35.桐塚優乃の危機
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ちょっと、夢じゃないよね!!
びっくりするような数字に、恐れおののいております。
読んでくださっている皆様本当にありがとうございます!!
今日も今日とて、洗濯機とにらめっこ。
ふふふ~。さっき、待ちに待った新しい洗濯機が届いたんだよね。予算の都合で、まずは十台。後は、順に交換していくんだって。業務用の新型で、一回りサイズが大きくなった。これなら、洗濯機の台数減らせるかもしれない。
性能も色々アップしていて、さっきから楽しくてしょうがない。基本は変わらないんだけど、洗いのパターンが増えていたり、使用魔力が少なくなったりといった技術アップがあるんだあ。
シアンさんたちもだいぶここに慣れてきたみたいで、仕事はスムーズに運んでいる。
ついでに、引き継ぎも着々と進んでいる。
お役御免のカウントダウンを感じるなあ。どうしよう……。
せっかく新しい洗濯機が来たのに、十分堪能できないまま終わるのはつらい。
「ユウノさん。洗濯物の回収に行こうと思うのですが」
ついつい洗濯機に懐いてしまったあたしを、リエヌさんが呼んだ。
時計を見れば、確かに洗濯物の回収時間になっている。しまった。最近人手が増えたことでたるんでる。
気を引き締めなくちゃ。
「あ、はい。お願いします」
「この時間は、第一政務棟に行けばいいんですよね?」
「はい。それがどうかしましたか?」
行ってくる、と言ったリエヌさんの顔が晴れない。
どうしたんだろう。第一政務棟は国の資金運営を担う財制府のための建物。レティシア様のお仕事現場だ。
あんまりにも城の構造の無頓着だったあたしに、レジーナさんが詳しく教えてくれたことだから、間違いないよ。あたしに指導してくれた時のレジーナさんの目に並々ならぬ熱意が見えたのは気のせいだ。そのレジーナさんは、さっきロダ様の使いっていうヒトに呼ばれて席を外している。
洗濯物は、その建物に配属されている清掃メイドが掃除をする時に集めることになっている。場所は地下室。
まとめておいてくれた汚れ物を取りに行くだけだから、あまり大変な仕事ではないんだけど、どうしたんだろう。
「あの。実は私、まだ場所がよくわかっていないんです」
恥ずかしそうなリエヌさんに、ああ、とあたしは両手を打った。
そりゃそうだ。回収は順番に回ってもらっているから、一度しか行っていない場所もあるだろう。一度で場所覚えろなんて、鬼畜なことは言わないよ。
ここで鬼教官やって洗濯を厭われる方が痛いからね。なので、リエヌさんの言いたいことをきっちり汲み取りるよ。
「じゃあ、一緒に行きましょう。あたしが一人で行ってもいいんですけど、場所は覚えてほしいので」
「ごめんなさい、お願いしますね」
「こちらこそ。すみません、シアンさん。少し離れますね」
「いいわよ。いってらっしゃい。気を付けてね」
シアンさんたちに洗濯場のことを頼んで、あたしはリエヌさんと連れ立って歩き出した。
レスティエスト公国の中心ともいえるアテルナ城はとにかく広い。三十年住んでいても、どこに何があるのかよくわかっていない。必要な場所以外には立ち入らないしね。真面目に覚えようとしないと、絶対に覚えられないと思う。
面積は、この地球の単位に換算して百平方キロメートルは絶対ある。昔一度だけ内側から城壁沿いに一周しようとして途中で飽きたもん。見回りの目をかいくぐったり、道にも迷ったりもしたんだけどね。なんでそんなことしたって?脱走計画を立ててたからだよ。いやあ、あのころは若かった。
そんなに広い場所を歩いて移動なんて非常に面倒くさい。特にあたしたちみたいに建物間の移動が多い身としては、勘弁してもらいたい。
というわけで活躍するのが、転移陣という魔器具。六角形の台座の機械は、登録されている別の転移陣まで一瞬で運んでくれるという超便利アイテム。
ワープ装置みたいなものだね。原理は……聞かないで。
転移陣は、各建物に大抵二つある。業務用とお客様用。やっぱり体面とかあるから、使用人たちが使う物とは区別するみたい。
ちなみに、上位キンドレイドや魔人は転移陣なしに自力で空間移動することも多い。これは魔力消費が半端ないので、あまり一般向けではない。魔力が余っている存在くらいしかやらないかな。
前にハーレイ様があたしの背後に出現されたことがあったけど、あれは転移術を使われたからだったんだよ。
「洗濯メイドです。第一政務棟に回収に行ってきます」
「通ってよし」
顔見知りになった衛兵さんに転移陣の使用許可を申請すれば、あっさりと通してもらえた。転移陣は悪用すれば侵入経路にもされるから、転移陣の間の前にはどこでも必ず衛兵が立っている。ご苦労様だね。
転移陣が各建物に二つしかないのも同じ理由。侵入経路は少ない方がいいに決まっている。
あたしの後に続いてリエヌさんが回収ワゴンを引きずってついてくる。あたしが持つって言ったのに、教えを乞うていますから、とやんわりと断られた。
大人だなあ。
転移陣は、大人が楽に二十人くらい乗れる面積がある。ワゴンも問題なく一緒に乗せられるよ。
隅に設置されているパネルを操れば、瞬く間にさっきとは少し趣の違った部屋に到着。
部屋を出て、やっぱり立っている衛兵さんに挨拶をして、エレベーターに向かう。
「ここをまっすぐ行ったところにあるエレベーターは来客用なので使わないでくださいね」
「はい。業務用は遠いんですね」
「人目につかないところにあるんですよ」
元は使用人たちの食事を作る料理師の補佐である下級料理メイドだったリエヌさんは、こっちの建物には来たことがなかったらしい。もの珍しそうに周囲を観察している。
ベッドも入りそうなエレベーターに乗って地下へ向かう。
洗濯物が集められている小部屋は、階段の下にある物置のような部屋だ。汚れ物を一時的に置くだけだから十分なんだろう。頭をぶつけるような高さの天井ってわけでもないから、あたしも文句はない。
簡素な白い扉を開けた時、背中をどん、と強く押された。
「え?」
たたらを踏みながら中に入る。目の前には汚れ物が収まった大きなかご。
足元には、見慣れない陣が描かれた床。
驚いて振り返った先には、暗い笑みを浮かべたリエヌさんと、歪んだ笑みを浮かべたコミネがいた。
なんで、ここにコミネがいるの?迎賓館は、隣の建物なのに。
なんだかとても嫌な予感しかしない。
「なにを?!」
「さようなら。無能なメイド」
あたしの言葉を遮ったコミネの声を引き金にして、陣が光を放つ。
何をする気か知らないけど、このまま突っ立っていたらまずい。
「思い通りになんてならないんだから!!」
慌てて部屋から飛び出そうとしたあたしの身体を衝撃が襲った。あんまり痛くなかったけど、足止めには十分。
魔力の風をたたきつけてきたのは、リエヌさんだった。
どうして?彼女は、コミネの仲間だったの?
わずかな足止めが、運命の分かれ道だった。
陣の光が大きくなり、あたしは眩しさに耐えきれず目を閉じた。
それが最後だった。
ご指摘をいただきまして、二度城の敷地面積を変更しました。
ご了承ください。




