13.桐塚優乃は筆頭メイドを説得する
何度目になるか分からないくらい洗濯機を回したところで、洗濯場に鬼のような形相をしたレジーナさんが現れた。
可愛らしいうさぎの顔が台無しですよ、レジーナさん。
「見つけましたよ、ユウノ様!!」
「レジーナさん。どうしたんですか?」
来るかもしれない、とは思っていたから、レジーナさんが来ても特に驚くことはなかった。
むしろ、遅かったな、って思ったくらい。昼食の時間をとっくに過ぎているからね。
まだ星が空を彩っている時間にあたしは部屋を抜け出した。もちろんこっそりね。
いくら頼んでも、レジーナさんはあたしが職場復帰することに渋面しか作らなかった。だから、あたしの我慢の限界が来ちゃったんだよ。
働かざる者食うべからず、って言うでしょ?あのままだらだらとしているなんて、あたしの性格に合わない。
かといって洗濯以外にあたしができることはない。あ、公女云々は最初っから視野に入れてないのであしからず。
とはいえ、許可とったわけじゃあないから、お仕事に真面目なレジーナさんは連れ戻しに来ると思っていた。そこまでは計算済み。
あとは、何が何でもレジーナさんを説得するだけってわけ。
だって、洗濯場に来ちゃえばこっちのもんだからね。
「どうした、ではありません。何をなさっておられるのですか?!」
「洗濯です」
見ての通り。これから、乾燥機から乾いた洗濯物を取り出すところ。この後、畳む係のクロレナたちに渡しに行く予定。
申し訳ないと思いながらも、手を止めずにレジーナさんの質問に答えたら、思いっきり目くじら立てられた。
可愛いうさぎさんなので、あんまり迫力はない。
「ユウノ様が洗濯をする必要は、」
「あります。でないと、ここが埋まっちゃいますから」
ケノウたちがいくら頑張ったって、限界はある。洗濯をなめるなよ。
あたしの刺々しい声に、レジーナさんが言葉を詰まらせた。
「朝来た時には、この状態よりもひどかったんです。やっとここまで減ったんですから、邪魔しないでくださいね」
朝の途方に暮れるような腐海が、ようやく三分の一近く片付いた。ここであたしがレジーナさんに負けて抜けちゃったら、元の木阿弥。ううん。もっとひどいことになるかもしれない。
有無を言わせないあたしの声の強さに、レジーナさんがたじろいだ。
怯えさせちゃったかな。あたしのことを気にかけてくれているヒトを脅すのは、本意じゃない。
でも、ここは譲れない。
だって、ケノウたちがすごく疲れているのを見て呑気にしていられるほどあたしは図太くない。
洗濯物を運んだ時に顔を合わせたシャラたちは、目の下に隈を作っていた。肌荒れもひどくて、疲労困憊を絵にかいたような状態。
そんなの放っておけるわけないじゃん。
大事な仕事仲間の危機に駆けつけず、いつ走れっていうのさ。
じっとにらみ合う、なんてことせず、手際よく洗濯を進めていくあたしにレジーナさんが溜息をついた。
あれって、諦めを含んでるよね。
よし、勝った!!
「分かりました。ではわたくしもお手伝いいたします」
「え、それはちょっと」
上級メイドさんにやらせるような仕事じゃあないと思う。流石にそれくらいはあたしも分かるし。
思わぬ申し出にたじたじと遠慮するあたしの手から籠を奪って、レジーナさんはすたすたと歩いて行った。
その背中は反論は受け付けません、って言っている。
あ、あれは何言っても無駄か。
うーん、それなら。
「レジーナさん、どうせ持って行くなら二つ持ってってください。時間の無駄です。後エレベーターは使わないことをお勧めします。他の使用人に会うと間違いなく嫌味言われます。あと、それは、六階の屋上に続く階段脇にある洗濯物収納室に運んでくださいね」
「……わかりました」
あたしのお願いに、レジーナさんは疲れたように返事をして、きっちり籠を二つ持って部屋から出て行った。
流石長年メイドをやっているだけあって、重いものを運ぶのも手馴れているみたい。
部屋から出ていく背中に哀愁が漂ってた気がするのは、気のせいかなああ。




