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「勇者になれ」

 一昔前からはやり始めて、今なおかなりの数を見かける小説ジャンルに「異世界召喚モノ」というのがある。内容は読んで字のごとし、普通の日々を過ごす誰か……まぁ大概は元々日常生活を送るにあたって必要ない位の強さや能力を持ってる人間が異世界に召喚され、そこで冒険したり勇者したり生活したりする話だ。

 で、俺もそんな話の読者だったりする訳だが、テンプレートの1つに「異世界召喚モノを読んでいた人間がまさにその状況に陥る」というのがある。要するに、他人事だと思っていたフィクションが現実になる瞬間という奴で、大概は冷静な振りしてパニックに陥ったり、現実にしたらこんなに辛いなんて、というショックを受けたりする。

 大概は大きすぎる力に悩んだり諦めて受け入れて精神的に成長したり、又ははっちゃけて世界に異常なほどの革新をもたらしたり、商売で成りあがってウハウハっていうのもある。まぁ、それぞれ書き手の技量によってドラマが展開する訳だ。


「しかし昔の人は偉大だな。『事実は小説より奇なり』。なるほど納得、まさしくその通り、か」

「呑気に言ってる場合か、ヨシ。どう考えても誘拐だろうが」

「そう言うお前も案外冷静だと思うぞサト。俺なんかほら、ファンタジーだってことでわくわくが全く止まらない」

「止めろ。落ち着け。そしてオレの名前はみのるだ」


 で、まあ何が言いたいかというと、今現在の俺こと杜多(とだ)三良(みよし)がその異世界召喚をされているという状況な訳だ。目の前には巫女っぽい銀髪紫眼の美少女、その奥には豪華な服にマントと王冠をかぶったおっさん。周囲にはフルプレートの鎧に槍を携えたごっつい兵士がズラリ。

 その上足元には巨大な魔法陣、部屋一杯の魔法陣の縁にはフードをかぶって杖を持った魔法使いっぽい人が一定間隔で並んで、部屋自体は薄暗い。ここまであからさまだと疑う気も失せる。

 隣にいるのは一緒にいた親友の出谷聡。でたにさとる、ではなく、みながやみのる、と読むらしいんだが、どう考えても無理がありすぎる厄介な名前だ。なので名前の字を素直に読んで、俺はもっぱらサトと呼んでいる。


「ようこそ、異世界からの来訪者。君には勇者として、我が世界を救ってもらう」


 はいはい、テンプレテンプレ。しかし随分と上から目線だな。


「実に申し訳ない事だが、帰還の方法も拒否権も君には存在しない。馬車馬のごとく働いて世界を救った後は、我が国が世界に名をはせる為に働いてもらう」

「成程、つまりは一生涯この国に縛られる奴隷になって世界征服の駒になれと」

「マジか……あれ、それで行くとオレらどっちかハズレなんじゃ?」

「そう言えばそうだな。こういうパターンだと勇者は1人の筈なんだが」

「オレとお前でセットとか考えたくないなー」

「それだけはありえないぞサト」

「だからオレの名前はみのるだっつの……」


 取り敢えずサトと軽口を叩いてみるが、王らしいおっさんの様子からするにどうやら本気も本気のようだ。イイ年の大人がこんな事を真剣に語るなんて、この国は一体大丈夫なんだろうか。それとも、国中こんな状態なんだろうか? いや、下手をすると世界中が――


「ふむ、そちらの世界にも召喚に関する知識があったとは驚きだな。その通り、優者とは本来1人の筈なのだ。よって勇者とそうでない者の区別をする為、聖剣の儀を早速行おうと思う」

「すまんサト、勇者は俺だ」

「だから落ち着け。お前人格支配されて使いつぶされてもいいのか」

「聖剣を手に入れる為なら悪魔に魂を売ってもいい!」

「それ明らかに聖剣じゃなくて魔剣だよな!?」


 何を言う、聖剣こそ正義だろう! 男なら一度は見る夢だろう! それが、過程はどうあれ目の前に!!


「いいから落ち着け! お前、自分じゃ無くなってもいいのか!?」

「ふ、覚悟はできている!」

「ダメだコイツ完全に暴走してる!!」

「…………話は早めに進めた方がよさそうだ……。早く聖剣をここに」


 親友とじゃれ合っている緊張感のない騒ぎをほったらかして、王は配下に指示を出していた。それを目ざとく確認して、俺は案外有能らしいと王の評価を改めた。

 こういう相手には出来るだけ油断するべきではない、とも。

 現状把握はまだまだ出来ていない。こういう場合、親友と騒ぐことで稼いでいる時間を使ってここに来るまでの事でも思い出しておくか。

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