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16.桐塚優乃は第五公子と面会する



 目を覚ましたらクリーム色の天蓋が見えた。

 こうやって思うのは何回目かなあ。ついでに、あたしいつの間にここに戻ってきていたんだろう。

 ここの所使用人棟にある下っ端の大部屋で、ケノウたちと寝起きを共にしていたはずなんだけど。寝ている隙に、レジーナさんに連れてこられた、とか。


 大いにあり得る。


 いつの間にか夜になっていたらしい。薄青い室内灯が室内を柔らかく照らしていた。

 ぼんやりとする頭を抱えて、あたしはゆっくりと体を起こした。

 その途端襲ってきたのは、耐えがたい吐き気だった。


 ちょ、トイレ!洗面台!!洗面器ーー!!


 豪華なベッドに汚物なんてまき散らしたくない。

 涙目になりながら、ずりずりとベッドから降りようとして……落ちた。


 恥ず!


 どっしーんって。どれだけ漫画チックな落ち方してんの、あたし。

 鼻打った。

 あと、腕が痛い。何か、鋭利な物を無理矢理抜き取られた感じがする。

 見上げたら、針がついた管がぶらぶらと揺れていた。

 ああ、点滴されてたんだ。その針が今の勢いで抜けちゃったのか。


 なら納得。


 ん?なんで点滴なんて打たれてたんだろう。


 って、そんなこと気にしてる場合じゃない。ト、トイレ~~~。


「ユウノ様。こちらにどうぞ」


 そう言われて横から差し出されたのは、お花を連想させる形をした白い洗面器。

 灰色がかった色彩でクジャクの羽の模様みたいな絵が描かれていた。

 可愛い。高そう。これに、ゲロッていいって言われても。


 なんていう遠慮は、生理現象に負けた。


 胃の中にあったもの全部外に出して、ようやくすっきりした。

 口の中は、胃液の味がして最悪だけど。そんなあたしの心を読んだかのように、す、と水が入ったコップが差し出された。

 ここまで来たら遠慮なんてしたってしょうがない。ありがたく頂戴して、口の中をゆすがせてもらった。


「ありがとう、ございます。レジーナさん」

「いいえ。お傍を離れたわたくしが悪かったのです。まだご気分はすぐれないでしょう?寝台にお戻りください」

「はい……」


 吐いたせいで、体力を奪われたあたしは、おとなしく頷いた。ああ、立ち上がるのもちょっと億劫だ。

 そんなことを思っていたらレジーナさんが、そっと手を貸してくれて、ベッドに運んでくれた。


 嬉し恥ずかしお姫様抱っこというやつだ。


 まさかこれを女性にやられる日がこようとは。全身柔かい毛でおおわれているレジーナさんの身体は、気持ちよかったよ……。

 汚した洗面器は、どこからともなく表れた猫の顔をしたメイドさんが持っていってくれた。ちらっと見た感じ、アメリカンショートヘアタイプだった。始末させてごめんなさい


「お熱はありません。解毒はすんでおりますから、明日には起き上がれると医者が申しておりました」

「毒?」

「はい。ユウノ様は、毒を盛られたのです。ケノウたちと召し上がられたカジャランに強力な毒が仕込まれていました」


 そういえば、仕事の終わりに寛いでいたら、クロレナが倒れたんだっけ。それで、ケノウたちも倒れて、あたしも倒れた。


 そっかあ。毒かあ……って毒?!!


 なにそれ?!あたしそんなもの盛られるような恨み買った覚えないんだけど。

 ってそうじゃなくて!!


「ケノウたちは無事なんですか?!」


 思わず起き上がって、眩暈に襲われた。気持ち悪い。

 ベッドに突っ伏したあたしの背中を、レジーナさんがさすってくれた。吐きそうですか?と聞かれて首を横に振る。

 さっき全部吐き出しちゃって、胃の中は空っぽ。胃液も出やしないよ。


「あたしはいいんです。それより、ケノウ、たちは?」


 特にクロレナは、カジャランをたくさん食べていた。みんな苦しそうな顔をして、泡を吐いていた。

 嫌な考えが頭をよぎる。

 泣きそうになっているあたしをベッドに寝かせて、レジーナさんは小さく微笑んだ。


「大丈夫です。みな意識は戻っていませんが、峠は越えました。全員並のキンドレイドではありませんから、じきに回復しますわ」

「よかった……」


 みんな頑丈さには定評があるもんね。熱も出さなきゃ、腹痛を起こしたこともない。生理痛にだって薬に頼らない強者たちの集まりだ。 


 あれ?今、レジーナさんなんだか聞き捨てならないこと言いませんでしたか?


「ケノウたちが並のキンドレイドじゃなないってどういうことですか?」


 何度も言って申し訳ないが、洗濯メイドは下っ端だ。つまり、キンドレイドとしての地位も力も下位。

 そのケノウたちが並じゃないって、どういうこと?


「それは私が話そう」


 そう言って部屋に入ってきたのは、ロダ様と狼頭の男性だった。


 何故ロダ様がおられるんですか?相変わらず男前の麗しいお姿ですね。


 お連れの方は、青銀の毛並みが美しい精悍な顔つきの青年だ。犬に例えていうなら、チワワタイプじゃなくて、ドーベルマンタイプ。鍛え上げられた体つきをしているけど、マッチョなんかじゃない。狼男もここまで来ると、見惚れるよ。身長は大きい。二メートルくらいはありそう。ふさふさの毛並みをしてるけど、顔以外の外見は人間っぽい。手は大きいし爪は鋭いけど。

 赤ずきんちゃんの疑問が今分かった気がする。まあ、おばあさんの手って、なんて大きいの、ってセリフ。実際見て思ったけど、あれがおばあさんの口や手だったら、ものすごい違和感だ。普通一発で気づくだろ、お嬢さん。

 ロダ様の護衛かな?って思ってたら、第五公子様ですってレジーナさんが耳打ちしてくれた。


 グッジョブ!レジーナさん。危うく、一般兵扱いするところだった。


「ああ。起き上がらなくていい。顔色が最悪だ」

「いえ、そういうわけには」


 公女様と公子様を前に寝ているわけにいかない、と起き上がろうとしたら、ロダ様に押し戻された。

 たいして力入れてないみたいなのに、すごい強さだった。


「言うこと聞いとけって。ほんとに酷い顔色なんだからよ」

「あ、はい。お気遣いありがとうございます?」


 ロダ様とは反対の方から、第五公子様に顔を覗き込まれてあたしは大人しく布団の中に潜り込んだ。

 実際、起き上がっているのはつらかったから、申し出はありがたかった。

 寝転がっていても眩暈が酷い。距離感がでたらめになってる感じ。


「相当強力な毒だったからな。力に馴染み始めていた体には、つらかったんだろう」

「死ぬほどじゃあねえがな」


 公子様が大きな手であたしの頭を乱暴に撫でた。男の人に頭を撫でられるなんて、小さいころにお父さんにされて以来だ。

 びっくりして固まったら、公子様がおかしそうに大きな口をあけて笑った。


「ロダ。新しい妹は随分とかわいらしいな」

「ああ。我ら兄弟の中に今までいなかったタイプだ。レティシアあたりが気に入りそうだな」

「ドリーンもな。意外なところでリックスもいけるかもしれねえな」


 頭上で交わされる会話にあたしは目を白黒させていた。


 なんで公女様と公子様があたしのことで盛り上がってるの?しかも、気に入るって何?!


 混乱しているあたしに助け舟を出してくれたのは、頼れるメイドさんレジーナさんだった。


「ロダ様。フロウ様。ユウノ様が戸惑っておられます」


 そうか。公子様はフロウ様、とおっしゃるのか。覚えておこう。

 ロダ様がしまったというようにばつの悪そうな顔をされた。


「ああ。悪かった。ケノウたちの話だったな」

「あ、はい」

「お前も含め洗濯係とされていた五人のメイドだがな。調べた結果全員が父上のキンドレイドだということが判明した」

「はあ」


 洗濯メイドメンバーが大公閣下のキンドレイドだからってどうしたんだろう。


 別に問題ないよねえ。




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