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19.桐塚優乃は襲われる




 目が覚めたのは本能が危険を察知したから。


 そうとしか思えないくらい、あたしの目覚めははっきりとしていた。

 目を開けた瞬間飛び込んできたのは、暗闇の中振り下ろされる銀の刃。

 避けられない、と思ったあたしは反射的に両手を布団から出して突き出した。

 胸に刺さる寸前で、凶器がピタリ、と止まる。

 人生初!!真剣白刃どりに成功したよ!!位置はちょっと違う気がするけど細かい事は気にしちゃ駄目。

 状況を忘れて、感動しているあたしの身体を誰かが掴んだ。


 げ、油断した。


 そう思った時に、襲撃者は、捕まえたあたしの身体を壁に向かって思い切り投げた。


「っつう」


 いきなりの事で受け身も取れなかった。背中から思いっきり壁にぶつかったよ。背骨折れてないかな。

 床に倒れたあたしの顔に、壁面の欠片が降ってきた。どんだけ強い力で投げ飛ばされたんだ。

 って、呑気に寝ている場合じゃない。

 強い殺気があたしに向けられていた。むしろ目前まで迫っていた。

 振り下ろされたナイフを、あたしはさっき奪ったナイフで受け止めた。

 暗闇なのに、やけに視界がいい。今はありがたい。

 力任せに相手を押し返して、腹を膝で蹴り上げた。襲撃者の身体が吹っ飛んで、体が軽くなる。あたしが起き上がるのと、相手が着地するのはほぼ同時だった。

 いつの間にか背中の痛みは無くなっていた。


 くっそう。やっぱりあたしの身体改造されてるなあ。もう傷が治ってる。


 あのヒトの動きに対応できるのも、そのせいだろう。


「ちょっと!いきなり襲い掛かってくるなんて何考えてんの?!あんた誰?!!」


 あたしの詰問に相手は答えない。無言でナイフを構えた姿に、あたしはぞっとした。

 向けられる殺気は、すごく鋭利で足がすくみそうになる。

 それをどうにか抑え込んであたしは、襲撃者を睨んだ。

 姿が分からない、と思っていたら相手は全身を黒っぽい衣服で包んでいた。

 あれじゃあ、誰かなんてわからない。かろうじて、判断できたのは男だろう、ってことくらい。

 唯一見える目には、何の感情も浮かんでいなかった。機械のように冷たい瞳であたしを、獲物を見据えていた。


 殺される。


 わけもなくそんなことを思った。

 侵入者は音もなく床を蹴って、襲いかかってきた。あたしもナイフで応戦する。


 ああ、もう!今までここまで竹刀が欲しいって思ったことないよ。


 三十センチくらいのナイフじゃあ使いにくくて仕方ない。使い方なんて知らないしね!

 懐に入ってこようとする相手の動きを躱して、距離をとる。


 心臓がどくどく言っている。


 汗が噴き出してくる。


 でも、頭は冴えていた。


 相手から目を離さず出方を伺う。

 命の取り合いなんてしたことがない。でも、やらなくちゃ殺される。

 睨み合っていたのはきっと数秒だった。それが永遠にも感じた時、相手が動いた。

 相手があたしの右腕を狙ってきた。それを空いている手で叩き落とし、こっちから切りかかった。 


 肉を切る嫌な感触がした。


 でもここで止まったら殺される。湧き上がる嫌悪感を押し殺して、あたしは追撃した。

 襲撃者だってただやられてくれるわけじゃない。

 腹に向かって膝を入れてきた。それをひじ打ちで叩き落とす。

 相手はあたしより明らかに実践経験は豊富だった。それに対応できているのは、馬鹿みたいに上がった身体能力のおかげだろう。でなければ初めの一撃であたしは死んでいた。

 あたしの攻撃で、一瞬動きを止めた相手の首筋に、ナイフの柄を振り下ろした。

 ごって痛そうな音がして、襲撃者がわずかに呻いて床に倒れた。

 殺してはいない。わずかに体が動いているけど、意識は完全に落ちているようだった。

 だけどここで安心はできない。城にいるってことはきっとキンドレイドだ。

 すぐに復活すると思う。


「縛っとけばいいかな……」


 もったいないけど、シーツを使おう。そうしたら、レジーナさんを呼んでこのヒトを兵に引き渡してもらうように頼んで……。

 やることはいっぱいあるから、早く動かなくっちゃ。

 そう思う気持ちとは裏腹に、あたしの身体は震えて動けなかった。ずるずるとその場に座り込んでしまう。

 怖い。

 むき出しの殺意が怖くてたまらなかった。

 殺されるかと思った。

 でもそれより怖かったのは。


 あたし自身だった。


 襲われて、戦っている間どこかで興奮していた自分がいたことを知っている。

 自分の身を守る為にって言い訳をして、凶器を振るった。

 当たり所が悪かったら、死んでいたかもしれない。

 怖かったけど、仕方がない、ですませた自分が怖い。他者を傷つけることを平気になったらあたしは、もう戻れない。

 いつか見た、気に障ったからって言う理由でメイドを殺した魔人と同じになる。

 そう思った。


「違う。あたしは、人間だよ。人間でいたいの……」


 震える体を抱きしめて、あたしは見えない何かから自分を守るように縮こまった。



 

 


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