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MMORPGにおける、インフィニティーダンジョン探検日誌

 

 はあ、なんで僕はこんな所にいるんだろう? 

 目の前で紅の電光を弾かせながら、青髪の乙女が軽やかに宙を舞い、敵を次々と薙ぎ倒す。そんな彼女を見ながら少年は内心呟く。

 均整の取れた理想的なボディーは、例え現実だろうとゲームの中だろうと一切変わらない。

 多少女性にしては背丈があり、スポーツで鍛えている為、多少肩幅等はしっかりしてるが。全体として見てみて、全く女の子らしさを失わない。

 そんな彼女に大して自分は。男だというのに、だいたい同じ様な体型という。全く嬉しくない事実。


 「はぁ~、大変だったわね~。やはりこの階層ともなると、敵に手応えがあるわ!」


 それはその筈であろう。このゲーム、近未来のテクノロジーが可能にした。リアルヴァーチャルシステム技術の産物。

 現実と寸分違わぬそういう世界でも、流石に身体能力には制限がある。彼女は今リアルと同じ身体スペックではない。彼女本来のそれは、単純に言って一国の軍隊の数個師団を敵に回せる、そういうありえないほどの特異能力者。

 そこに至る過程は省くが。この世界が生んだ有能者。そういう認識で構わないだろう。


 「レイチェル、次はどの道に進むんだい?さすがにこの先はもしかしたら、ゲーム製作者も作ってない可能性があるんだけど、、」

 「大丈夫、大丈夫!その時はわたしが悪質クレームつけるだけだから!!♪」

 「はあぁ、ほどほどにしなよ。変にブラックリストに乗りたくなければね」


 ここは何処かと言うと。ある∞(ムゲン)階層都市、という設定の。とある都市のとある地下隠しダンジョン。

 それだけなら何処にでもあるが。この地下隠しダンジョンは、”無限に地下がある”というゲーム設定にともない、”無限に続くダンジョン”としてユーザーに評判なのだ。

 売りが”そこ”というのもあるが。無限に続くという事は、無限に潜れば。まあ潜れればの話しだが。無限に見返りがもらえる、というのが”この手のダンジョン”なら当たり前だと思う。

 MMORPGで限られたリソースを奪い合うというのは、もちろんこの場合にも付きまとう問題だが。このような特異点を作り出すことによって。リソースを奪い合うという発想に基づく、基本的なMMORPGのゲーム観などではなく。

 そもそもそういう窮屈な制限を、全て撤廃・排除した新たなゲーム観だ。

 つまり強くなれば強くなった分、確実に見返りがもらえる、見返りの限界上限値のない形式で。要はそういう発想を僅かばかりでも、プレイヤーに錯覚させるのに役立つのだろうね。

 プレイヤーとして純粋に強くなる事に対しての、大きなモチベーションになるという事だ。このダンジョンはそれ自体を、ただゲーム内に存在を誇示しているだけでも、十分に生み出せそうだ。

 ここは、そういうゲームをより楽しくする為の、ゲーム要素として。又は機能としてかな?一つのゲームステージとして大きな役割を負いつ、成立・存在しているのだ。


 そのようなゲーム会社の運営やら、あるいは陰謀。その他さまざま必要から。大人の事情によって成り立っているとも言えてしまう。この、ある種繊細な特異点ダンジョンを。制覇し、又は崩壊させるかのごとく。

 そのくらいの勢いはある。力技に近い荒業で。この目の前の少女はこのダンジョンに挑んでいる。

 もう既に単一のダンジョンへの挑戦では無くなりつつある。なぜなら彼女のやってる事は、そんな生易しく健康的ですらある、そういうスケールではなくなっている。

 このゲーム自体に挑戦状のようなモノを叩きつけているようではないか? 少なくとも僕には、今のプレイ状況が、そんな感じに見えてならない。


 「レイチェル、やっぱりやめた方がいいんじゃないかな?」

 「なに?怖気づいたの?なら一人で帰ってもいいわよ。もちろん一生軽蔑して見下すけどね!」


 とまあ、こんな調子で言われれば。さすがの僕と言えど、男としてのプライドを刺激されるわけで。どうしようもなく半ば強制的に、同行させられている訳ですけどね。


 しかし、ありえない程潜ったものだ。本来のプレイヤーレベルで、その基本能力値だけなら絶対に辿り着けない階層、地下78階。

 これがどれだけ凄いのかは省略するが。なぜその前人未踏の領域に、廃人ゲーマーでもない彼女が、毅然と平然に、存在しているのか?

 そのトリックは単純だ、ただゲームシステムが不意に。不本意だろう穴を突かれ。不具合やバグの類の能力値補正を彼女に与えているからだ。

 このゲームの面白い所でもあるのだが。リアルの身体スペックによって。システム上無限大の範囲内で。プレイヤーキャラの能力値に補正を与える。そのシステムの貧弱性。と製作者側を責めるのは酷かもしれないが、そのせいで。彼女に何の苦もなく我が物顔で、この階層までの到達を許してしまったのだ。

 ただそれだけの話と、一言で片付けられればいいが。そうは問屋がおろさない。だろうなー、、、と苦々しくも製作者側の立場で、同情の念さえ抱いてしまう僕なわけだ。


 まあ、それらゲームシステムの穴を突いた。ただただ、それだけの。単純な能力値補正だけでは。きっと此処までは辿り着けなかっただろう。

 装備も基本能力値も大して高いほうではない。当然だ。なにせ彼女は廃人ではないのだ。プレイヤーとしての相対的力量がこの面で低いのは自明の理だ。例え装備をこの階層に到着するまでに、多少揃えられていたとしても。選りすぐりの、それこそ上位ランカーの装備とは。あまりに程遠いモノであったのだ。

 ならばなぜ? 彼女がここまでの奮闘を見せるのか? それを説明する象徴的な戦闘として。50階層目が最も見栄えもしていたと思う。


 先に言った事柄から、せいぜい50階層目で現れた。階層の半分を踏破したプレイヤーを称えるかのような、黄金の色をした竜。ドラゴンの上位存在という設定だ。その本来なら数十人単位の複数のプレイヤーで、やっと退治できるモンスターに。たった一人で挑んだ時点で、彼女は倒されるのが道理なのだ。

 例え僕の援護が多少なりともあったとは言え。ほぼ一人での戦闘だ。だが最後までたった一人の力量で倒しきってしまったのだ。その忍耐力や集中力は、大きく貢献していると思うが。それだけでは説明できないだろう

 更にその偉業の裏にあった、彼女の反射神経。それがある意味決定的な要素だと思う。

 それこそが多分に考慮に入れる必要がある、このゲームを攻略するキーに、少なくとも彼女の場合はなったのであろう。それが多くの場面で、大きく彼女のゲームプレイを支えていたのは、僕の目から見たら明白だった。

 例えばその黄金の竜は、たった一人のプレイヤーに加えられるには。あまりに多すぎる弾幕を彼女に放っていた。その数は何十という単位ではない、何百だと観測できた。それをすいすいと平然と避けられるのだ。そう彼女の場合は、奇跡的回避を必然でもあるかの様に。何百回であろうとも繰り返せるからだ。


 それらはまるで某弾幕シューティングゲーム、そのTAS動画内で行なわれるかのような光景だった。

 本来その様な回避自体想定されていない筈だ。それが誰でも出来ていたら、このゲームは簡単にゲームバランスが崩壊してしまうだろう。さっきも言ったけど、少なくとも僕にはそう見えた。

 だってそのように、卑怯とも思えるほどの、縦横無尽で自由すぎる戦闘機動が出来たら。本当にこのゲームでは、色々と苦労しないと思うのだ。基本このゲームは鈍重な世界観なので、軽妙でトリッキーすぎる彼女の回避の仕方は。ハッキリ言うとこのゲームっぽくないのだった。どこかおかしいと感じる、そんなプレイスタイルが、彼女の場合当たり前になりつつある今日この頃、最近で最新の話ではあるのだが。


 そんなゲーム世界観を超越したような彼女だ。本来避けられる筈のない攻撃、レーザーの網でプレイヤーを蹂躙するような、否、実際していたように見えた。

 そのような竜の波状・飽和攻撃に対して、彼女の行なった回答がそれだったのだ。その手の弾幕ゲームの超熟練者張りの挙動を用い、全て避け無傷でやりすごす。このゲームでそんな事を完全に再現したのだ。一発くらいは当たっても、即アバターが弾け飛ぶこともないのに。

 そんな言わば反則のような反射神経がある時点で。このゲームは彼女が行なう事を想定しては、作られていないだろうなーと思った。


 そんなわけで、その50階層では。それら素晴らしい立ち居振る舞いを、長時間難なく続け。最終的に竜の急所を何度も貫き、絶命に至らしめた。

 それらは彼女本人のプレイヤーとしての技量と、一口に言ってしまっていいのか? つまり彼女本来の持つ純粋なそれら、人類を粗方超越したそれらの特異能力、性能の事を言っているのだ。特異点ダンジョンが特異能力によって破られる、そんな話、全くもって笑えない。と思ったものだ。


 それもそうだろう?正攻法でモンスターの攻撃パターンや、その他もろもろを入念に分析し、このようなボス戦に集団で日々挑む、そんな熱心な勇者とも称えてもいい。全てを投じて全力投球で挑むプレイヤー達が沢山、それこそ星の数ほどいるのだ。そんな彼らに対して、僕のような人並みの感覚を持つものならば。とても申し訳がたたないと。そういう感情を持つものなのだがね。

 付け加えると彼女の判断能力等、状況分析能力も物凄いのだ。でもだ、それら先天的ともいえる能力だけで。彼らのゲームに注ぐ努力、それら全て超える成果を出すのは。やっぱりなんとなく納得がいかない、そういう僕なのだ。


 だから取り合えず、そんな規格外の彼女が挑む、このダンジョンの記録を刻銘に残すのだ。直接脳波書き込み式ならば、それがゲームプレイを平行しながらでも可能だ。まあこれが、ゲーム製作陣の改善等にすこしでも助けになれば、幸いであると思うのだった。

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