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26.桐塚優乃が知らない間に事は進んでいた

PVが50万アクセスを越えました。本当か、と疑ってしまうくらい驚きました。

ここまで読んでくださっている皆様、ありがとうございます!!



 朝一番。

 あたしが向かったのは当然洗濯場。寝込んだのは一日だけだけど、洗濯メイドが全滅したからね。

 どんな状態になっているのか、考えるだけで恐ろしい。

 たぶん、本棟、文芸館、迎賓館、兵舎、使用人棟、その他もろもろとある建物の地下には二日分の洗濯物が溜まっているのだろう。

 せめてもの救いは、あの腐海状態が解消されていること。あれが片付いていなかったら、さすがのあたしも途方に暮れていたと思う。


「一人で、どこまでやれるかなあ」


 なにせ、ケノウたちはまだ意識が戻っていない。命に別状はないけど、目が覚めるまでにはもう少しかかるんだって。盛られた毒が中々強力だったらしい。発見が遅かったら、危険だった、とレジーナさんに教えてもらった。

 不本意ながらあたしは大公にもらった力が大きい分、体も丈夫なんだとか。喜ぶべきか悲しむべきかちょっと微妙な心境だよ。

 苦しいのは軽い方がいいけど、こうもみんなと差が出るとね。すごく申し訳ない気分になる。

 あたしが悪いわけじゃないっていうのは分かるんだけど、何とも言えない罪悪感が募るんだよねえ。

 みんなが戻ってくるまでに少しでも仕事を進めておけば、ちょっとはこのもやもやも薄れるかな。


「さて。ちゃっちゃとやっちゃいますか!」


 暗いこと考えてちゃ駄目駄目。落ち込むのは、あたしの自己満足であって、誰も望まないと思うし。


 自分に発破をかけて勢い勇んで踏み入れた洗濯場は。


 しっちゃかめっちゃかな悲惨な状態になっていた。


 はい?!何この状況。


 適当に積まれた汚れ物。あちこちに散らばった洗濯籠。まき散らされた洗剤に、ずぶ濡れの床。

 呆然とするなっていう方が無理だ。


 嫌がらせ?!嫌がらせだね???


 心当たりは……あるなあ。一番に思い当たるのは、客室メイド長。この間コミネの恨みを買ったわ……。

 覚えてなさいって捨て台詞を、ここで実行したかな。あいつならやってもおかしくないって考えるのは、偏見かなあ。


 ああ、うん。もうどうでもいいや。


 やらなきゃならないのは片付けだよ。予定変更だよ。まずは積まれた汚れ物を仕分けして洗いにかけて、それから掃除、かなあ。

 これじゃあ、回収してきた洗濯物が余計に汚れちゃう。


「にしても、これ、終るの?」


 取り掛かる前からものすごい疲労感に襲われながらあたしは、仕事を始めた。






 洗濯場の片づけを初めて、あたしは信じられない事実に行きついた。


「洗濯機が壊れてるってどういうことなのさ……」


 嫌がらせもここまで来るとあっぱれだよ。

 三十台あった洗濯機のうち半分近い十三台がご臨終していた。嘘でしょ、って叫んだあたしに非はない。

 修理できる範囲であることを祈ろう。新しい洗濯機の請求なんてしたって、聞き届けられるのがいつになるか分かんない。

 この水浸しの状況は、洗濯機の故障による弊害と見ればいいだろう。ホースあたりから水が漏れたか……。

 今は生き残っていた十七台をフル回転させている。効率が半分落ちるってきついなあ。

 その間に、モップを持ってきて床を拭いていく。洗剤もまき散らされているから、いっそ大掃除と割り切ることにした。

 やけになった、と言ってもいいかもしれない。


「あ~、にしても結構汚かったんだなあ。これからはもうちょっと真面目に掃除もしよう」


 こすればこするほどどす黒くなっていく水に、あたしは反省した。やっぱり仕事場は綺麗な方がいいもんね。

 何度目かになるか分からないくらいモップを絞った時、がやがやと賑やかな声が近づいてきた。

 ケノウたちの声じゃない。

 ってことは、ここを無茶苦茶にしてくれた犯人たちかな。これだけじゃ飽き足らず、更に荒らそうってか。

 もしそうだとしたら、全力を持って相手をしてやる。相手が格上とか関係ないもん。

 あたしの城をこれ以上好き勝手されてたまるか。


「あ~。もう。なんで寝坊するのよ!」

「そっちこそ、いつまでもいびき掻いて寝ていたじゃない」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょ。メイド長が来る前に片づけないと大目玉よ!!」


 女三つで姦しいと読む。

 それを体現したかのように騒がしいメイドたちが、洗濯場に入ってきた。人数は、ひー、ふー、……十人以上はいる、かな。

 うーん、なんか思っていたのと違う感じ。みんなあたしと同じ灰色のメイド服を着ている。たぶん、料理場の下処理とか掃除とかする下級メイドの子たちじゃないかな。

 なんでそんな子たちがこんなところにいるんだろう。

 あっちも同じことを思ったみたいで、あたしのことを不審者でも見るような顔で見ていた。


「あなた、誰?」


 リーダー格らしき額に一本角を持つキ族の女性が一歩前に出た。見た目三十代前半くらいの、ちょっとぽっちゃり系だった。


「洗濯メイドのユウノです。そういうあなたは?」

「洗濯メイド?ああ、臨時でこっちに回されたの?」

「いえ。あたしはもともと洗濯メイドですけど」


 臨時?なんだそりゃ。


 訝しげなあたしの態度に、キ族のメイドさんの顔つきが変わった。

 なんていうの。心の底から歓迎します、みたいな喜色満面の笑み。

 それは他の子たちも同じ。

 助かったあ、とかこれで何とかなるよう、とか手に手を取って全身で喜びを表している。


「ええ、と。どうかしました?」

「どうもこうも。こんなに早く洗濯係の子が復活してくれるとは思わなかったのよ!ああ、あたしはシアン。新しい洗濯メイドよ」


 まるで救世主にあったかのように目をキラキラさせて、シアンさんがあたしの両手を掴んだ。


「へ?」

「あたしたち、昨日いきなり洗濯メイドに配置換えされたのよ。それは仕方ないんだけど、本来いた洗濯メイドが全員ダウンしちゃっているっていうじゃない。仕事しようにも何をしたらいいのか全然わかんなくて、困り果ててたのよ」

「つまりこの惨状は」

「ごめんなさい。悪気はなかったのよ」


 ばつの悪そうな彼女の態度で、大方の事情が読めた。

 洗濯メイド全滅に伴い他からメイドを回したがいいが、誰一人洗濯手順が分からなかったというわけだ。

 その結果、あの悲惨な洗濯場が完成した、と。

 嫌がらせじゃなかっただけ、ましだと思うしかないか。


「すみません。お手数おかけしました」

「いいのよ。そのかわり、悪いんだけど一から仕事教えてもらえる?」

「それはいいですけど、皆さん元の持ち場に戻らなくていいんですか?」

「戻るも何も、あたしたち全員洗濯メイドになったって言ったでしょう。ここが新しい職場よ」


 その言葉にあたしは仰天した。


 何その嬉しい爆弾発言は!!


 今まで一向に増える気配のなかった洗濯メイドが一気に倍以上になったのだ。彼女たちが仕事を覚えてくれれば、かなり楽になる。

 朝の始業時間だってかなり遅くできるんじゃないだろうか。


「え、と。それ本当ですか?」

「ええ。これからしばらくよろしくね」


 ニコリと笑ったシアンさんにはい、と頷こうとして、そのまま動きを止めた。


 しばらく?何その意味深な発言。


「しばらくってことは、ケノウたちが復帰するまでって思っていいですか?」

「ちがうわ。あたしたちが仕事を覚えるまでよ。つまり引継ぎ期間ってこと」

「引き継ぎ、ですか?」


 あたしの言葉にシアンさんが首をかしげた。


「聞いてないの?洗濯メイドは全員引き継ぎが終わり次第、侍女メイドに格上げされるのよ?」

「はい?!」


 ちょっとまて、なんだそれは。

 侍女メイドってあれだよね。レジーナさんと同じ職場の事だよね。


 うええええええええええ?!どこでどうしてそうなった。


 落着けあたし。記憶を辿れ。

 どこかでそれに近いような会話を最近しなかったっけ。

 あれだ。ロダ様とフロウ様がお見舞いだか事情説明だかにいらっしゃった時だ。何か不穏なことをおっしゃっていた気がする。


「あなたたちって全員大公様のキンドレイドなんでしょう?その上、優秀らしいじゃない。当然の異動だと思うわよ」


 あたしも頑張って上級メイド目指さないと、って言っているシアンさんの言葉に、あたしは頭を抱えた。

 そうか。

 ロダ様たちが言っていた異動の事って、本気だったんだ。それも、メイドの中でも最高ランクの侍女メイド。


 はは、夢なら覚めてくれないかな。


「大丈夫?やっぱりまだ調子悪いんじゃない?」

「いえ。平気です。ちょっと知らなかった事実にショックを受けただけなので。……仕事始めてしまいましょう」


 ふ。ここで考えてしても何もわからない。なら、やることやっていよう。


 現実逃避?それのなにが悪い!!


「え、ええ。じゃあ、何をすればいいか、指示してもらっていいかしら」

「はい。よろしくお願いします」


 ぺこり、と頭を下げると、シアンさんたちは全員慌ててしまった。


 なんでだろう?





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