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21.桐塚優乃の逃亡願望




 泣いたことで少しスッキリした。

 涙は心の自浄作用って本当だね。

 魔物みたいに襲い掛かってきた恐怖が、いまはすうっと引いていた。

 まるで嵐の後の凪いだ海みたいだ。


 あたしが泣いている間、レジーナさんは何も言わずに待っていてくれた。

 本当にありがたい。

 一人じゃないって、すごく心強いんだって今さら感じた。


「少し外を歩いてもいいですか?」

「それは、」


 あたしのお願いにレジーナさんは渋い顔をした。

 当然だよね。あたし命を狙われてるんだから。というか、今襲われたばっかりだし。

 仲間が外にいる可能性だってある。

 分かっているんだけど、外に出たかった。今この部屋はあたしにとって怖い場所だった。

 ついさっきあたしがヒトを傷つけた場所。正確には隣の寝室だけど、あんまり大差はない。

 少しでいいからその場所から離れたかった。


 逃げているのかもしれない。


「お願いします。風に当たって頭を冷やしたいんです」


 まだ気持ちはもやもやしている。嵐は去ったけど、残った激情の痕は大きい。

 心は静かだけど、それは全部を受け入れたからじゃない。

 多分、麻痺しちゃっている状態に近い。緊張をはらんでいて、いつ破裂してもおかしくない状況。

 それが分かっていても、それを認めようとしないちぐはぐな思考がおかしかった。

 この部屋にいると、すごくつらい。チクチクと風船に針が刺さってくるみたい。

 だから、この部屋から出たかった。

 今のあたしには必要なことだって、心が叫んでいた。


「かしこまりました」


 あたしの必死のお願いに、折れたのはレジーナさんだった。

 さっきみたいに大泣きされるよりはましとか考えたのかもしれない。

 何でもいい。この部屋から出られるなら、全部どうでもいいって思った。


「我が儘ばかりですみません」


 それでも、振り回しているレジーナさんには申し訳なくて、深く頭を下げた。

 あたしの謝罪にレジーナさんはいいえ、と静かに首を横に振った。




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