51.桐塚優乃は真相を聞く
説明文が……長い、です。
すみません。
「彼女は、愛妾として五百年前に大公様のお手付きになりました。その後、定期的にダラス様のお相手をしておりましたが、二百年ほど前から大公様のお力を受け入れることが厳しくなっておりました。それでも、愛妾の地位にこだわり、己の限界を認めずにいまだに居座っております」
「そう言えば、大公と寝るとどうしても力を注がれるんでしたっけ。限界だっていうならどうしてまだお役御免にならないんですか?」
「大公様が、自分から辞めたいと言い出すまで捨て置け、とおっしゃいました。多くの愛妾はあの方の気分を損ねない限り、自ら時期を悟り愛妾の地位を返上します。そうでなければ、死にますから」
ってことは、大公の傍にいたい、とか愛妾の地位から降りたくないって思った女性はいつまでも居残り続けるのか。
でもそれって、命がけだよね。
「そうまでして大公の傍にいたいと思うのか、単に今の贅沢な生活を手放せないのか。はたまた両方か、全く違い理由なのかってね。何にせよ、そのニェンガってヒトがあたしたちを嵌めたんですね?」
「はい。未来のない自分に比べて、間違いなく大公閣下のキンドレイドとして優遇されるであろうユウノ様たちを妬んだようです。ユウノ様だけではなく、ケノウたちも他のキンドレイドに比べて多量の血肉を与えられていたようですから」
「そうなんですか?」
「昏睡状態に陥ったのがいい証拠ですわ。大公様の血肉を口にして死ななかった時点でキンドレイドにはなっておりましたが、完全に体が馴染むにはあの方の力が強すぎたようです」
普通はアザラッツやニイルみたいに、大概は魔人の血肉を喰らったヒトはキンドレイドになって意識を失ってもすぐに目を覚ます。気を失わないことだって多いらしい。
昏睡状態になるっていうのはあんまりないことなんだって。なぜなら、そうなる前に普通は死ぬから。
をい、大公。キンドレイドになったってのになかなか馴染めない血肉量ってどんだけなのさ!!
よく生き残ったなあたしたち。
「ニェンガもコミネも大公様からは数滴の血を与えられただけですわ。肉まで与えられたユウノ様たちとは潜在能力に大きな差が出ます。ニェンガは大公様のお相手をする時に与えられた精もほとんど受け入れられず、外に出していたようです」
肉体が壊れないぎりぎりのラインを計算していたんだろう、というのがレジーナさんの考えだった。
あたしとしては、閨の中でそんなことしていられるだけの余裕がニェンガっていう愛妾にあったことに驚くけどね。
「ダラス様は、限界を悟りながらもあがくニェンガの様子を楽しまれておりましたから。初めに連れてこられたケノウを攫った時点で、ニェンガはすでに大公様のお相手をすることが厳しかったはずです」
それって百年以上前の事じゃん。いくら大公が遊んでいたからって、ものすごい根性だなあ。
感心するとこじゃないんだけどね。あたしには真似できないことをされると、驚きはするよ。
「愛妾止めたって、大公のキンドレイドであることに変わりはないんだから、立場は変わりませんよね?」
公女にされそう、もといされたあたしはともかく、ケノウたちとは大差ないんじゃないかな。
「どうでしょう。彼女の性格を見るからに、今更侍女メイドは無理でしょう。かといって政務にも軍務にも関われるようなの能力はありません。ケノウたちと比べると、先は見えておりました。もともと客室メイドでしたから、元の部署に戻されることになったと思いますわ」
「それはなかなか厳しいですね」
大公の相手を務めるまで行ったのに、その後はメイド業か。一度楽することに味を占めたら、それから他者の世話係に戻るのは気に食わないと考えてもおかしくはない。
「彼女もそれを分かったうえで、長く大公様に仕えていたはずです。今更ですわ」
そういうものなのか。愛妾になるからには、いつかその立場を追われる覚悟を初めからしていなくてはいけないのかもしれない。
こう考えると、大公最低だ。自分の欲を満たすために、女性を食い物にしてるんでしょ。
でもその間見返りはあるんだから、それはそれでありなのか?
愛妾期間は、特別扱いでいい暮らしができるらしいからね。
これが、ギブアンドテイクってやつなのかな。
オトナノレンアイハムズカイイナー。
「これに関しては、ユウノ様が気にされることではありませんわ」
きっぱりとレジーナさんが言ってくれたので、従うことにした。今、大公の女関係の在り方をあたしが考えてもどうにもなんないからね。
正直、興味もないし。
「コミネとはどうして知り合ったんですか?」
「コミネはニェンガの後輩に当たります。性格もよく似ていまして、気も合っていたようです。ニェンガが気に入らないことは、大概コミネにも面白くないことだったようです」
それで、ニェンガがケノウの存在を面白くない、と思ったところコミネが攫ってしまえばいいと唆したんだとか。
大公は城から姿を消しては、外をふらふらしていることが多いから意外と簡単に攫えちゃったんだって。それに味を占めちゃったせいで、その後同じように昏睡状態で連れてこられたキンドレイド(つまりあたしたち)を攫っては下級メイドにしていたらしい。
客室メイド長ってことで、総監メイド長からそれなりの信頼を得ていたコミネがうまいこと言って洗濯メイドを孤立させていったんだって。あたしたちの事を殺さなかったのは、本来ならそれなりの昇進を重ねていくはずのあたしたちを見下して優越感を味わいたかったから。……あほか。
殺しとけば証拠隠滅でばれることなかったのに。詰めが甘いんじゃないか。
それにまんまと嵌められたあたしは、間抜けっていうか良い面の皮?
真相を聞くとなんか、脱力するしかない。国家の陰謀も何もかもすっ飛ばして、単なる女の妬みが原因って。なんだかなあ。
「じゃあ、もう一つお願いがあります」
「……なんでしょう」
レジーナさんがすごーく警戒するような声を出した。
あっはっは。勘がいいですね。
断られたら、一人でやるだけだからいいんだけどね。一応お断りだけは入れとこうと思ったんだよ。
あたしが、問題発言間違いないお願いを口にしようとした時、部屋の扉が乱暴に開かれた。




