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11.桐塚優乃は第一公女に見舞われる




「洗濯?」

「はい。あたしは洗濯係ですから」


 心の底から不思議そうな顔をされたロダ様に、あたしはしっかりと頷いた。


「なるほど。それで、か」


 なぜは納得されているロダ様に、あたしは首をかしげた。


「なにがでしょう?」

「いや、こちらの話だ。それより、君はもうメイドではないのだから、洗濯をする必要はないよ」


 あたしの中に衝撃が走った。


 ちょっと待ってそれって。


「メイドじゃないって。あたしクビになったんですか?!」


 マジ?何か失敗したっけ。とういうか、ここにきて職を失うとは思わなかったよ。

 もしかして、ロダ様がここにいらっしゃったのってあたしに城から出て行けってうおっしゃるためなのかな。

 いや、それはないだろうけど。下っ端メイドの解雇を伝えるのに、なんで公女様が出てくるんだ。落着けあたし。


「クビ、というより転職という方が近いか」

「転職?配置替えってことですか?」

「まあそんなところだ。レジーナに聞いていないか?」


 レジーナさん?何言われたっけ。

 ああ。第八公女だの、大公閣下の娘になっただの、洗濯なんてとんでもないって言われたことかな?

 それ、全部勘違いだと思うんだけどな。

 ああ。一つだけ間違いないと思うことがあった。


「あたしが、大公閣下のキンドレイドってことは聞きました」


 今まで謎だったあたしのクアントゥールの正体が大公閣下だって聞いて驚いたのなんのって。

 どうも、ここの所心臓に悪いことしか聞いていない気がする。


「父上がクアントゥールだということも知らなかったのか」

「はあ。会ったこともありませんし」

「そうか。では、娘になったことは聞いたか?」

「ああ。それはレジーナさんの勘違いだと思うんですが」

 

 だってありえないでしょ。下位のキンドレイドが魔人の娘、なんて。


 それってつまり、あたしがシークンになるってことで、魔人の仲間入りをするってことだよ。天地がひっくり返ったって起こるはずがない。

 あたしの返答に、ロダ様が難しい顔をされた。


「自分の力に全く気付いていない、か。危険だな」

「はい。ご自覚が一切ございません」

「これは早々に縛り付けてしまった方がよさそうだ。また雲隠れされかねない」

「そうですね」


 もしもーし。お二人さん。なんか不穏な言葉が聞こえましたよ。


 ロダ様、縛るってなんですか?レジーナさん、そこで同意しないでください。


 ぴるぴると怯えるあたしを、ロダ様が困ったように見た。


「本当に信じていないようだな。我が新しき妹は」

「……あたしは、下っ端です」

「その上頑固と見える。まあ、すぐに自分の立場を理解するようにさせよう。早く体調を戻せ。ユウノ」


 あたしの頬を撫でて、ロダ様が獰猛な笑みを浮かべた。


 肉食。肉食ですね、あなた! 


 今、獅子の前に放り出された兎の気持ちがちょっとわかった気がしたよ。


「怯えていては、何も見えなくなる。父上の力に負け、死ぬことになる」

「死にません。絶対に死んでなんかやりません」

「ならば、受け入れろ。お前の具合が悪いのは父上の力を認めていないからだ。心が拒否するから、体が異物への拒絶反応を起こす。それを消化しない限りベッドから出られないし、出しもしない。そして、いずれ、死ぬ」


 異物。大公に無理矢理食べさせられた指のことだ。

 あれを身に取り込むことを嫌がっているって、ロダ様は言う。当たり前だ。気持ち悪い。あたしには必要ない。

 でもそれじゃあ、死んじゃう。


 それも嫌だ。


 なら。


「ほう。頑固でありながら柔軟な思考も持ち合わせているな」


 あたしが腹を決めた瞬間、全身の倦怠感が薄れた。熱っぽいのは残っているけど、さっきほどじゃない。

 ロダ様のおっしゃったことが間違っていなかったってことだ。

 気持ち一つでこんなに簡単に済んでしまうのか、とちょっと拍子抜けすらした。

 そのことをロダ様は気づいたらしい。とても楽しそうな声で笑った。


「本当に将来が楽しみだ。また来るよ、ユウノ」


 そうおっしゃるとロダ様は颯爽と部屋から出て行った。その後ろ姿は、自信に満ち溢れていてとてもかっこいい。


 思わず見惚れたよ。


 それにしても、何だったんだろう、一体。


「ユウノ様。大丈夫ですか?」

「ああ。はい。レジーナさん。ロダ様は何しにこられたんでしょう」

「お見舞いだそうです。ロド焼きを戴きました」


 ロド焼きっていうのは、甘いお餅みたいなお菓子。粘つき具合は蜜みたいだけどおいしいんだよね。

 疲れているときには、非常に嬉しい一品。でも、高くてなかなか口にできない代物だ。


「そのお菓子、あたしに、ですか?」

「はい。お召しになりますか」


 ちょっとだけ考えて、食べることにした。

 あれ日持ちしないし。返すのもなんか違うし。

 滅多に食べられない高級菓子だし。

 あたしはおいしいものに目がないんだよ。


「にしても、なんであたしのお見舞いになんていらしたんですか?」

「新しい妹君にお会いしたかったようです」

「はい?」

「ダラス大公様はこれまでユウノ様の存在を明らかにされていませんでした。公にされたのが、七日前のことです」

「はあ」

「以来、ユウノ様に城中の者が注目しておられます。大公一家の方々も関心をお持ちの方が多いようですわ」 


 持たなくていいよ、そんなもの。


 なんか外堀埋められている気がするのは気のせいかな。うん。きっとそうだよ。

 体の調子も良くなったし、明日には職場復帰しよう。それで、ここ数日のことは夢だと思って忘れよう。

 それがあたしの精神衛生上最もいいことだって、本能が訴えてるし。


「これは本当に急いだ方がよさそうですね」


 自分の考えに耽っていたあたしは、レジーナさんの不穏な呟きに気付かなかった。

 とりあえず。


 今はロド焼きを堪能することにしよう。






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