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34.桐塚優乃が気を抜ける場所

「33.桐塚優乃の新たな認識」で、何箇所か物語に齟齬がありました。

その為、二度修正しました。

ストーリー上、特に問題はありませんが、気になった方がいたら申し訳ありませんでした。

 夜。仕事が終わって使用人棟の大部屋にあたしは戻っていた。

 もちろん、ケノウたち元祖洗濯メイド組全員集合だよ。

 ベッドに転がっておしゃべりに興じている。女が集まれば自然色々盛り上がるものだよね。


「ってことがあったんだよね」


 信頼している仲間たちに、昼間シアンさんたちに聞いたことを話し終えたところ。だって、なんかもやもやするんだもん。

 考え方が違うっているのは分かるけどさ。あそこまで魔人至上主義を語られちゃうと、ちょっと引いちゃうっていうか。

 なんかわだかまるものが心の中にある。それをどうにかするには、気心の知れた先輩に相談するのが一番でしょ。

 あたしが話し終えた途端、カラッカが爆笑してくれた。話の途中から肩を震わせていたから、想像はしてたけどね!


「ユウノ、考えすぎい。まっじめえ」

「こっちは真剣なの。ここ一月の間に何人魔人と会ったと思ってるの?その間、あたしが言った暴言の数々を思うと気分が沈むって」

「ユウノは正直者すぎなんだよ。もうちょっと言葉を飾ることを知ったら?」

「いつも直球で愚痴るクロレナに言われたくない」

「あたしは相手を選ぶから。ユウノみたいに、魔人に意見なんてとてもとても」


 わざとらしく腕を組んで首を横に振るクロレナは、意地が悪い。

 その口の端が軽く上がっているってことは、あたしの行動聞いて楽しんでいるな?


「クロレナのいじめっ子」

「親愛の証よん。そりゃ!」


 隣のベッドがから跳躍してきたクロレナが、蛇の尻尾のような下半身であたしをぐるぐる巻きにした。そのまま、全身をこすられると非常にくすぐったい。


「ちょ、あ、ははは、ク、クロ、くすぐったいって!あん!」

「あ、いい声。こことか?」

「やあ。く、怒るよ、クロレナああ」


 くすぐったさの中に、妙なむずがゆさが。これ、ちょっと本気で嫌なんだけど。

 涙目で睨んだら、笑いながらクロレナが解放してくれた。

 恥ずかしくて死ぬかと思った。


「もう。これくらいで降参なんて、ユウノはお子様ね」

「そういう問題じゃなーい!」

「ほらほら。そうやっていちいち反応するからクロレナが調子に乗るのよ」

「シャラ~~~。だって、ぬるって、するんだよう」


 向かいのベッドで呆れているシャラの下に駆け寄って、細い体に抱きつく。

 シャラは仕方ないわね、って苦笑しながら背中を軽く叩いてくれた。


 安心するなあ。頼りになるお姉ちゃんだよ、シャラは。


「ユウノ。そんな調子で公女になんてなって大丈夫なの?」

「なりたくてなるわけじゃないんだから、知らない。っていうか、なってたまるかって感じ?」


 ケノウ、そこのところは間違えないでね。


「いつまで抵抗できるか見ものよねえ」

「シャラ。人の不幸を楽しまないで」

「だってえ。あたしたちだって、いきなり侍女メイドにならなくちゃいけなくなったのよお?不幸度合いは変わんないってえ」


 カラッカが、楽しそうな表情から打って変わって渋面を作った。


「魔人の傍に仕えられるから嬉しいんじゃないの?」


 シアンさんたちの言葉からすると、喜ぶ場面だよね。嫌がるあたしが珍しいんだし。


「ユウノ。あなたの口から異動を聞かされた時のあたしたちの顔覚えてる?」


 シャラに言われて、みんなのお見舞いに行った時のことを思い返してみた。

 ああ。みんなすっごく嫌そうで不本意そうでこの世の終わりって顔してたっけ。

 ってことは。


「やっぱなりたくないんだ。侍女メイド」

「「「「あたしたちは自殺願望者じゃない」」」」

「やっぱ類友か」


 ひっそりと誰にも顧みられることがなく、洗濯に全神経注いでたからなあ。

 思考が似通ったとしても不思議じゃないか。

 シアンさんたちが聞いたら、目を剥いてひっくり返りそうだね。


「それに今更でしょう。あたしたち一生を洗濯メイドで終わる覚悟をしていたのよ」

「ケノウの言うとおりよ。それを今更異動って言われてもねえ」

「しかも、メイドの中でも特殊すぎる職場よお」

「嬉しいっていうより萎えるね」

「ここまで侍女メイドになることを嫌がるメイドも珍しいよね。天然記念物級だよね、きっと」


 心の底からうんざりとしているらしいケノウたちに、あたしはちょっと安心した。


 キンドレイドだからって、みんながみんな魔人の傍にいたいって思うわけじゃないんだね。よかったあ。


「決定は変えられないけどねえ」

「カラッカ嫌なこと言わないでよ」

「本当のことだもーん」

「無理です、ってメイド長に言ったけど案の定、躱されたものね」

「あ、シャラ抗議したんだ」

「するって言ったでしょ。なのにあーの軟体生物。適当に言葉をはぐらかして!!」

「洗濯の引き継ぎ期間を、長めにもぎ取れただけ良しとするしかないわね。後はいかにそれを引き延ばすかってことね」


 ふふ、ってケノウが暗い笑みを浮かべた。うわ。小細工したくなるくらいに、異動が嫌なんだね。

 普段、愚痴をこぼさず頼れるリーダーをしているケノウの言葉だけに重いよ。


「基準はユウノよねえ」

「は?どうしてそうなるの」


 冗談じゃないんだけど。あたしは最後まで居残る気満々だよ。

 意気込むあたしにクロレナは、にんまりと笑った。


「だって、どう考えても早々にレジーナさんに回収されるでしょ。あのヒト、ユウノが洗濯メイドつづけていることすっごく苦々しい思いで見てるし」

「公女様が!って歯がゆく感じてるよお、絶対」


 カラッカが、再びけたけたと楽しげに笑った。

 ……そうだった。あたしを一日も早く洗濯場から引き離すことをレジーナさんは虎視眈々と狙っている。メイド長を言うこときかせることができて、ロダ様やフロウ様たちから信頼の厚いスーパー侍女メイドさんだよ。危機感半端ないんだけど。


「逃げ道探さないと!!」

「「「「無理だから諦めなさい」」」」

「どうしてそこでハモるの?!」

「「「「レジーナさんから逃げれるとは思わないから」」」」


 ひど。ちょっとくらい庇ってあげようとか思わないかな。

 全く友達がいのない、とは言わないけど、薄情者たちめ。


「いいもん。みんなだっていやでも侍女メイドになるんだから。大公や公子様や公女様に振り回されればいいんだ」

「は?なにそれ??」


 クロレナが、ただでさえまん丸の目をこれ以上ないほど大きくした。


 予想通りの反応だなあ。


「みんなの配属先」

「……玉樹宮ぎょくじゅきゅうの侍女じゃないの?」

「玉樹宮?大公の宮殿とは違うの?」

「別物よ。大公様の宮殿には、大公一家の方々以外住まわれないわ。お世話をする侍女メイドや侍従サーヴァントにも共同の部屋は与えられるらしいけど」


 シャラが難しい顔をして教えてくれた。

 サーヴァントっていうのはこの世界では、男性使用人の事を指す。対してメイドは女性使用人の事。

 メイドと同じで色々ランクがあって、侍従サーヴァントがサーヴァントの間では上位として扱われている。


「侍女も侍従も使用人棟にも部屋あるよね?」

「だから魔人のお世話をする使用人は特別なの。使用人棟の最上階に個室を与えられる上に、宮殿にも部屋があるのよ」


 つまり、使用人の身分で小さいとはいえ部屋が二つもあるのか。下っ端とは格が違うね。

 ケノウの言葉をシャラが引き取る。


「玉樹宮っていうのは、大公一家以外の魔人が住まわれている宮殿よ。みなさま、城下町に館は構えていらっしゃるけど、仕事などの関係でお泊りになることも多いの」

「その時使われるのが、玉樹宮ってわけえ。魔人専用の宿泊施設よお」

「対して大公様の宮殿を天煌宮てんこうきゅうって言うの。こっちで働く侍女メイドが実質メイドの中で最上級って言われてるわね。その中のトップが大公様の筆頭メイドかしら」


 シャラとカラッカの説明にあたしは、へえ、と感心して頷いた。知らなかった。全く興味がなかったから、宮殿の名前すら聞いたことなかったよ。

 耳にしたことくらいはあったかもしれないけど、完全に聞き流してたな。


「それで言いたいことは?」

「ユウノ鈍いよ」

「うっさい。わかんないものは分かんない。というわけでケノウ。さっさと教えて」


 茶々を入れるクロレナは無視。


「侍女メイドに異動って言われて、てっきり玉樹宮の方だと思ったのよ。いくらなんでも天煌宮ってことはないと思っていたのだけれど」

「あたしの目の前で、みんなの事分け合ってたよ」

「どういうこと?」


 ケノウさん。目が座ってます。


 いつもは顔の半分くらいある目が、四分の一まで細められていて怖いよ。

 隠す事でもないので、みんなの配属をしていた公子様方のやり取りを教えたら、全員絶句した。


 あ、シャラが砂になって崩れそう。


「大公様と第一公子様と第一公女様と第二公女様の、侍女?」


 嘘でしょう、って言う顔でクロレナがあたしを見た。

 いつもの余裕が完全になくなっている。顔面蒼白だよ。


「ええ、っと。ロダ様たちが言っていただけだから、侍女メイドたちの中で反対の声が上がったら変更もあり得るんじゃないかな」

「どこの世界に魔人の決定を覆そうなんて、蛮勇を持ったメイドがいると思ってるのお?!」


 カラッカが泣きそうな声で悲鳴を上げた。

 やっぱ無理?

 あたしは正面から抗議したんだけどな。あっさり却下されたけど。

 考えたら、ほんとにあたしよく生きてるよね。


「言うだけ言ってみるとか。あたしは生き残ったし」

「「「「無理だから」」」」


 駄目かあ。

 ロダ様なら話をちゃんと聞いてくださると思うんだけどなあ。


「話が分からない方ではないよ?」

「あのね、ユウノ。言いたくないけど言っておくわ」

「うん?」


 ケノウがすごく真剣な顔をしたので、あたしも居住まいを正した。

 もちろん、日本古来から伝わる正座というあれだ。下っ端のベッドとは言え、それなりにスプリングは聞いているのでちょっと座りずらいけどね。

 シャラの隣がケノウのベッド。ケノウはベッドのふちに座って、あたしと向かい合った。


「あなた、公女なのよ」

「なんかそんなこと言われてるね。嫌だけど」

「ってことは、魔人なの。大公閣下の娘ともなれば、シークンの中でも別格。そんな相手を、ないがしろにできる存在なんてそうそういないってことだけは理解しときなさい」

「ロダ様は第一公女様だよ?」

「それでもよ。あんたは、大公閣下に選ばれたの。嫌がろうがなんだろうが簡単に覆すことはできないわ。たとえ第一公子様であってもね」


 ハーレイ様でも無理って。

 それじゃあ当然ロダ様にも無理だよね。そんな立場の存在の話にだったら耳を傾けないわけにはいかないし、無碍にもできないってことか。

 そうかそうか。

 うん。


「今すぐ城から逃亡してもいいかな?」

「「「「やめなさい」」」」


 本気で言ったら、みんなに却下された。

 ええ~。このまま城にいたらとんでもない方向に流されそうなんだけど。

 すでに流され始めているなんて言っちゃだめだよ。まだ、船着き場に到着したところで踏ん張っているんだからね。


 このまま外堀完全に埋められてたまるもんか!!


 よし。今すぐ逃げよう、ということを考えた時、壊れそうな勢いで扉が空いた。

 あ、蝶番が外れかかってる。


「ユウノ様!!!!」

「げ、レジーナさん」


 肩を怒らせて部屋に入ってきたレジーナさんに、あたしは頬をひきつらせた。


 まずい、レジーナさんが切れてる。


「げ、ではありません。なぜこちらにいらっしゃるのですか?!ケノウ、シャラ、カラッカ、クロレナ、あなたたちもよ!」

「仕事が終わったから、部屋に引き取っておしゃべりに興じていました」


 代表して、ケノウが真面目くさった顔で言った。

 首筋から汗が滝のように流れている。ケノウもレジーナさんが怖いんだね。


「あなたたちの部屋は移動したでしょう?」

「分不相応です。この部屋で十分……」

「とは言わせません。さっさと新しい部屋に慣れなさい。ここには明日から新しいメイドが入るわ」


 それってつまりここにはもう戻ってこれないってこと?そうだよね。あたしたちには新しい部屋が用意されて、ここは本当はもう空き部屋で。そこを遊ばせておくのはもったいない。

 わかるんだけど。

 大切なものが零れていく気がした。

 ケノウたちもすごく複雑そうな顔をしている。与えられた個室は、六階建ての使用人棟の中で最上階にある。最上階は侍女メイドたちの階で、下っ端メイドが足を踏み入れていい場所じゃあない。

 同じ建物内にありながら、今まですごく遠い世界だった場所だ。

 みんなが逡巡するのも無理ないと思う。あたしに至っては大公の宮殿、天煌宮だっけ、そこに部屋が用意されてるからね。

 戻れって言われてためらうなっていう方が無理でしょう。


「どうしても、駄目かしら。せめて、引き継ぎをしている間だけでも」

「公子様方の決定です。諦めなさい」


 ケノウの最後の嘆願をレジーナさんは退けた。

 そう言われてもですね。

 簡単には諦められないんですよ、レジーナさん。

 


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