お約束といえば
とりあえず城から逃げ出してきた俺たちは、手近な路地裏で休憩していた。
すぐさま行動を起こして、城下町なんて危険な場所からは早く出ていきたい事は行きたい訳だが……
「……しつこいな」
「あたりまえだろーが……」
サトと同時に表通りの方をそっと窺い見る。
ざわざわと賑やかな通りを、5人組の騎士が鎧をがちゃがちゃ言わせながら通り過ぎて行った。もちろん王が放った追手だ。
さっきからさほど時間をおかずに姿を見ていることから、人数に明かせたローラー作戦だろう。あの王、やはり頭が切れるな。土地勘も頼りにする当ても、身分証明すらない俺たちを探すにはどうすれば効果的なのかよく分かっている。
「ち、放心してる上にパニックになっていたようだから放置しておいたが、やはり手足を縛ってさるぐつわをかませるぐらいの事はしておいた方が良かったか」
「舌打ちすんな。んでもって相変わらず発想が過激だなお前は。つかロープもなんも無いのにどうやって縛るんだよ」
「ん? 遠くを見通す魔法と見えている物を転移させる魔法で城のどこかから調達すればいい」
「もう何でもありなんだな、その剣……」
どこかがっくりと脱力した目でサトが見るのは、俺が左手で鞘を持っている聖剣だ。真っ白い石を削りだしたかのような1メートルほどの直剣は、柄の装飾が一部不自然に削れている。当然ながら俺が削った部分だ。
何とか美しく整えられないか、と考えだして黙った俺に、サトはふと思いついた、という風に声をかけてきた。
「……なあ」
「何だ」
「その剣さ、まさか欠けても勝手に直る自動修復とか王家ならいつでも居場所を探れる発信機的な追尾機能とかついてないよな?」
「後半部分に関してはもう削ってある。が、なんで前半の機能があったら問題になるんだ?」
「もう削ったんかい。いや、じゃなくてだな、勝手に直るとその、削った部分もいつの間にか復活したりする可能性あるよな?」
「…………、」
サトの言葉にしばらく考える。
「成程、確かに有りうるな」
「便利機能っちゃ便利機能なんだろーし、そもそも聖剣なんてモノを修理できる奴がいるのかどーか疑問だし、そりゃ残しといた方がいい事はいいんだろーけどさ?」
「だが今回の場合は仕方が無い。しかし、戦い方を考え直さないといけないな……」
頷きを返し、返しそびれているナイフで修復機能部分の刻印を削る。また聖剣に傷を増やしてしまった……
しかし本当にそろそろどうにかした方がよさそうだ。表通りを捜索し終えたらしい騎士たちが路地裏へ向かいだしたのが見える。俺たちが今潜んでいる場所へ向かっても、がちゃがちゃと金属鎧の足音が聞こえてきた。
「ふむ、それではサト、そろそろ行くか」
「だーから、行くってどこにだよ。街の外とか絶対封鎖されてて無理だろ? んでもってオレの名前はみのるだ」
全く、こいつは何も分かっていない。
ここは剣と魔法のファンタジー世界だろう。そして今体験したのは異世界勇者召喚だぞ。ここまできたらあとはテンプレート通りにすればいい。
「冒険者ギルドへだ。ぱっと見ても分かりやすい立地と外見だったから、もう目星をつけてある」
「つけてあんのか!? お前ホントそういうの大好きだな!」
「俺からゲーム漫画ライトノベルを取ったら何も残らない自信がある。それにちょうどよく大通りから騎士の姿が消えたしな。急ぐぞ」
「頭脳明晰運動神経抜群のイケメン優等生が何言ってんだ。それにちょうどよくっつか、消えるの待ってただろ明らかに」
サトがぎゃあぎゃあと小声で騒ぐが、言いつつも顔がにやけている辺り同類だ。
「つーかテンプレ通りなら髪の色とか服装とかアウトだろ!」
「そこはまかせろ。ちゃんと最強レベルの偽装魔法を使ってある」
「それこそ魔法の無駄遣いだな! じゃあ登録料はどうするんだ!?」
「安心しろ。初心者向けの無利息借金システムがある。そこで一度金を借りて登録し、2カ月以内に返せばいい」
「ホントいつの間に調べて……って、まさかそれも魔法か!? 魔法にそういうのがあるのか!?」
「その通り、と言いたいところだが、これは聖剣に魔法と一緒に記録されていた世界の歴史とかそういうものからだな。ちょっと古いかもしれないが、中の様子から見てもおおよそ大丈夫だろう」
聞くべき所をちゃんと押さえて聞いてくる辺り、本当に同類だ。
持つべきものは類が呼んだ友だな。