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46.桐塚優乃はふんばる

短いです。



 ニイルの身体が、ボールみたいに吹き飛んで地面に落ちた。


 お腹に風穴空いてる!!あれ、ちょ、やばいって!!


「フロウ様!!止めてください!!!」


 ニイルを殴りつけたフロウ様の手に魔力が集まっている。あれが誰を攻撃するのか悟ったあたしは、ニイルを庇うように両手を広げて前に出た。

 フロウ様に吹き飛ばされたせいか、あたしの血を飲んだせいか。ニイルは苦しそうな声で呻いている。こんな状態じゃ、自力で逃げるなんて絶対に無理だ。


「どけ、ユウノ。そいつは魔人の意志とは関係なく血を奪った。許されることじゃねえ」


 許されない。その言葉に、あたしは震える。

 フロウ様を畏れたからじゃない。ニイルが殺されるという未来に恐怖した。

 見ず知らずのあたしを助けてくれて、つらい過去を乗り越えて、穏やかにほほ笑む彼をあたしが油断をしたせいで殺される。


 我慢できなかった。


「嫌です」

「ユウノ?」

「ニイルを殺させません!」


 ほんとにあたしって馬鹿。相手は公子様だよ?その中でも、特に戦闘を得意とする方だ。

 あたしなんて、簡単に消されちゃう。

 でも、ここでニイルを見殺しにしたらあたしは一生後悔する。彼を見捨てて逃げるなんて自分を辱めることなんてしたくない。


「ユウノ。彼、助けたい?」


 足元から、ミュウシャ様があたしを見上げていらっしゃった。


 ……フロウ様に気をとられていたからかもしれないけど、気配全く感じなかったよ。


 ミュウシャ様、実は神出鬼没な方ですね?


 じい、と例の殺人的威力を持つ上目づかいをされて、あたしは彼女を抱きしめたい衝動と必死に戦った。


 そんなことをしている時じゃないんだってば!それなのに、その角度から見上げられたら、ノックアウトさせられる~~~!


「ユウノ?」

「た、助けたいです。あたしは、ニイルに助けられました。その彼を見殺しになんてできません」


 迷いの森から連れ出してくれた。宿を提供してくれた。買い物に付き合ってくれた。過去を話してくれた。あたしに大切なことを気づかせてくれた。そして、あたしの事情に巻き込んだ。

 借りばっかりできて、何も返せていないじゃん。そんな恩あるヒトを助けたいと思うのは、当然でしょ。


「分かっちゃいたが、頑固だな」


 フロウ様が諦め混じりにおっしゃって、魔力を納められた。よかった。

 って、油断した途端目の前で彼の姿が消えた。


「くう!」


 ニイルの悲鳴で後ろを振り返る。フロウ様に首根っこを掴まれたニイルが苦しそうな顔をしていた。


「よう。なかなかふざけた真似してくれたな、ガキ」

「……」

「なんであんな真似した?問答無用で殺すと、ユウノが泣きそうなんでな。理由位は聞いてやるよ」


 待ってください、フロウ様!殺す気満々なんですか?!


 それはだめ、と止めに入ろうとしたら、ミュウシャ様に止められた。

 黙って見ていろ、というように、優しく微笑まれる。


「守りたい、と思ったから」

「なにを?」

「ユノを。笑っているくせに、泣きそうなんだ。それなのに、精一杯強がって、怖いくせに俺を守ろうとする。年下の女の子に、守ってもらう、なんて格好悪い。俺が、守ってやりたいのに」


 ……ごめん。何も言わないで。

 今あたしの顔真っ赤だ。絶対ゆでだこになってる!!

 は~ず~か~し~い~~~~。

 何言ってるの、ニイル?!とり方によってはそれ、ものすっごい愛の告白だよ!!

 違うのは分かるんだけどさあああああ。

 大体、昨日会ったばっかりのあたしのために、命かけられても戸惑うし。魔人の血飲んだら下手すりゃ死ぬんだよ?自殺行為はやめてよね!


「ユノ?だれだ?」

「だれって、そこにいるだろ」


 お互いにいぶかしむような声でやり取りをしている。

 そりゃそうだ。フロウ様はあたし名前をユウノだと思ってるし、ニイルには、優乃としか名乗っていない。一字違うだけなに大きな違いだなあ。

 フロウ様が、ユノって言えたこともびっくりだけどね。


「ユウノの事か?」

「そう。ユウノ、というのか?」


 後半はあたしに向けられた言葉だった。


「本名は、優乃だよ。ユウノは、あたしの名前を正確に発音できなかったメイドのせいで広まった名前。こっちの方がみんな言いやすいらしいんだけど」


 ケノウたちも言えなかったんだよねえ。一々訂正するのも面倒だから、もうユウノで通してるけど。

 隣で話を聞かれていたミュウシャ様が、くい、とあたしの服の裾を引っ張られた。

 はいはい、なんでしょうか。


「……ユウノ、は、ユノ?」

「はい。優乃が本名ですね。あたしの宝物です」


 地球から持ってこれた唯一のものだから。大切な宝物。

 あたしの顔をじっとご覧になっていたミュウシャ様が、ふわり、と目を和ませられた。

 可憐な花を思い起こさせるなあ。

 小さく、ユノ、ユノ、と何度か繰り返されている。


「ユノ、は、ユノ、ね?」

「はい」


 きゅ、とあたしの右手を握って、ミュウシャ様があたしのことを呼ばれる。


 ユノ、と呼ばれて、泣きそうになったのは二度目だなあ。うう。嬉しいよう。


「そこ、和んでるんじゃねえよ」

「フロウ兄様、うるさい」

「おまえ、ユウノに甘いなあ」

「ユノ」


 ミュウシャ様の非難を、フロウ様はケ、というように流された。


「ユウノだろうとユノだろうとどっちでも同じだろ。俺の妹だ」


 ……最後にサラリ、とすごいことおっしゃいましたねフロウ様。


 フロウ様といいニイルといい、ロウ族って、天然でたらしなの?!そんでS属性?なんかタチが悪い~~。

 さっきほどじゃないけど、顔が熱いよ。


「フロウ様、ニイルを降ろしてあげてもらえませんか?話をしたいんです」

「俺たちの前でいいならな」


 やっぱ二人っきりはだめか。仕方ないよね。

 聞かれて困ることはないし。


「それでいいです」

 



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