかったですー」俺はこの返事にだけは聞き耳を立てた。

だってそうだろう?この言葉は直球に来て欲しいと言っているし、それに酒も入るし、俺水琴ちゃんの事気になってるしで頭はパンク寸前だ。


「行かないとでも思ったの?」俺はなんの気も無いような態度を取った。

ここで慌てふためいては男が廃る。

俺はデスクワークをしながら返答を待った。


「・・・マウスジグザグ動かすだけじゃデスクワークになりませんよ!」そう言うと彼女は俺に背中を向けて給仕室”通称やかん部屋”へと足早に去っていった。


俺は舞い上がりを隠せておらず、ただただパソコンのデスクトップ画面でマウスを動かしていただけなのであった。

結局論点はずらされ何が何だかわからないままだ。

もしかしたらただの俺の勘違いかもしれない、わかっていても心の蔵は動きを緩めてくれやしない。

12・12・12・12・12・12・12・12・・・忙しない心臓は次の日の花見の時まで続いていった。




次の日 花見の日



カーテンに世話しない強風と共に暗がりの俺の部屋に日差しが刺した。

日差しがベッドに寝ていた俺の瞼に焼付き、時計を見ると朝の9時を回っていた。

重い瞼、腰に鞭を入れてベッドから勢い任せで飛び起きる。


昨日の水琴ちゃんとの会話により童貞さながらの淡い恋心を刺激された俺が寝れなかったのは言うまでもなく最低のコンディションである。


歯を磨き、服を着替え、最後に似合わない甘い匂いのするコロンを手に大量に付けて頬にビンタをするように打ち込む。


打つべし・・打つべし・・・打つべし!!


大量のコロンの匂いは自信の無い俺にとっては最終兵器。

つけ過ぎているのは察して欲しい、ただの空回りだ。


現地集合で11時に郊外から外れた花咲町の大きな公園で待ち合わせだ。

花見のシーズンになるとたくさんの人でごった返している人気の花見スポットだ。

そこで俺の同僚である松本宗次が朝早くから場所を陣取っているらしい。


今回の花見に関して宗次はかなりの熱意を見せ、彼から陣取りを進言した程だ。

宗次の狙いは間違いなく女子なのであるがそれを本人に言うのは野暮垂らしいし面倒だ。

俺と宗次の女性のタイプが合わないのが奴と友達として上手くやっているコツなのかもしれない。


鼻に突く様な甘い匂いを振りまいては嫌な顔をされつつも俺は電車を乗り継ぎ花咲町へと向かって行った。

電車にはラーメンの駄菓子が如く大勢の人が詰め込まれていて、その大群は一気に花咲町で降りていた。


俺もその一人であるわけだが天邪鬼な俺としては非常に気分が悪い。


時間は午前10時、花咲町の駅はところどころに錆達が見られ寂れた雰囲気を醸し出している。

誰も居ない駅内は地方感が漂っており人酔いしてしまう俺には丁度いいし、懐かしい。


俺はタクシーを捕まえようと辺りを見回していると、俺のポケットで携帯が鳴いた。


Prororororororo...


俺はポケットから携帯を取り出し画面を見ると水琴ちゃんからのメールであった。





ーーーーーー


Re:今どこですか?


本文


なーんてねー(笑)

後ろの公衆電話からストーカーしてますよー(^v^)v


ーーーーーー




この文面を見て即座に後ろを振り向くと携帯を片手ににやついた水琴ちゃんがこちらを見ながら手を振っていた。


「メール見てびっくりしたよ」水琴ちゃんのあまりの唐突さに俺はたじろいだ。


「駅降りてボッーとしてるからですよ!先輩」水琴ちゃんは俺を笑顔で見上げている。


「とっとりあえずタクシーでも拾って公園に行こうか」俺はあまりの可愛さに顔を背けた。


俺は大きく手を上に広げタクシーを止めた。

タクシーへ乗り「花咲公園まで」と言うと「はい、ご主人様」と運転手は言った。

ご主人様?俺は言葉に違和感を覚えた。

お客様でもなくご主人様・・俺は水琴ちゃんの方を見ると田舎町が珍しいのか窓で仕切られた景色にかじりついていた。


「さっきの聞こえた?」俺は囁き声で水琴ちゃんに話掛けた。


「ん?何ですか?田舎町ってこの雰囲気が良いですよねー」水琴ちゃんのこのリアクションを見ると聞こえていなかったらしい。

いやむしろ俺が疲れているんだろうか。


ミラー越しで運転手の顔を眺めるが帽子が邪魔して顔全体の把握が出来ない。

顔覚えは良い方だがパーツで覚えるのは難しい。



皺の雰囲気から察するに齢40ほどで口元からは高貴な雰囲気が漂っている。

口元だけで何故わかるのかと言われれば困ってしまうものだが俺は確信している事がある。

乗ってから今まで口元から小気味良い笑顔が絶える事は無かった。

だがそんな笑顔に俺は僅かな狂気を感じてしまう。

勘ぐっておいてなんだが乗った客にべらべらと能書きを垂れる事もなく只、虎視眈々と客を目的地へ運ぶ。

この人は確かにタクシードライバーの鏡だと心では思っている。


そう思えば先程の言葉も無理に思えなくなる。

俺の考えすぎだろう、運転手はただお客様をご主人様と言っているだけだ。

こんなにも狭く広大な世界だ、そんな人ぐらい居るだろう。


いやそうに違いない紛れもない紛れである俺が考える事など宇宙に蔓延るデブリに同じ。


そんな想像ならぬ妄想をしていると慣性を微塵も感じぬ程に静かにタクシーは公園前の駐車場へと止まった。


「もう着いたの?」車が発進してから五分ほどが俺の体感時間であった。

それもそのはず駅から公園までは車で40分程掛かるはずなのだ。


「結構経ってますよ?」水琴ちゃんは携帯を見ながら言う。


俺は急いで自分の携帯を見ると時間は10時50分だった。

実際の時間は俺の体感時間より数倍の時間が経っていた。

恐らくタクシーに乗ったのは水琴ちゃんからのメールの時間から話をした時間を合わせても10時10分頃。

そこから40分が経っていたとは到底思えない。


「楽しい時間は短い・・先輩の故郷なんですよね?だからですよ、きっと」水琴ちゃんは俺の心中を察したかのように運転手にお金を渡しながら答えた。


「いや、それは・・あっ」運転手の言葉の引っかかりを考えていて時間があっという間に過ぎていたとは到底思えない。

だがそれと同時に好きな女に金を払わせた、この状況に戸惑いを感じた。


「何円だった?」俺は急ぎでポケットで眠っていた財布を取り出した。


「別に良いですよ?今度会社近くのフレンチ奢ってください」水琴ちゃんはやけに笑顔だ。


「んー・・わかった」俺は渋々財布をポケットに寝かせた。


俺がそう言うと水琴ちゃんは勢い良くタクシーから飛び出し、俺もそれに続いてそそくさとタクシーを後にしようとした、その時。


「気をつけなよ」


俺が出た瞬間、運転手は確かに言った。


俺は聞こえた瞬間体をタクシーへと向けミラーを目にするが運転手は帽子を手で直していて見えない。


そしてタクシーは去っていった。



”気をつけなよ”


この言葉には何の意図があるのか皆目見当が付かない。


「聞こえた?」答えはわかっているが同意が欲しい、今は。


「何がです?」水琴ちゃんは目を見開き首を傾げた。


「あの人最後に何か言わなかった?」俺は再度聞いた。

違うのは水琴ちゃんの整った顔を真剣に見つめた。


「お気をつけてって言ってましたよ」水琴ちゃんは俺の顔を溶けそうな程の笑顔で言った。


俺の聞き間違いか?それとも思い過ごしか?水琴ちゃんが言う”お気をつけて”とは違ってもっと含みがあった様な気がするが・・。

思えばタクシーに乗ってから俺はくだらない事を考えてばかり。

これでは時間も逃げていくというものだと考え浸る自分を制止する。


「ほら!行きますよ!社長もいるんですからー」水琴ちゃんは焦った様子で俺の手を握った。


俺は思う、天然なのか故意なのかはわからんが・・ドンと来い!恋!


俺は舞い上がりダジャレを心に抱いて桜並木を走った。

良く考えればここに着いたのは10時50分、待ち合わせ時間は11時。

社会人の暗黙のルールである10分前行動はまず破っている。


そして加えて忘れていたのが待ち合わせ場所だ。


宗次が場所を取ると言っていたがこの花咲公園は広大。

歩いて外周45分は掛かるため散歩スポットとしても毎朝老人達で賑わっている程だ。


この花見の季節は市外から来た客で場所取り合戦が行われている事も不幸し、場所はその日次第という場当たり的約束だったのである。

花見シーズンの花咲公園は人で埋め尽くされ人が遮蔽物となり周りも良く見えない。


時間が刻々と迫り気は動転し、ただひたすらに水琴ちゃんと手を結び合い走り回っていた。


焦っているのは言うまでもない。


携帯で場所を聞くというもっともスマートな方法を使わない俺は本当に阿呆であった。


長らく走っていると後ろポケットが鳴っている。

立ち止まり振り向いて俺は急いで繋いだ手を離した。

焦りのあまりこの状況のまずさを全く理解できていなかった。


俺が安藤明と別れたのを知っているのはコンスタントに連絡を取っている同僚の宗次と今手を繋いで逃避行状態だった水琴ちゃんだけであり、このまま俺と水琴ちゃんが手を取り合ったまま会社の猛者共に見られたら、どうだ?

たちまちに噂は広まり次の日から死んだ魚の目で見られ虐げられるだろう。


「激しいんですね」俺を見て言う水琴ちゃんの手は汗で光っている。


「あまり、からかうなよ」俺はそう言いつつ後ろポケットで俺を呼ぶ携帯を出した。

案の定 松本宗次からの着信であった。

この時点で”電話すれば良かった”という簡単な考えにすら及んでいなかった事を悔いる。


「おい、どうしたんだよ」後ろから社長と思わしき声が聞こえる。

これは花見が始まる前の挨拶が始まっているという証拠だ。


「人に揉まれて探せないんだよ」俺はうまく躱そうと言葉を紡ぐ。


「文明の利器を使えよ・・この公園で一番でかい木の下だ、故郷だからわかるだろ?」宗次は皮肉臭い口調で弁を垂れている、だが今回は俺が悪い。


「おばけ木だな、悪いな今行く」俺はそう言って社長が後ろで話す恐怖の電話を切った。


「急ぐよ」俺は水琴ちゃんを誘導し、おばけ木の方へと一緒に小走りで向かった。


「このまま二人だけでどこか遠くに行きますか?せっかくの休みですし」水琴ちゃんは俺の背中越しで言った。


「そりゃあ行きたいけど・・今はまずいね」俺の返答は何ともつまらない。


「この前飲みした時はクビにでも何でもなってやるーとか言ってたじゃないですか」実に悠長で真剣で冷静な口調の水琴ちゃん。

冗談で言っているのだと流していたが真面目に言っているのか。

それともわざと真剣な口調をして俺を小馬鹿にしてるだけなのだろうか。


「あれはストレスの爆発だ」俺はそう言って後ろを静かに振り向くとにやついた水琴ちゃんの顔が晴天の日差しに照らされていた。


「馬鹿にしてる?」


「先輩は楽しい」そう言うと水琴ちゃんは見えてきた、大きな木[おばけ木]に向かって行った。


「待てよ!!」俺は急かされるように水琴ちゃんの背中を追った。


その後社長のありがたいお言葉を40分程聞かされ、それとなく花見の輪の中へと入っていった。




そうこの日のタクシーの運転手に言われたのだ。


確かにこの時この日から、少しずつ崩れ初めている。




そんな事を思い出している時も宗次は俺にありがたい説教を垂れ、伸びたうどんをちびちび啜り昼休みは終わった。

俺はボーっとしながら仕事をサッサと終わらせ、ただ歩く屍の様に家路へ着いた。


アパートの外に備え付けられた階段を一段一段と上がって行く。

足は心なしか震えている。

今朝の事が目に焼き付いて離れない。

そう思うと瞼は思うように開けられずしまいには目を閉じて歩いていた。


真っ直ぐの廊下に連なった扉が5つ。


その5つあるうちの階段側から数えて3つ目が俺の部屋だ。


薄らと瞼を開ける。


すると・・そこには・・・・・何も無い。


考えすぎはいけない、とんだ肩透かしである。


緊張で固まった顔を突拍子も無い笑顔で解して扉に鍵を挿した。


軽やかに鍵を回すと、いつもと違うリアクションが返ってきた。


いつも鳴るはずの鍵の開く音が無い。


次は逆方向へ勢い良く回すと音が鳴った。


”カチッ”そう”鍵が閉まった”


今日鍵を閉め忘れたか?いや・・確かに閉めた。






これは誰かが”鍵を開けた”こと示している。








ノブを掴み扉を少し開け、中を確認すると案の定真っ暗だ。


勇気を決して俺は扉を静かに開けて体を隙間へとねじ込むように部屋に入った。


嗅覚、視覚、聴覚、全てを研ぎ澄ますがなんら変わった事は今の所皆無。


壁際にあった電気のスイッチを入れて廊下を照らす。


照らされた廊下はなんの変わりもなく、強いて言うなら埃が無いことぐらい・・・だ?


恐ろしい事に俺は気づいたのだ。


埃だらけのゴミ箱と化していた部屋が綺麗になっている事。


いつも乱雑であった玄関も、良く履く靴だけが玄関に並べられ、後は全て下駄箱の中。


嬉しい、と言うとでも思っているのか!?


怒りを推進力に早歩きで廊下を駆け抜け、勢い任せにリビングの電気を付けて扉を開けた。


そして俺は足を崩し床に堕ちていった。


そうそこにはリビングの真ん中にある机には・・・



”鼠の頭部”だけがひっそりと置かれていた。



百足の章

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

呆れた心が身を焦し、憎悪となってこの身を焼く。


ただ息をするように生きる彼が憎い。


だが焦りは禁物。


忠告は残留している。


彼が告白した罪の数だけ。


あいつは協力してくれた。

感謝に余りある行為だ。

あと少しで忠告は遂げられる。


その多い足でもがいて、正しい道を研鑽するがいい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


正方形の冷たい石壁で囲まれた部屋に俺は居た。



「それで全部ですか?」しかめっ面の刑事が腕を組んで俺を睨む。


「はい、これで全部ですよ」俺はまるで犯罪者の様に縮こまっていた。


「あなたが言っている・・そのストーカー行為といいますか?物的証拠がないと逮捕なんて到底できませんよ」刑事は少し呆れ顔だ。


「そんな・・でも嫌がらせをされているのは事実じゃあないですか」俺は言葉を荒げた。


四畳半程の狭い部屋に四角い鉄製の机に愛想の無い刑事と俺はにらみ合っている。


空虚な部屋はどこか冷たい。


「落ち着いてください・・まず整理しましょう」刑事は人指し指をリズム良く叩き始めた。


「まず容疑者は二人、あなたとの別れで恨みを持っている安藤 明、そして一夜限りで裏切ったかもしれない 橘 圭子・・この二名で良いですね?」人指し指を止め俺を見つめる刑事。


「はい」何だか改めて、この状況を他人から話されると如何に自分がクソッタレ野郎なのか思い知らされる。


「昨日の朝、嫌がらせに鼠の首なし死体をアパート扉前に置かれ、そして昨夜は家のリビング中央の机に首だけの死体が置かれていた」人指し指が止まる。


「はい、その通りです」俺は先程渡された刑事の名刺を机の下に隠し見ながら言った。


鮫島 総一朗という名前なのか・・名前通り冷淡で血の気が多そうな奴である。


「わかっているのがこれだけでは逮捕状なんて出せやしないんですよ・・確かに家の鍵が開けられた所を見ると、元彼女である安藤 明が怪しいのは確かだが扉の鍵なんてちょっとした技術があればいとも簡単に開けられてしまうのが現実だ」鮫島は眉間に皺をいっぱいに寄せた。


「わかりましたよ」俺は椅子から腰を上げてすぐ後ろにあるドアノブに手を伸ばすと鮫島が俺の背中に言った。


「言い忘れていましたが昨夜リビングの机に置かれていた鼠の頭部・・その口に矢が銜えられていたんですよ」鮫島の言葉を聞いて俺は思わず動きを止めた。


昨夜は錯乱していて良く見ることをやめていた。

それに鼠の血が机に散乱していて口元など見える様な状況ではなかったからだ。


俺は鮫島の言葉には何の反応も出来ず、俺は警察署を後にした。


警察署からは歩いて帰る事にした。


今日は昨日の事件のおかげで会社は休ませて貰っている。

そんな特別な日ぐらい社畜はボーっとしていたい。


断じて今から出勤するような愚行はしない。



まだ俺には重要な仕事が残っている。


俺は携帯を手に取り、電話を掛けた。



「・・・・はぃ」その電話の声の主は安藤 明。

声にはまるで生気が感じられず、まるで死人と話している様。



「お前・・もうやめろよ」聞こえてきた明の声に合わせるように俺は囁く様に言った。


「・・・」電話口からは嗄れた電子音が響いている。


「いいかげんにしろよ・・俺達はもう終わったんだ」俺は叫ぶ様に言って電話を切った。



俺は旗から見たらとんでもない罪人だ。

だが明を犯人と確定したというわけではなく、今は恨まれても芽を潰すべきだと考えた。


警察はこのままの現状では何もしてくれない。


せいぜい俺のアパートの周りの巡回を数回増やす程度だろう。

このままでは犯人はつけあがり、エスカレートしていくに決まってる。



不毛な戦いを止めれるのは自分だけだ。



俺は明の電話を切ってすぐに、ある人に電話を掛けた。


「圭子さん、いきなりすいません」俺は掛かった瞬間に言った。


「今日は大変だったわね・・大丈夫なの?」圭子さんは心配そう言う。


「多分大丈夫です」俺は言葉を詰まらせながら言うと圭子さんは返事に困り小さく唸った。

もしかしたら今俺はとんでもないストーカーと話しているのかと思うと足が震える。


「今日もし暇なら飲みにでも行きませんか?」俺は前の言葉の返答を待たなかった。


「いいけど・・妬かれるのは嫌よ」圭子さんは少し低いトーンで言った。

圭子さんの言うとおりである。


水琴に圭子さんと二人きりで出かけたのがバレたら圭子さん含め俺も大変な事となるだろう。

水琴のそういうヤキモチな所も可愛い場所ではあるんだが、今は障害物以外の何物でもない。


危険極まりない案件である。


だがこれは今に始まった案件ではない。


そう水琴と付き合う前に俺と圭子さんの間に何があったのか・・これが大事なのだ。


「それはそうなんですが大事な話がありまして」俺は電話口で困った顔をして頭を掻いた。


「わかったわ、今日の夜に前行った居酒屋で」そう言うと圭子さんは電話を切った。


これで全てがはっきりする。


夜まで部屋で怯える様に過ごし、居酒屋へと向かった。

安藤に強引に啖呵を切った手前でこんな言うのは少々恥ずかしいのだが・・


”怖いのだ”


失う物が無い人間は何をしでかすか、わかったもんじゃない。


況してや長く寄り添い愛を深めた仲だ。

哀も充分深くなっている事だろう。


そんな事を思うと居酒屋に行く道はまさに茨の道。

物陰という物陰を見つめながら俺は完全に挙動不審者。


だが時間とは過ぎるもの、古めかしい木造建ての”古い屋”という居酒屋は見え始めていた。


古めかしいスライド式の扉を開けると店内の高いカウンターに座った婆が一人座っていた。


「どうも」そう言って会釈すると婆も震えにも似た鈍い会釈を返した。


辺りを見回し奥の座敷に目をやると笑顔の圭子さんが俺に手を降っていた。



そそくさと頭を縦に揺らしながら奥の座敷へと急ぐ。

自分から誘っておいて遅れる後輩は明らかに悪いからである。


「すいません」そう言いながら席へ着くと既に机の上にはビールの瓶が何本か置いてあり、先によろしくやっていたみたいでスっと息を降ろした。


「遅いわよ!!」そう一喝したのも束の間「さぁまずは乾杯」少し上機嫌な圭子さんは満面の笑みで俺の方にコップを差し出しビールを注いだ。

茶色ガラスの瓶は注ぐと同時に体に付いた汗を机に落とした。


「乾杯」そう言って机の中央でグラスをぶつけた。


ビールを流し込む音が静かな店内に響く。


「ぷはーうめえ」思わず口にしてしまうこの言葉は歳を取ったのだと思わせられる、何とも感慨深い一言である。


俺が一息つくと圭子さんは言った。


「わかってるわよ、あの日の夜のことでしょ?」圭子さんは机に肘をついて顎を手の甲で支えた。


その際にぱっくり開いた胸元に谷間がチラリ。


「は・・はい」場はまるで戦場の朝。

張りつめたピアノ線が周りを囲っていると思うほどに固まったままだ。

無意識に飲んだ生唾の音は俺にもそして圭子さんにも聞こえたことだろう。


「あの日はSEXしてないわよ」きっぱり!!この言葉がお似合いだ。


「え?」俺はあまりのきっぱりさに唖然!思考停止!


「え?じゃないわよ!酔って潰れたあんたを介抱したんだから、感謝しなさいよ」圭子さんは少し頬を膨らませた。


「なんか・・すいません」本当に申し訳ないことこの上ない、俺は圭子さんの顔を見れなかった。

”したか””してないか”をわからないまま有耶無耶にしていたのは圭子さんにはバレバレということなのである。


「ホテル代は払ってくれてたし、別にいいわよ・・それに」グラスを口元に近づけ一口、そして圭子さんは続ける。


「あなたがわかったから、良いわ」圭子さんは真っ直ぐな目で俺を見つめる。


「なんか口滑らしてました?」俺は思わず目線を圭子さんからずらす。

そして胸元に咲いた豊満な谷間がチラリ。


「気をつけなさいよ、人を信じるってことは自分を信じるって事よ、そして全員敵であり味方よ」圭子さんは言い終えるとグラスを口元にゆっくりと近づけ一口。

そのグラスから零れた水滴が木目の机に落ちて、ゆっくりと浸透していった。


「どういうことですか?」頭の悪い俺には話の内容が理解できない。


「見方の問題よ・・人は人を知ることはできない、何故なら自分を知る事すらままならないからだ」圭子さんは俺を透かして遠くを眺める。


「誰の言葉です?」その言葉を俺に汲み取れと言うのは非常に困難だ。


「さぁ?今考えたから・・じゃあ」圭子さんはそう言うと座敷を立ち上がり会計をした。


「あんた酔いつぶれるのがわかったから帰るわよ」圭子さんは少し赤らめた顔をして言った。


「ありがとうございます。」俺がそう言うと圭子さんは持っていた鞄ごと大きく右手を振り回した。



俺もさっさと会計を済ませて夏の終わりの夜長を歩く。


話を聞いてよかったと思う。


少なくとも、圭子さんは白になった。


やっぱり嫌がらせの犯人は・・考えたくもないけど”安藤 明”だったんだ。


俺は確信にも似た高揚を体で感じていた。






弓の章

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あなた様ならこの意味がわかるはずだ。


主よ、ご主人さまよ。


奴は鼠だ。

それを見つけるんだ。

鼠はあなたを蛇のように離さない。

執拗に、煙の様に絡み付いて、尾についた針で刺すだろう。


あなたはこの世界を求めてる。

私には聞こえる。


あなたの声が、悲鳴が嘆きが。


”矢は放たれた”

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 





歩いて帰る俺の懐で突然音が鳴り出した。


Prorororororororororororororororororororororo-


携帯の画面を見て俺は戦慄が走る。


冷や汗と共に滅入った頭が朦朧を導く禊となる。


電話に出ぬ事も出来ず、無下にも出来ず、俺はボタンを押した。


「もしもし」俺が出るとすぐに話を始める明。


「今日の・・さっきの電話の意味がわからない・・私は何もしていない、馬鹿にしないで・・・・・別にいつまでもあんたにばかり付いて回ってる女だと思わないでよ」明は早めの口調で口上を述べた。

触れればその雫は刃となり、俺の心も体も切り刻んでしまいそうだ。


「やってないのか?」俺は問いただす剣の鞘となる。


「やったやってないの話自体の意味がわからないわよ・・」明は呟く。


「そうか・・悪かったよ、俺最近疲れててさ」俺は息を荒くした。

明が嘘を吐いているようには見えない、であれば誰がしたんだと自問自答の雨嵐。


「大丈夫?あんまり頻繁には行けないけど話聞こうか?」頻繁に?俺はその言葉が気に掛かる。


「言い忘れてたけど彼氏出来たの」明ははっきりと国語教材CDよりも遥かに聞こえやすい声ではっきりと。


「そうなんだ」俺はどうでも良い様な態度平静を取り繕う平成の悟り世代の弊害。


「だから・・あまり連絡もできないのよ・・・」安藤が俺を労わっているのが台詞の間の妙な間でわかる。


「悪い・・切るわ」俺はそういってすぐさま耳から携帯を放して電話を切った。


これは悪い冗談だろ?


目に映るものすべてが真実とは程遠いジオラマ。

ショーケースの中で俺は叫んでいるのだ。



”俺は・・俺の命は人生は記憶は・・・・・何だ”



俺は突然痛み出す頭を抱える。


悪寒を感じ、携帯を見るとメールが一件。


水琴からのメールだ。



ーーーーーー


Re:Re:Re:Re:Re:Re:


本文


これで最後。

君は気づけるはずだ。

そうであると信じている。

自分の過ちを感じ受け止め、真の愛はそこにある。


折れない三本の矢であっても、一本無くては意味がない。

ーーーーーー



この文が水琴じゃない事だけはわかる。

何かの悪戯なのか?と安易な方向へ思考停止させるが悪い予感が歯止めを掛ける。


矢の話をわざわざ最後にしてくる奴は”奴”しか居ない。


狂った自己陶酔粘着質 犯罪者。


だが最後の容疑者である安藤 明の線は脆くも崩れ去ったばかりだ。


俺は蜘蛛の巣の様に張り巡らされた奴の手の中でただもがいてるだけだったのだ。

携帯を凝視して固まった体は着信音によって飛び上がる。


また水琴からのメールだ。


ーーーーーー


Re:Re:Re:Re:Re:Re:


本文


時間は有限だ。

君の猫は君のお腹の中に居る。


もがけばまだ間に合う。


この世界が崩れる前に早く来い。

そして悔い改めろ。


君の家で待っている。

ーーーーーー


異常・・この言葉以外に何も思い浮かばない。


俺は携帯を握りしめて、煌びやかな揺らめく夜の灯篭を切るように走った。


しばらく走って握った携帯を見ると圭子さんから着信があるのに気づいた。

俺は走りながら圭子さんに電話をした。


「どうかしましたか?」息を切らしているせいか、圭子さんにこう聞こえたかどうかは定かではない。


「行っちゃ・・、あ・は私が・・を渡さな・・・良・・・、聞いてる?は・・・はま・・・そ・じ」タイミングも電波も悪い・・今はそれどころではない。


俺は自宅アパートまでそのまま走った。


メールを受けたのは夜の11時。

走り通して45分、遂に俺の自宅アパート前にたどり着いた。


すでに足は疲れを当に越し、鉄の様に硬直している。

だがそれでも俺の部屋の明かりが点いているのを見ると、足は地の底から震えている。


”僕は怖い”


”僕は何も知りたくない”


”僕は・・僕は”


僕は?咄嗟に頭に浮かんだセリフはどれも俺に似つかわしくない呼び名。

人間は恐怖を感じるとおかしくなるという。

それは漫画や小説のおとぎ話でその時が来たら、何とかするしかないと心底思うのだ。


だがそれは違った。


人は誰でも異常なりえる可能性を秘めている。

裏を返せば正常になりえる可能性も秘めているということ。


アブノーマルならノーマルに戻すんだ。


こんなつまらないことは終わりにしよう。


俺は決心と共に鉄塊となった足を引き摺るようにアパートの階段を上がった。


一段・・一段・・・また一段。

ゆっくりと這いずるように上がっていくと後ろに気配を感じた。


俺は首を後ろへ向けると ゴッ!! 鈍い音ととも暗闇が視界を占領した。


意識が遠のくのは一瞬だ。


光が走るような感覚、つまり意識が遠のいた瞬間は闇が走るのだ



「起きろ」歪んだ音の様な声が聞こえると、体に痛みが走り回る。

体は小刻みに揺れ、人間としての反応を遮断される。


「ぶうがぁ・・あがあああ・・あが」まるで飢えた獣の様に痛みから解放されたいと言葉にならぬ叫びをあげる。


「だから警告しただろ?」そう言う聞き覚えのある声の主は深々と被ったフードで顔が陰っている。


体への痛みが終わり、俺は両腕を見て悲鳴を上げた。


辺りは闇に包まれていても見える、手足は銀色のテープで厳重に縛られ、両腕にはケーブルで繋がれた金属の棒が刺さっていたからだ。


「これはもう警告ではない、罰だよ・・そうだ人間は電気を流すと叫ぶんだ、そして混濁した電気信号の中で走馬灯の様に自身の罪を思い出す」声の主は手のひらをお天道様に向け、自分は断罪の神だと言わんがばかりの立ち振る舞いをしている。


暗がりに目は少しづつ慣れ、良く周りを見渡すと、牢屋の様な小さな部屋だということがわかる。


声の主は言い終えると闇の底へとぬるりぬるりと歩いていく。


足音が部屋を反発し合い、不協和音となって耳に届けられる。


カチッ スイッチの音が聞こえるとその瞬間、目の前にスポットライトが現れた。


そしてそのスポットライトに照らし出されたのは手足を縛られ気を失っている水琴の姿だった。


「水琴!!」俺は見る否や名前を叫ぶが反応は無い。


「寝息が聞こえないか?・・まるで童話のお姫様みたいに」声の主はスポットライトから二歩程離れた場所に現れ、冗談交じりに言った。


「冗談じゃない!!お前は」俺は目を吊り上げ、牙を剥き出しにして叫んだ。


「忠告を無視しておいて・・言葉は選んだほうが良い」声の主はさも当然のことの様に”忠告”という言葉を口にする。


「何が忠告だ、子供の悪戯じゃないか」俺はもうどうなってもいい、せめてあの子の命だけは・・。


「お前は盗人だ、親友の物を平気で横取りして自分の物にする、親友が仲を取り持とうと必死だった奴を裏切り傷つけた・・・お前の罪は窃盗と裏切りだ」そう言うと声の主はフードを手で上げて顔を現した。


8割はわかっていた。

声と体格で大体の判別はできる・・俺は信じたくなかったんだ。













お前を信じていたかったんだ。













「宗次・・」俺は顔を背け呟いた。










「そうだ俺はお前の同僚で忠告者の松本宗次だよ、俺に感謝して欲しいくらいだ・・・お前を正しい道に導いてやろうとしたんだからな」宗次は眼球を鋭く開き、口元を三日月にして笑っている。

今思えば花見の時に助けてくれた事も圭子さんと付き合わせるための工作だったんだな。


「うどん屋で言っただろ?”気をつけろよ”ってよ・・まぁもう遅いがな」宗次はポケットに手を入れて言った。


「それにしても水琴は綺麗だろ?いっそこのまま汚い世界に居るより消えた方が幸せだとも思うんだ」宗次はポケットから手を引き抜くと、その手には小さなガラスが握りしめられていた。


「やめろ・・」俺は目いっぱい叫んだ。

叫び声が暗闇に包まれた部屋を木霊する。


すると宗次は笑いながら水琴の手首をナイフで撫でた。


スポットライトに照らされた、水琴の手首からは静かに確実に血が流れ床は赤い池となった。


「何故だ・・好きなら・・・何故?」俺には全く理解不能だ。


混乱するなと言うほうが無理な話だ。


「ある人が教えてくれたんだ、罰を与える前に罪を教えろって・・それ以外にも色々と・・・・・お前にまだ名前が無いって事もさ」確かに宗次は言った・・そう言った。






「ffeuhfeojgtmnrmmmmm[[[[[[[---------・・・主人様」


「誰・・?」俺がそう言うと「?・・俺は宗次、遂に頭がおかしくなったか?」耳にではなく、頭に直接響いてくる声。

宗次には全く聞こえていない様だ。


「今ならまだ間に合う・・舌を噛み切るんです」誰かが急かすように訴えかけてくる。


「いったい何なんだ?お前は誰だ?」聞いたことがあるような聞いたことが無いような、でも懐かしくて暖かい声だ。






「私が誰かはあなたが一番よくわかっているはずです、この永遠ともいえる様な夢幻の螺旋を共にしていた、あなた様なら」


「わからないんだ、何がどうなってる?わからないんだ」


「それならすべてを戻せば良いのです・・全てを白紙に」


「・・・・・」hlojdhgodghlllllllflgfgfgfgrppppppr[l,fxd.////








そうだったなお前は俺だ。






ブチッ



自分の顎にここまで感謝した事はない。


舌は綺麗に千切られて、俺の口を泳いでいる。


宗次が何か言っている。



意識が遠のいていく。








RE:




「これはどうだ」そう言って写真を俺に差し出したのは硬い顔をした刑事の{鮫島(さめじま) 総一朗(そういちろう)}。

40歳で中々のベテランであろう事は何も聞いて居らずとも容易にわかる。

鮫島のいつも不機嫌そうな顔は修羅場を潜ってきた豪傑のそれだからだ。


俺は写真を受け取りさっと流すように見た。


そこに写っていたのはスーツ姿の男性で以前どこかで会った事のある男だ。


「黒だ」俺は写真を丸いテーブルの真ん中にそっと落とした。


「こちら珈琲になります」素敵な笑顔で俺と鮫島のテーブルに湯気立った珈琲を置いたのはこの綺麗なカフェテラスで働く看板娘。

ウェイトレスの{三上(みかみ) 水琴(みこと)


彼女は俺の事を知らないが俺は知っている。


                  ~完~

                                        そして白紙へ、、、

色々やりたいことがまだまだあった作品だったけど、これにてこの章は完結。

いつかまたリベンジするよ。

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