曖昧コピーキャット(11/21編集)
後味が悪い感じの話です
自習中にそれは起こった。というか原因が叫んだ。
「白髪ちゃんの彼氏、寝とっちゃった☆」
困ったちゃん。持て余し者。鼻つまみ者。DQN。
そんな言葉をほしいままにする、クラス一の馬鹿女が大声でそれを言い出した時は全員(私と縁ちゃん含め)、呆気にとられた。当の縁ちゃんは何のこと? という感じでその脳内に腐った漬物を詰め込んでいそうな女を見ていた。そんな縁ちゃんを見て、何を思ったのか馬鹿女はドヤ顔でニヤニヤとし笑っていた。……何というか、どうしてそう人の顔色を自分の都合よく解釈できるのかしらねぇ。
私としては、この子ったら縁ちゃんへの僻みをため込みすぎてついに頭がおかしくなったのね……。とか思っていたけど。
そもそも、縁ちゃんには彼氏はいないもの。旦那さんはいらっしゃるけど、まさかこの子には言えないしね。でもそれはクラス全員(馬鹿女除く)が知っているわけで。
この馬鹿女は、こいつ私より美人から気に食わないとかいう、しょーもない理由で靴隠しとかわざとぶるかってプリントばら撒くとか、縁ちゃんに一方的にいちゃもんをつけてはよく絡んできた。縁ちゃんは適当にあしらって相手にしてなかったけど。だから、誰も信じないような嘘でも吐かないとやっていけなくなったかもしれないと思った。全く努力の無駄遣いしているよねえ。
「――なんてことがあったのよねえ」
「相変わらずトラブルに愛されてるね縁さん。ついでに男の趣味も悪いよね」
「どこが?」
「だって慧創先生だよ? 偏屈と筋肉と説教でできているような人だよ? 本当にどこがいいの? 癒しゼロどころかマイナスだよ」
「君の眼は節穴? 先生なんて砂糖とスパイス、素敵な何かでできているような方じゃない! 昨日だって、私が犬の耳と尻尾をつけて、『わんこと私の10の約束』読み上げるだけで泣き崩れていたし!」
「……やっぱり趣味が悪いよ縁さん……」
「……いや、その、可愛くてつい……」
「ていうか普段何やってんの縁ちゃん……」
そんな感じで部活の準備中に話をしていたら、今夕依ちゃんが入って来た。
「みんな、今夕依ちゃんもぎたて速報やで~」
「どうしたの今夕依ちゃん」
「縁ちゃんと真実くんと同じクラスのびっちちゃんに他校の彼氏が出来たらしいねん。迎えに正門に来てるからって観察しに行ったら、めっちゃ長身のイケメン! これって大変やん!」
「ああ……もしかして例の私の彼氏ってヤツ……?」
「あえあ? 何かあったん?」
不思議そうな顔をしている今夕依ちゃんに、今日の自習中に起きた話をすると、
「その子、縁ちゃんの関係者とかうそぶいて、びっちちゃんに近づいたんじゃない?」
今夕依ちゃんはそう言った。あの馬鹿女は、黙ってさえいればモテるタイプだと男子が話をしているのを聞いていた私は、彼女の話に納得した。
それからどうなったかいうと……悪化した。馬鹿女は縁ちゃんが居る時に限ってその彼氏との惚気話、主にセクロスの時の話をするようになったしかも大声で……。でも、そこはさすがは縁ちゃんのスルー力。完全にその馬鹿女はガン無視して過ごしていたわ。馬鹿女は縁ちゃんの超無関心な態度が気に入らなかったみたいで、
「カマトトぶってんじゃねぇよマジキモイ」
机の上にあった縁ちゃんの筆箱を縁ちゃんにぶつけ、職員室に呼びだされていた。絵にかいたような馬鹿だわ。
そして数日後、ピタリとその彼氏の話はなくなった。というより、馬鹿女が学校に来なくなったの。でもみんな大して気にしてなかったし私も縁ちゃんも気にはしなかった。元から遅刻無断欠席多かったし、縁ちゃんに嫌味言うために学校来ているような子だったしね。
……薄情だと思う? 考えてみなさい? 毎日毎日、大声でエッチな話を一歩的にされてみて!? 想像しただけで勘弁してほしいでしょ! まあ、クラスが平穏になったってことで、気にする奴は一人も居なかったけど……先生達はは別なわけで。
なんでも馬鹿女の両親が職員室に怒鳴り込んできて大騒ぎだったらしいわ。いわゆるモンスターペアレントってやつね。職員室に怒鳴り込む前に警察に捜索届出せばいいのにって話だけど、どうも裏でやばいことをバレそうだから警察に連絡したくなかったらしい。悪い意味で似たもの親子だったのねぇ。
そんなわけで、何故か担任の慧創先生が馬鹿女の行方探しをする羽目になった。慧創先生は元同級生がやっている探偵事務所に依頼して、行方を捜したんですって。それから数日後に、見つかったの。……無言の帰宅ってやつで。
かなりむごたらしい姿で死んでたらしいわよ。身体中がこう、解体された人形みたいに? ねじられていたらしいの。結局、縁ちゃんの彼氏、もとい馬鹿女の彼氏さんは何だったんだという謎が残ったまま終わった。