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40.桐塚優乃は狼の皮をかぶった狸に出会う



 タウロムさんに案内されて彼の家につくと、ロウ族の女性が出迎えてくれた。


「ボルクの馬鹿どもに引っかかったって?災難だったねえ」


 外見は中肉中背のどこにでもいる女性。中身は、声の大きなおばちゃんだった。それも世話好きと見た!


 え。第一印象で判断しちゃ駄目?


 居間らしき場所に案内してくれた女性が、おもしろいものを見つけた子供のような顔をした。


「あんた馬鹿正直って言われることないかい?」


 思っていたことが全部顔に出ていたらしい。初対面の相手にまで、心の中を読まれるなんて……。


 誰かあたしにポーカーフェイス技術を伝授して!


「間抜けとは最近よく言われます」


 ばつが悪くて、うつむいちゃった。


 正直者、おまぬけ、変。あたしの評価ってろくなものがないなあ。


「おもしろいお嬢ちゃんだねえ、ニイル」

「はじめから変な女だった」

「女性に対して、失礼だよ?」


 重々しくうなずいたニイルの頭を、タウロムさんがはたいた。おお、見事なはたき具合。

 ニイルは全く反応できてなかったよ。


「伯父さん!」

「教育的指導だよ。礼儀のなってない甥ですまないね、お嬢さん」

「四度目なので聞きなれました。気にしないでください」

「……ニイル」

「本当のことをいって何が悪い」

「どこで育て方を間違えてしまったのかな」


 ふう、とわざとらしいため息を吐くタウロムさんをニイルが嫌そうに見た。

 さっきからニイルの感情が豊かだ。ボルクたちと対峙していたときとは大違い。ちょっと幼く見える、って言ったら怒るかな。

 それだけ、タウロムさんに気を許しているってことなんだろう。


 あれ?タウロムさんって伯父さんなんだよね?なんで、伯父さんがニイルを育てるの?


「実は親子、とか?」

「誰と誰のことかな?」

「はぎゃ?!」

「女の悲鳴ではないな」


 うるさいよニイル。独り言に突っ込みいれられたら驚いて当然でしょ。

 女心を理解してない奴め!


「お前、また失礼なことを考えただろう」

「びっくりして何が悪いって悪態はついた」

「そこは普通誤魔化すところだろう」


 疲れたようなニイルに、あたしは頬を膨らませた。

 聞かれたから答えたのに。どっちが失礼なんだ。


「ニイルをそこまで振り回すなんて、中々やるねえ」


 知らない間に姿を消していたおばさん……もといお姉さんがお茶のセットを持って戻ってきた。いや、なんとなくおばさんって言った瞬間何かが頭に落ちてきそうな気がしてね。

 お姉さんの手元からおいしそうな甘い香りがする。


「ラガティだよ。ラガの乳は平気かい?」

「はい。ありがとうございます。ええ、と」

「ああ。名前を教えてなかったね。あたしはセレハ。あの得体の知れない男の女房だよ」


 得体が知れないって。自分の旦那さんそんな風にけなしていいのかなあ。

 タウロムさんは苦笑して、特に文句はないみたい。もしかして、いつもこうやって自己紹介しているのかな。


「あたしは、優乃です。昨日からニイルにお世話になっています」

「ユゥノ?」


 セレハさんが、言いにくそうにあたしの名前を口に乗せた。


「伯母さん。ユノ」

「ユ、ユユノ」


 ニイルが訂正してくれたけど、難しいみたいだった。セレハさんは、ゆぅ、ゆう、ゆゆうと何度も言い直している。


「言いにくかったらユウノでかまいませんよ。みんなそう呼びますから」

「そうかい?悪いねえ」


 ものすごく申し訳なさそうな顔で謝られたら、文句なんて言えないよ。

 ユウノって呼ばれるのも慣れたし。


「では、僕もユウノと呼ばせてもらうよ。いいかな?」

「かまいません。あたしはタウロムさんって呼んでいいですか?」

「かまわないよ。そういえばきちんと名乗っていなかったね。改めて僕はタウロム。この療治院の療治師りょうちしでニイルの母方の伯父だよ。育ての親でもあるかな」

「伯父さん?!」


 いまさらっと重要なこと言いましたね?確信犯ですか、タウロムさん。

 その柔らかな物腰を裏切る物言いは、某公子様を思い出すな。

 ニイルも慌てている。やっぱり、他者が簡単に聞いて言い話じゃないんだろうなあ。


「いいじゃないか。別に隠すようなことでもないよ」

「普通は公言しない内容だろう」

「あんなのでも親だからかな?」

「……っ!」


 それまでと違ったタウロムさんの鋭い言葉に、ニイルが言葉を詰まらせた。すごく痛そうな顔をしている。

 あたしの方が泣きそうになる。


「ニイル」

「聞きたくない!」


 タウロムさんの言葉を遮って、ニイルが席を立った。逃げるようにして居間を飛び出していく。

 見た目、人間に近いけど身体能力はロウ族だな。

 あっと言う間にニイルの姿は見えなくなった。

 追いかけてもいいのかな。あんな顔見たら、放っておけない。

 迷ったのは一瞬。立ち上がったあたしにタウロムさんが意味深な笑みを見せた。


「……ニイルが心配なので追いかけます」

「よろしくね」


 よろしくって、自分の言葉で追いつめてたよね。こうなるってわかってたってこと?


 タウロムさん。たった今あなたは私の中で、狼ではなく狸になりました。


 外見と中身がそぐわないと思うよ!

 思っても口には出せないけどね。タウロムさんの横で、のんびりとしているセレハさんに一礼して、あたしはその場を後にした。


「若いねえ」


 そんなのんきな言葉が、後ろから追いかけてきたけどあえて無視!!  





療治院:病院のこと


療治師:医者

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