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23.桐塚優乃はさらに追い込まれる



「ユウノ?どうした?」


 頭を抱えて俯いているあたしに、ミュウシャ様が首を傾げられた。

 やばい。またやった。公女様無視して自分の世界に浸っていたよ。

 どんだけ不敬罪やれば、学習するんだあたし。


「は、はい!すみません、ごめんなさい。何でもないので放っておいてください~~~!!」

「え?え?え?」


 半泣きになって叫ぶあたしに、ミュウシャ様が戸惑っておられる。

 まずい。ほんと何言ったらいいのかわかんない。墓穴だけ掘ってるよ。

 おろおろと頭を抱えるあたしと不安そうな顔をされているミュウシャ様。

 お互いどうしたらいいのかわからず、微妙な空気が流れ始めたその場に助け舟は出された。


「ミュウシャ?ここかい?」

「ハーレイ兄様」


 がさり、と茂みをかき分けて現れたのは。

 イケメン俳優も真っ青な超絶美形のお兄さんでした。


 あれ?これ助け舟じゃなくて、追い討ちの方じゃない?


 また美形だよ。美人もここまで来ると食傷気味になりそう。

 一言でいうと、中性的な美青年。女にも男にも見える不思議な顔立ちをしている。すごく穏やかな顔つきで、金が混じったような銀色の髪と瞳がすごく似合う。文官タイプに見えるけど、適度な筋肉がついているみたいで、軟弱にはとても見えない。身長は、百九十センチくらいあるよね。これが噂の十頭身か。

 理想の王子様って感じ。

 まあ公子様だから同じようなものだけど。そう、この方も魔人であることに間違いない。

 空耳じゃなきゃ、ミュウシャ様このヒトの事ハーレイ様って呼ばれたよね。

 とうとう、第一公子様までお出ましだよ。

 大公閣下の第一子にして、唯一プレイムのお子様。混じり物のない純粋な魔人。

 その力は国内で第二位って言われているくらいすさまじい。勝てるのは、父親である大公閣下くらいじゃないかな。

 お母様で、この国の正妃ウィスプ様もプレイムだけど、大公様の血を引いているハーレイ様の方が強いとか何とか。もう好きにしてー。人外の力比べなんてどうでもいいっていうか、想像がつかないもん。

 この国の宰相で、有能で、男女問わず人気の高い完璧な公子様。

 世の中いるんだね、そんな文句のつけようのない存在が。できれば一生関わり合いになりたくなかったよ。

 なんでかって?そういうタイプの存在と関わるともれなく面倒事がついてくるからに決まってるじゃん。

 言葉を交わしただけで、どんな嫉妬に晒されることか。

 目撃者がミュウシャ様とレジーナさんだけであることを願いたい。


「君、大丈夫?」


 ああ。完璧な方は、頭抱えてうずくまっている見知らぬ女子にも優しく声をかけてくださるんですね。

 でも、あたしの場合はスルーしてくれた方が個人的にはありがたかったです。


「大丈夫です。ええ、きっと。大丈夫なんです。そうに決まっています。ですからお気になさらず。むしろあたしの存在など視界から消し去って、記憶から消去なさってください。初めからこの場にいなかったのだ、と納得していただければこれに勝る喜びはありません」


 早口にまくしたてると、あたしはすっくと立ち上がった。

 このままここにいても気を晴らすどころか、余計もやもやが溜まる。ただ今あたしの許容量はオーバーヒート中。そこに、第一公子様と第六公女様が現れたりしたって困るんだよ。

 本当に何を口走るか分かりやしない。部屋に籠っていると鬱々としちゃうから、外に出てきたっていうのに、どうしてこうなっちゃうんだろう。

 やることなすこと全部裏目に出ている気すらしてきた。

 あの日、洗濯物の干し場で大公閣下にあってから、あたしの運は下降しているに違いない。

 やっぱり全ての元凶は、あのヒトだ。そうとしか思えない。

 それが分かったところで事態は変わんないんだけどね。

 これ以上とんでもない方向に事態が転がる前に、さっさと立ち去るのが唯一できる防衛策だ。


「おくつろぎの所失礼いたしました。では、お休みなさいませ」


 きっちり九十度の最敬礼をし、あたしはその場から駆け出そうとして……失敗した。

 どうしてあたしの服の裾をミュウシャ様が握っておられるのかな。ちなみに今あたしが来ているのは、シンプルな萌木色のワンピース。外に出るならこれをお召しになってください、ってレジーナさんに着せられたもの。

 そして、あたしの手首をがっしりと掴んでおられるのは、ハーレイ様。


 もしもし?お二人してどうしてあたしを引き留めておられるのですか?


 特にハーレイ様。軽く掴んでおられるだけなのに、びくともしないってどういうことですか?


 本当に、勘弁してください。一杯一杯なんです。


「ユウノ、どこ、行く?」

「いきなり逃げるなんてひどいな。私たちが何かしたかな」


 いえ、何もしておられません。

 単純にあたしがこの場にいることに耐えられないだけです。


「あの、放して、ください」

「逃げない、というなら放してあげてもいいけれど。その様子だと無理そうだね」


 くすり、と笑うとハーレイ様がグイ、とあたしの腕を引いた。それを分かっていたかのように、ミュウシャ様があたしから手を離された。何、この連係プレーは。

 ハーレイ様と向き合う形になり、彼の腕の中に囲われた。


 いーやーーー!!どうして逃げようとした対象に抱かれなきゃなんないのおおおお?!


「少し、話をしないかい?心配しなくても、傷つけるようなことはしないよ」

「なん、で」

「興味かな。父上が新しい娘を迎えたというから、話をしてみたいと思っていたんだ。なかなか時間が取れなくて会いに行けなかったのだけれど」


 この大国の宰相様だもんね。大企業の社長もびっくりの分刻みのスケジュールが組み立てられているに違いない。

 いっそあたしの存在なんて、髪の毛先ほども気にかけてくださらなくてよかったんだけど。


 ていうか、ハーレイ様、いつあたしがユウノだって気づかれたんですか?もしかしなくても初めからご存知でしたね。

 確信犯ですか?!!


「だから、少し話をしよう?」


 一見非の打ちどころのない笑みだった。その目に感情が籠っていれば、あたしだって見惚れたと思う。

 銀の瞳の奥にあるのは、あたしを試すような光。草食系と見せかけて、肉食系だ、このヒト。

 全身に悪寒が走る。食われる、って思ったあたしに罪はないと思う。


 しかも、ロダ様より性質たち悪い。獲物を追いつめていたぶる猫か?!


 胸中でどれだけ叫んでもその声は誰にも届くことはなく。

 被捕食者であるあたしは、誘われるまま庭園の奥へと進む以外選択肢はなかった。




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