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44.桐塚優乃の決断



 動きを完全に止めたあたしの前に、フロウ様とミュウシャ様が音もなく舞い降りた。

 絵になるなあ。眼福だなあ。

 思わず現実逃避をしていたら、フロウ様がぐしゃり、とあたしの頭を乱暴に撫でられた。


「どうした?」

「あ。ちょっと気が、抜けた、みたいです?」

「そうか」

「フロウ兄様」


 ミュウシャ様が、からりと笑うフロウ様を呼ばれた。

 その顔はどことなく不機嫌そうに見える。どうされたんだろう。


「ああ。逃げ足速いな」


 フロウ様の動きにつられてあたしも首を動かした。そこには、誰もいなかった。

 さっきまでいたプレートメイルの男は、何のアクションも起こすことなく姿を消していた。見事な逃げ足だなあ。

 そりゃそうだよね。戦闘に特化したフロウ様の相手なんて、キンドレイドができるとは思えない。

 可愛らしく見えてもミュウシャ様だってシークンだし。

 分は悪いよね。


「……そうだ!ニイルに竜人族!!」


 突然現れたお二人に驚いてうっかり忘れていた。見れば、ニイルは相変わらず座り込んだままあたしたちを見ている。目立った外傷はないから、魔力に当てられて動けないんだろうなあ。


 ごめん。ちょっと後回しにさせて。


 問題はもう一人の方。重傷を負った竜人族は、かろうじて息をしている、という状態だった。


 ちょっと待って!せっかく昨日助けたのに、このまま死んじゃうとかやめてよ!!


 フロウ様の手から離れて、あたしは竜人族の所に駆け寄った。

 近くで見ると彼の傷のひどさがよくわかる。左腕は千切れかけている。頭に大きな裂傷。何よりもひどいのは、大きく切り裂かれた腹だった。

 中身が見えるくらい深い傷だ。正直吐き気がこみあげてきた。

 こんな状態で生きているなんて、生命力高いな竜人族。でも、このままじゃ確実に死んじゃう。

 あたしは、昨日と同じ要領で回復魔術を展開させた。


「……どうして、塞がらないの?!」


 魔術は間違いなく発動している。けれど、傷がふさがらないのだ。いや、塞がってはいるのだけれど、傷の深さに間に合わないという感じだった。


「ユウノ。諦めろ。手遅れだ」

「でも、フロウ様!彼はあたしを庇ったんです。死なせたく、ないんです!!」


 たとえ、昨日は敵だったとしても、助けてくれたヒトを見捨てたくはない。

 それに、理由が何であれあたしを庇って死にかけているヒトを見殺しにしたらものすっごく目覚めが悪い。人としてそれどうよって思うんだよね。

 あたしが全く何もできない無力な子供だというなら、最後は諦めた。でもそうじゃない。

 不本意だろうがなんだろうが、あたしは力を持っている。それを使わないのは怠慢だ。

 止めようとするフロウ様の手を振り払って、あたしは回復魔術を展開することを止めなかった。

 一パーセントでも可能性があるなら、諦めたくなかった。


「ユウノ。彼、もう、生命力、ほぼ尽きている」

「ミュウシャ様……」


 あたしの向かいにしゃがみ込んで、ミュウシャ様が残酷な言葉をおっしゃった。生命力の尽きた者を助けることはできない。

 それは死者の蘇生だ。回復術は、死者を蘇らせることはできない。

 唇を噛みしめ、駄々っ子のように首を振るあたしの手に、一回り小さい手が重ねられた。


「ユウノ。彼、助けたい?」

「はい」

「血、飲ませればいい」

「え?」 


 血を飲ませる?どういうこと?


「キンドレイドにすりゃあ、助かるってことだな」


 フロウ様が意地の悪い笑みを浮かべておっしゃった。

 キンドレイドを作れるのは、魔人だけ。それをあたしにしろ、とお二人はおっしゃっている。

 かつて、あたしが大公にされたことを、今度はあたしがやるの?


「そ、れは」

「他にそいつが助かる方法はねえぞ。俺もミュウシャも助けるつもりねえしな」

「え?」

「そいつはお前を殺そうとした奴だ。本来なら極刑に値する。だから助けない」


 どうして、それをフロウ様がご存じなの?

 あたしが彼に襲われたことなんて、誰も知らないはずなのに。


「そいつに聞いたんだよ。お前の後を追っていたらたまたま会ってな。話を聞いて殺そうかとも思ったんだが、お前が助けたってんならまずいと思い直した」

「ユウノ、助ける。交換条件」


 見逃す代わりにあたしを守らせる。そういうことか。

 おそらく、お二人は、竜人族から追っ手が他にもいるということを聞かれたんだろう。

 彼があたしを助けた理由にやっと得心がいった。


 フロウ様たちに見つかるなんて間抜け!!


 ごぼり、と竜人族が大量の血を吐いた。もう、時間がない。

 迷えば迷うほど、彼は死に近づいていく。

 悔しくて悔しくて、あたしは唇を噛みしめた。

 自分がやられて嫌だったことを、ヒトにやろうとしている自分に吐き気がする。

 それでも、死なせたくなかった。

 彼を生きさせたいというのは、あたしのエゴだ。彼は助けたあたしを恨むかもしれない。キンドレイドになどなりたくない、と怒るかもしれない。

 このまま放っておいてば、あたしを守ったせいで彼は死ぬ。

 それは自業自得なのかな。でも、彼は生きるために無謀ともいえる交換条件を飲んだんだ。

 結果として、あたしに関わったことで、彼の未来は変わってしまった。

 それなら、責任をとろうじゃないか。

 どうして生かした、と怒りをぶつけられたらちゃんと謝ろう。

 あたしのせいで、一生を狂わされたと罵倒されてもいいから。

 あたしは、あなたを生かす。


「あなたの命、背負うよ」


 だから、生きて。


 竜人族の傍らに落ちていた彼の武器をとり、あたしは手首を勢い良く切り裂いた。




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