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先頭車両

作者: 尚文産商堂

私の原体験は、小さな頃に見た、先頭車両からの風景だった。

まるで、実寸大のミニチュアハウスのようなその光景が、私は好きだった。

それが、すべての始まりだった。


遠くの高校に通うようになって、私は、毎日電車に乗り込むことになった。

いつもの場所は、先頭車両の運転手がいる席とは逆の窓の前。

友人曰く、この時の私は見たことがないような瞳の輝きをしているらしい。

きっと、私も楽しんで乗り込んでいるのだからと答えるようにしている。

事実、私はこの位置から見る電車の風景が好きなのだ。

それは変えようがないことだ。


私が2年生になった時、部活の後輩ができた。

弱小部活の読書愛好会だけど、男子が1人と女子が3人入ってきた。

しかも男子の後輩は、私と同じ電車に乗っているという。

彼は私とは逆に、流れて行く景色が好きだっていうことで、最後尾車両に乗り込んでいるらしい。

前から迫ってくる絵ばかりを追っていたけど、考えたら後ろからの景色は見たことがない。

彼がいうのには、流れて行く景色はいいものだという。

私たちの共通点といえばそれぐらいだった。


その日は、いつものように私は先頭車両に乗って、景色を楽しんでいた。

そこへ、後輩が乗り込んでくる。

「おはいうございます」

「あ、おはよう。今日は先頭に?」

後輩はうなづいた。

「先輩が、本当に乗っているのかなと思いまして」

「私は見ての通り、ちゃんと乗り込んでいるわよ」

私は後輩に言って、前をじっと見た。

「先頭からの風景も、面白いですね。いつもは後ろに乗ってるから、こんな風景に気づけませんでした」

「私の原体験の場所だからね。だから、ずっと私はこの位置」

後輩は私をじっと見ていた。

「…なに?」

「あ、いえ。先輩が楽しそうでしたので」

「それ、友達にも言われたなぁ」

「やっぱりですか。あの…」

「ん?」

カタンカタンとリズミカルに電車は走る。

「また、ここで会ってもらってもいいですか」

「もちろんいいよ」

電車は突如として急ブレーキをかけた。

そのせいで、後輩がこけそうになったので、抱き寄せた。

「…もちろん、いいわよ」

優しく声をかけると、顔を真っ赤にして、後輩は私から飛びのいた。

「あ、あの。ごめんないさい」

「慌ててる後輩も可愛いなー」

どうやらこれからは、これまで以上に楽しい通学ができそうだと、私は思った。

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