10.桐塚優乃、第一公女と会う
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昼食を食べ終えた後、ベッドでうつらうつらとしていたら、申し訳なさそうな声に揺り起こされた。
「レジーナさん……?」
「はい。ユウノ様、おつらいところ申し訳ありませんが、起きていただけますか」
どうもレジーナさんの様子がおかしい。あたしに対しての気遣いはいつもの事。
それだけじゃなくて、何かにすごく緊張しているみたいだった。なんていうか、表情も声も固い。
よくわからなかったけど、ここでわがままを言ってもしょうがない。レジーナさんにはだいぶ迷惑をかけているから、こういう時くらいは言うことを聞こう。
「わかりました。起きます」
「申し訳ございません」
「レジーナさんが謝ることじゃないです。顔を上げてください」
そうやって深々と頭を下げられるような人間じゃないんだってば。あたしの方がごめんなさいって謝りたくなってくる。
「そうだよ、レジーナ。悪いのは押しかけた私なのだから」
いきなり聞こえた第三者の声に、あたしはびくり、と肩を震わせた。
これまであたしが寝ている部屋にレジーナさん以外入ってきたことはない。顔を合わせていないメイドさんっていう感じでもなかった。
だって、筆頭メイドって言っていたレジーナさんよりも偉そうだったから。
一体誰なんだろう、と恐る恐る顔を向けたあたしは、動きを止めた。
たぶん間抜け面をさらしていたと思う。それくらい、衝撃だった。
生宝塚!そう言いたくなる麗しい男装の麗人が目の前にいるんだもん。これは興奮ものだよ。
きりっとした眉。吊り上った赤い目。紅を引いた赤い唇。白雪の肌。すらりとした肢体。ポニーテールの赤毛が酷くお似合いだ。お姉さま、と呼びたくなるような方だよ、うん。額から細い角が二本突き出している。爪は鋭く長い。鬼のお姫様っていう感じ。確かキ族っていうんだっけ。
「ロダ様。隣室でお待ちいただくようお願いいたしましたが」
「我が妹殿は、体調が悪いのだろう?無理をさせては申し訳ないからね」
レジーナさんの非難を男装の麗人はさらりとかわした。
ん?ロダ様?
どっかで聞いたことがある名前だな。そう思っていたら、レジーナさんが小さな声で第一公女様です、と教えてくれた。
第一公女って、確か大公閣下の三番目のお子様だったよね。大公閣下とは血の繋がりはないはず。
魔人って大雑把に分けると三種類いる。
一つ目が大公閣下みたいに魔人以外の血が混じっていない純粋な魔人。純魔人=プレイムって呼ばれている。このヒトたちが最強で、世界に千人もいない種族。
魔人の原種、とも言われている。
二つ目がプレイムの血を引く魔人。混血っていうのかな。彼らは準魔人=ベタルっていう。プレイムから三代目までがここに分類される。それ以上は血が薄くなりすぎて、魔人と呼べる力を持たなくなるからね。
プレイムの血が濃ければ濃いほど、強いベタルっていうのがセオリー。血の原点になる、プレイムの強さにも多少は左右されるらしいけどね。
最後が、魔人の中でも特殊な存在。キンドレイドの中でも強大な力を持っていて、そのことをクアントゥールに認められたヒト。単なる眷属から脱却して、魔人の仲間入りをする。そうなるとクアントゥールと養子縁組みたいなことして親子関係になることが多いみたい。彼らのことは順魔人=シークンって言う。
シークンは場合によってはベタルより強い力を持つことがあるらしい。クアントゥールからどれだけ血肉を分けられたか、が彼らの力の強さを左右する。
ちなみにシークンを作れるのは、プレイムがほとんど。頑張って一代目ベタルができるかどうかってとこかな。
大公閣下には一人のプレイムのお子様と、六人のベタルのお子様。それに五人のシークンのお子様方がいらっしゃる。お子様って言っても皆様全員成年なんてはるか昔に迎えていて、あたしより年上だけどね。
ロダ様は、大公閣下の初めてのシークンのお子様になる。今は彼の補佐をしているって聞いたことがあるなあ。
そんな偉い方がなんであたしなんかに会いに来たんだろう。
首をかしげていると、ロダ様が我慢しきれないと言った様子で笑い出した。
「これは随分父上に気に入られたようだ。相当心の臓の血を注がれたな」
「そのようです。それに十の指先を与えられた、と」
「なるほど。それで生きて正気を保っているのであれば、将来が楽しみだ」
「ご本人が無自覚なのが、問題ではありますが」
「ほう。そうなのか?」
ロダ様、いきなりあたしに話を振らないでください。まったく理解できませんから。
ええ。したくもありません。
「失礼ながら、何のことかさっぱりです。あたしは一刻も早く職場に復帰したいだけです」
「職場?」
「洗濯場です」
きっぱりはっきり言うと、ロダ様は虚を突かれたような顔をされた。
うん。そこまで衝撃を受けるようなこと言ったかな、あたし。
レジーナさん、困ったような顔しないでほしいなあ。




