ある日の事
そう。その日はまさしく平凡な日だった。
数学教師が抜き打ちテストを実行する事も無く、英語教師がヨーロッパ辺りの国の友人を勝手に招待する事も無く、通称いたずらし隊のバカ達が騒ぎを起こす事もそいつらに対する体育教師の鉄拳制裁が実行される事も、校長のヅラが盗まれる事も教頭のペット (ニワトリ)が脱走する事も野球部が校舎のガラスをうっかり割る事も無く、本当に平穏で平凡な日だった。
こう並べると毎日何がしか起こっているような気がするが、大概は耳に入ってくるだけの騒ぎだからそうでもない。少なくとも俺にとって、「あぁ、そういえば今日は何か静かだったな」というぐらいのもの。
「……平穏、最高……っ! オレは今、幸せだ……っ!!」
が。
俺の親友たるサトはこの通り。こいつは何故か知らないが、平穏とか平凡とかいうものに感動する癖がある。「一番落ち着く時間は?」と聞かれて「普通の授業中」と大真面目に答えるのはこいつくらいじゃないだろうか。
……まぁ、小学校後半からの腐れ縁で知る限り、サトはああいう騒ぎにほぼ必ず巻き込まれる謎の体質を持っているから、平和が恋しいんだろうなと思わなくもないんだが。
「よかったなサト。今日は天気もいいから通り雨にも合わなさそうだな?」
「行きがけに水も引っかけられなかったし、ひったくりの現場にも居合わせなかったし、今日は何て普通な日なんだ! 平和バンザイ!!」
やっほーぅ! と両手を空へ突き上げて全身で喜ぶサト。うん、良かったな。本当にうれしいんだなお前。というかむしろ、普段一体何が起こってたんだ。
そんな俺たちは下校中。学校から最寄り駅までの距離が意外にあるというだけで、別に家が近いとかそういう訳じゃない。現在中学2年生な事を考えると、幼馴染と言えるかどうかも微妙なラインだし。
「まぁ、今のうちに喜んでおくがいい。すごくいい事があった後って言うのは大概悪い事が起こるものだしな」
「うわっ、不吉すぎるぞその言葉! やめろ、今すぐ訂正してくれ!!」
「ん? ああ、すまんすまん。そうだな、気のせいだろう。目の前の道を走るトラックの台数が妙に多いのも含めて」
「おま、それはフラグだぞ!?」
「だから気のせいなんだろう? 気にするからフラグは成立するんだ。つまり、気にしなければ何も起こらない」
「それを無視して成立するからフラグって言うんだ!!」
そう。その時のサトの叫びは妙に実感がこもっていた。その時はあっさり聞き流したが、今から考えると、その実感の元について問い質しておくべきだったのだろう。
質問の言葉として、具体的には、こんな感じで。
「お前もしかして、勇者として異世界に召喚とかされた事でもあるのか?」
この程度なら外したとしても冗談として誤魔化せる。だから聞くべきだった。フラグなんて与太話に、あそこまで心の底からの叫びを返す理由を。
だからまぁ、そこを突っ込まずにいた俺が間抜けなのだ。要するに。
その後、俺たちは揃って暴走トラックに衝突され、
異世界召喚モノ小説テンプレートフラグは、成立した。
……そう言えば今思ったが、もしかしなくとも、俺は向こうで死んでいるのでは?
テンプレです。
……でもこれは異世界転生モノ小説のテンプレだったような気がしないでもないです。