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17.桐塚優乃は衝撃の事実を知らされる


 困惑顔のあたしに、フロウ様が苦笑された。


「分かってねえみてえだから教えとくがな。親父のキンドレイドは少ねえんだよ。城にいるキンドレイドの一パーセントもいねえからな」

「お城で働いているのは千人ぐらいですよね。ということは十人いるかいないかくらいですか?」


 あれ?それだとお子様だけで半分越えている。

 さすがにそんなに少ないってことはないはず。政務、軍務、雑務の上層部って大公閣下のキンドレイドが占める割合が大きいって聞いたことがあるから、十人じゃあ足りないよね。


「城の従業者が千人なんてわけあるか。文官武官に使用人で三万はいるぞ」


 は?三万ってどんだけですか?大物アーティストの開くコンサートに集まるファンの数だよ。それだけの数がこの城で働いてるって。


 冗談じゃないんですね。フロウ様。


「正確には三万五千弱、というところだな。城で生活しているのは、三千ほどだが」


 え?どういうこと?

 三万五千人が城で働いているんだから、みんなここで暮らしているんじゃないの?


 お二人の説明がうまく消化できないあたしに気付いたロダ様が、つまり、と分かりやすく説明してくださる。


「全員が全員城内に居を構えているということはない。大部分は、城下町に家を構えて出仕しているんだ。住み込みなのは、大公一家とくくられるものとその世話を任されている使用人と城を管理する者たちだな」


 それに警備兵などを加えて、三千、という数字になるらしい。

 なるほど。それでも十分多いけど。

 にしてもそんなにたくさんのヒトがお城で働いてたんだあ。あたしは、千人くらいだって思ってたんだけど。そんな人数よく収容できるなあ。


「城はいくつもの建物に分かれているからな。意外と入っちまうんだよ」


 フロウ様が笑って教えてくださった。気さくな公子様だなあ。初対面のあたしにも砕けた態度で接してくれるし。


 言われて思い出したけど、確かに洗濯物の回収であっちこっちいくつも建物回ってたっけ。

 時間ごとに区切って一日一回回収しに行くだけだから、あんまり分かってなかったけど。

 そうか。やっぱりこの城ってむちゃくちゃ広かったんだ。

 よく五人で洗濯回してたよ。それとも一日かければ何とかなるものなのかな。

 実際何とかなってたし。


「おーい。大丈夫かあ?」


 目の前でフロウ様に手を振られて、あたしは思考の海から戻った。

 いかん。公子様たちの前ですごい無礼をしてしまった。


「あ、はい。えっと。それでどうして、大公閣下のキンドレイドが特別扱いされるんですか?」

「一つ目はさっき言った通り数が少ないってこと。二つ目は、親父の力が半端ねえからだな」

「どういうことですか?」

「父上の力は世界で五指に入る。そんな方の力を受け入れるんだ。血の一滴だって相当のものだぞ。一般的なキンドレイドの力の平均値の倍は行く」


 マジですか?


 キンドレイドになっただけで、地球の一般人なんて軽く捻りつぶされちゃう力があるんだよ。

 それの倍の力を血の一滴だけで与えられるって。

 大公様ってどんだけ化けもんなの。


「だから、父上のキンドレイドは大抵上の役職に就く。下っ端から始まっても、百年以上そのまま、ということは通常あり得ない」

「え?でも、ケノウたちは……」


 あたしより長く洗濯メイドをやっている四人は、ずっとあの持ち場から動いたことがないって言ってた。

 他の子が入ってきたことはあるらしいけど、すぐに入れ替えがあったって。

 だから、一年以上あの場所にいる新入りはあたしくらい。一番年長者のケノウはもう百三十年は洗濯メイドをやっている。


「そうだ。ずっと気づかれることなく下っ端メイドをしていたことになる」

「親父がユウノのこと見つけなきゃ、今も気づかれなかっただろうな」

「なんでですか?大公閣下のキンドレイドが少ないっていうなら、数くらい把握してるんじゃないですか?」

「ああ。ただ、ユウノ。お前も含め洗濯係五人には共通点があった」

「共通点?」


 なんだろう。

 あたしたちはみんな種族も違えば、キンドレイドになった時期も違う。趣味も違うし性格だって同じとは言い難い。

 結束力は、仕事仲間としてのものだし。唯一上げられることっていえば、全員女ってことくらいだよね。

 あたしの考えを読み取ったように、ロダ様が首を横に振られた。


「ヒト柄や生い立ちではないよ。共通したことは二点」

「全員が親父の力をすぐに受け入れずに昏睡状態に陥ったこと。それと、いつの間にか行方をくらましたってことだ」


 前半はともかく、後半は意味不明だ。眠っていたあたしたちがどうやって行方をくらませるっていうんだろう。

 大体、あたしが目を覚ました場所ってメイドたちが使う大部屋だったし。

 なんかの話のついでにちらっと聞いたところによると、ケノウたちも同じような状況だったらしい。

 だからあたしたちは一人として、逃亡なんてしてない。


「どういうことなんでしょうか。あたしたちは、言われたとおり洗濯メイドの任についていただけです」

「そうだ。お前たちに非はない。ただの被害者だ」


 分かっている、というように、ロダ様が微笑まれた。


「被害者?」

「どこの世界にも馬鹿がいるってことさ。お前も含めて洗濯係の奴ら全員結構な血を親父から飲まされたらしくてな」

「父上に聞いた量から察するに、彼女たちは間違いなく上位者として名を並べるキンドレイドになる」

「それを面白く思わない馬鹿が出たらしい。そいつが眠っていたお前らを攫ったんだよ」


 後からキンドレイドになった存在に自分の地位が脅かされるとでも考えたのかな。

 いや、でも、待って。それってつまり。


「その誰かさんの思惑で、あたしたちは過酷な労働環境に置かれてた、とか言いませんよね?」


 人員が全く増えなかったこととか。

 陰険ないじめに近い嫌がらせがあったこととか。

 ものすっごく苦労していた理由が、誰かさんの嫉妬が原因だったなんてことないよね!

 縋るようにロダ様を見たら、ものすごく気の毒そうな顔をされてしまった。


「残念ながらその通りだ。なまじ優秀すぎて仕事を回していたことが仇になったな」

「洗濯が回らなきゃ、そのうちだれかが気づいたって可能性もあったんだがな。お前ら、完璧に仕事しすぎだ」


 マジですか?!

 あんだけ頑張って働いた結果は自分たちの首を絞めてただけ?!!

 もうちょっと手を抜いていたら、もしかしたら業務改善されていた可能性があったなんて……!


 ケノウたちが知ったらショックで倒れそうだ。


 あたし?あたしはもう寝転んでるから、倒れようがない。

 代わりに、眩暈は酷くなった。




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