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55.桐塚優乃の年貢の納め時

 犯人は大公だっていうのは分かる。けど、何事?

 ああ、散々逆らったあたしの死刑執行でもする気?

 そっちがその気なら、やってやろうじゃないか。


「な……むぐうう??」


 簡単にはやられないぞって意味も込めて大公を睨みつけたあたしは、目の前で繰り広げられた光景に、ぽかん、と口を開けた。


 え、ちょっと。こいつ何やってんのおおおおおおおお?!


 間抜けな顔をさらして開けていた口内に、なんか大きくてプルプルした丸いものが突っ込まれた。犯人は言わずもがな。


 まっず!!はくうううう!!

 だから、口に突っ込んでいるその指を抜いてよ、馬鹿大公!!ちょ、口の中で丸い物体をつついて形を崩すな!!

 うわあん。どろっとしたものが喉に流れ込んでくるよう。


 あたしの呆然とさせた物の正体は、完璧な美貌を誇る大公の顔から失われた右目とくりぬかれた眼孔から流れる血。

 間違いなくスプラッタ。ついでに、再生するさまもなかなかのホラー。

 で、口の中に入れられたものは。


 考えたくもない!!

 はーかーせーろーーーーー!!


 って訴えて吐かせてくれるほど、この変態が甘いはずもなく。

 苦しさに負けて、ごっくんと飲み込んだよ。気持ちわる!!

 後味最悪。

 

 水。うがいさせて。お願い!!


「今回は気を失わないのか」


 くつくつってすごく楽しそうに大公が笑った。

 そういえば、この間は指先二つ食べさせられた直後に気絶して、その後ベッド生活を余儀なくされたっけ。まだそこまで時間が経っていないのに、懐かしいなあ。

 あんときは、仕事が激務過ぎて体力・魔力・気力ともに限界ギリギリだったからねえ。突然付加された強大な力に体が耐えきれなかったんだろうなあ。


 今回は元気いっぱいな上に、感情が高ぶっているせいで気絶なんてしている暇はない!


 というより、気を失ったらそれこそどうなるか分からない恐怖がある。一度目は誘拐されてたし、二回目はメイド職失ってたからね。


 三度も同じ轍を踏んでたまるものかああああああああ!!


 こいつ、何考えているの?反抗したキンドレイドを処分しないどころか、目玉を食べさせるなんて。

 嬉しくないけど、ありえないっしょ。

 目玉って、心臓の血の次位に魔力が高いことで有名なんだよ。そこを与えられるっていうのは、キンドレイドとして名誉なこと、らしい。

 ……心臓の血と目玉一個と指先十個。やば。考えるだけで吐き気が。


「正確には、眼球は二つだ」

「え?」

「お前をキンドレイドにするときに心臓の血と左目を与えた。指先は、眠っているお前の身体の維持のために。先日、残り二つも与えた。そして、最後が右目だ」

「それって最初から予定してた、とか言わないよね」


 くつり、って喉の奥で嗤いやがったよ。

 見るものが見れば、見惚れるに違いない他者を魅了する微笑。あたしの場合は、背中に悪寒が走った。


 どんだけ規格外の分量の血肉をあたしに食わせてんだ、このアホンダラアアアアアア!!


「普通死ぬでしょ!!それ!!」

「生きたい、とお前は願った。私に直接願いを訴える者など稀なのでな。そういう時、私は試すことにしている」

「は?」

「普通ならば致死量を超えた私の血肉。そのすべてを受け入れることができれば、お前の願いは本物だ。そして、それは証明された」

「なに、それ」

「わからないか?ここにいること。この場に生きていること。それは全てお前の選択の結果だ。誰が強要したわけでもない」


 漆黒の魔人は愉快でたまらないという顔で、語る。


「私の予想を覆す存在は貴重だ。この先も期待しているぞ、ユノ キリヅカ」


 何を期待してくれてるかな?この御仁は!!!

 あたしがこいつの力を受け入れきっちゃったのが、大公にとって予定外だったっていうことだけは分かった。自分で自分の首を絞め続けているあたしって、おまぬけさんだよね。

 つーか、いつの間にあたしの本名調べた?!おかしい。この世界に来て初めて氏名を呼ばれたのに、全く嬉しくない!!ニイルやミュウシャ様に呼ばれた時の感動はどこ行った?!


「アッシラ」

「お呼びでしょうか」


 大魔王、もとい大公の呼びかけに狐顔の総監メイド長が音もなく現れた。

 部屋の惨状に全く動じていない彼女は、さすがメイドたちのトップというだけはある。


「あれらをハラマ鉱山に送れ。生涯そこでの労働に従事。報酬は必要ない。二度とこの城に上がることは許さん。あれらのクアントゥールが異議を唱える様であれば、直接私の所へよこせ」

「かしこまりました」


 大公の指示に、メイド長は深く頭を下げる。

 ひぃ、と小さな悲鳴がいくつも起こった。


「ど、どうか、それだけは、お許しを」

「大公閣下、どうかご慈悲を……!」


 コミネが、額を床にこすり付けた。リエヌが目に涙をいっぱいにして懇願している。他のメイドたちも体を震えさせて青ざめた顔をしていた。

 あいつら大公がここに来た時以上に、怯えてないか?

 彼女たちの嘆願を無視して、メイド長が術を発動させる。


「いやああああああああ!!」

「助けて!!」


 一瞬で、襲撃者たちの姿が消えた。その際甲高い悲鳴の余韻だけがこの場に残った。

 自分だけ転移するのにも結構な魔力を使う転移術なのに、メイド長ってば涼しい顔してメイドたちを、一気に転移させたよ。

 普段のぽややんさが全く感じられない、きびきびとした行動だった。

 連れて行かれる寸前のコミネの顔が恐怖に歪んでいたのは、なんでだろう。処刑されるよりは、ましだと思うんだけどなあ。

 ぼんやりとコミネがいた場所を見つめていたら、上から視線を感じた。目を上げると、吸い込まれそうなほどの漆黒がじ、とあたしを見ていた。

 ほんっと、顔だけはいいよなあ。


「なに?」

「お前の言うメイドを首にしたうえでの無給奉仕だ。恐らく死ぬことはないだろう。死んだ方が良かったと思う目にあうだろうがな」

「……は?」


 死ぬより辛い目って何?鉱山送りってそんなに過酷なの?

 だから、あんなにコミネたちは悲惨な声を上げていたのかな。後でレジーナさんに聞いてみよう。

 困った時のレジーナさん頼みって感じだね。


「それと。ニェンガの処分はお前に任せよう。殺すも拷問するも好きにしろ」

「はい?!あんたの愛妾なんだから、あんたが何とかするのが筋でしょ?!!」

「どうでもよい。だから、お前が決めろ。ハーレイとロダにはもう伝えてある」


 いったいいつそんな大切なこと決めてた?!あたしとしては、捕まえて牢屋にぶち込んだ後、裁判っていうセオリーな道を……。


「先に言っておくが、あれのために審判を開くことはない。お前が全て決めろ」

「無茶言わないでよ!ニェンガの罪状全部把握しているわけじゃないのに!!」

「私の所有物に手をだし、お前に害を為した。それで十分だ」


 ようは、処刑しろってこと?あたしが?

 ぜええええったいに、無理!現時点じゃ、正当防衛の上、究極の危機的状況にならない限りできない!!

 結局こいつは、天上天下唯我独尊の俺様なんだ。あたしの意見なんて聞いているようで、聞いていないに違いない。


「お前は私の娘だ。それを踏まえたうえで、行動するがいい」

「ちょ、それ決定?!!」


 待たんかい!ニェンガを裁けって言ったり、娘認定したり横暴が過ぎやしないか、こいつ!


「嫌というならば、私を納得させろ。それだけの力は与えた。それが出来ぬ限り、お前は私の娘だ」


 な、なんて理不尽な!!最後通牒突きつけられるってこう気分なの?!!


「ユノ=キリヅカ=ダラス=レスティエスト。これがお前の名だ。忘れるな。レスティエストの名を持つ限り、お前は公女であることから逃れることはできん」


 あたしの頭を思わぬ優しさを込めた力で撫でて、大公もその場から姿を消した。


「なんなの、一体」


 結局あたしがあいつの娘で、公女で、シークンて言うのは決定なんだね。

 とうとうクアントゥールに告げられた。しかも絶対逃げられない。

 桐塚優乃。

 年貢の納め時という言葉を身を持って体験した瞬間だった。




補足:

名前について。

レスティエストではいわゆる苗字がありません。

名前・父親名・母親名・出身地名(村・町など)が並びます。

国名は大公一家のみ名乗れます(大公・正妃・側妃・公子・公女)

シークンの場合のみ、母親の名前の後に、クアントゥールの名前が入ります。キンドレイドには入りません。


例)ハーレイの場合

  ハーレイ=ダラス=ウィスプ=ザハール=レスティエスト

  (本人)・(父)・(母) ・(出身地)・(国名)


例2)ロダの場合 

ロダ =オルソ=リマ = ダラス =アゼルセン=レスティエスト

(本人)・(父)・(母)・(クアントゥール)・(出身地) ・(国名)


※優乃は異世界人なので変則的です。





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