幕間(これは悪夢か甘き夢か)
夢を見る。
優しい、優しい、夢を見る。
「優乃、いい加減に起きなさい!朝練なんでしょう」
「姉ちゃん、また寝坊かよ」
「おはよう、優乃。試合が近いんだろう。がんばれよ」
お母さん、郁斗、お父さん。
共働き世帯だったけど、結構会話は多かった。仲も、よかった。
「おっはよー優乃!」
「髪に寝癖あるよ。また寝坊?」
「しっかり副主将!!」
「桐塚先輩!おはようございます」
「副主将、一本お願いできますか?」
剣道部の仲間たち。
副主将なんて似合わないあたしを、盛り立ててくれた。
くるくる、くるくる。
世界が回る。
「優乃。お昼だよ~」
「また、授業中に寝てたわね」
「先生、気づいてなかったけどね」
綾乃、美香、玲。高校で仲が良くなった友達。
大体四人で一緒にいて、くだらないことでいつも盛り上がっていた。
くるり、くるり、
「よう、桐塚。試合、もうすぐだな。俺たちのデビュー戦だ。お互い頑張ろうな」
男子剣道部の高田。ちょっと気になっていたっけ。
うん。たぶん、好き、だった。遅まきながら、あたしの初恋。
ああ。あのころは当たり前すぎて、ただ同じ毎日が繰り返されるって思ってた。
でも。
今は。
あの同じようで違うあの日々が。
とても愛おしい。
叶うなら。
願って叶うなら。
あそこに戻りたい。
あたしの愛しい世界に。
還りたい。
涙に濡れる頬を、誰かが優しくなでてくれた。