ラテカ
笑える作品だと思います!
映画スタジオ。
「はい、カット!」
若き映画監督・美優がメガホンを下ろした。
長い黒髪に整った顔立ち。モデルのような抜群のスタイルを持つ彼女だが、現場では誰よりも熱血だった。
「雄馬くん!」
「は、はいっ!」
主人公を演じる俳優・雄馬は慌てて駆け寄る。
どこか冴えない雰囲気で、緊張するとすぐ噛む。
「さっきのセリフ。」
「はい。」
「ホラーじゃなくて、お化け屋敷で迷子になった小学生みたいだった。」
スタッフが笑う。
「す、すみません……。」
「謝らなくていいから、怖がって。」
「頑張って怖がります!」
「頑張って怖がるって何?」
また笑いが起きる。
助監督が肩を震わせていた。
「監督、この現場、ホラーじゃなくてコメディですよ。」
「それは主演次第。」
「責任重大だ……。」
雄馬は肩を落とした。
今回の映画のタイトルは――
『ラテカ』
古い洋館で、"ラテカ"という謎の存在に追われるホラー作品だ。
しかし撮影は、まるで別ジャンルだった。
大道具スタッフが言う。
「監督、ラテカの顔が取れました。」
着ぐるみの頭部がポロリ。
中から暑そうなおじさんが顔を出す。
「すみません、水飲んでいいですか?」
美優は吹き出した。
「怖さゼロ!」
雄馬も笑ってしまう。
「ラテカさん、普通にいい人ですね。」
「娘が映画好きでね。」
「設定まで優しい!」
現場は爆笑だった。
休憩時間。
雄馬は缶コーヒーを飲んでいた。
そこへ美優がやって来る。
「隣、いい?」
「もちろんです。」
二人はベンチに座る。
美優が笑う。
「最初はさ。」
「はい。」
「雄馬くん、頼りないなぁって思ってた。」
「やっぱり。」
「でも。」
「でも?」
「みんなを笑わせる才能ある。」
雄馬は首をかしげる。
「狙ってないんですけど。」
「そこが面白い。」
「褒められてます?」
「たぶん。」
「たぶん!」
二人は笑った。
午後の撮影。
美優が説明する。
「ここでラテカが出る。」
「はい。」
「全力で逃げる。」
「はい!」
「転ばない。」
「はい!」
本番。
「よーい……スタート!」
ラテカ登場。
「うわぁぁぁ!」
雄馬は全力疾走。
しかし何もない場所で転ぶ。
「ぎゃっ!」
さらに勢い余って、ラテカ役の俳優まで巻き込む。
「うわぁ!」
二人とも転倒。
「いたたた……。」
ラテカ役が起き上がる。
「大丈夫?」
「ラテカが心配してる!」
スタッフ全員が笑い転げた。
美優はお腹を抱えている。
「カット! ダメ! 笑っちゃう!」
「監督が笑ってどうするんですか!」
「無理! 今日一番面白い!」
夕方。
撮影が終わる。
夕日がスタジオを赤く染めていた。
雄馬が頭を下げる。
「今日もありがとうございました。」
美優は笑顔で答える。
「こちらこそ。」
「ちゃんと主演、できてますか?」
「うん。」
「本当ですか?」
「ホラー映画なのに、現場を明るくできる主演なんて珍しいよ。」
「それっていいことですか?」
「もちろん。」
少し照れながら、美優は続ける。
「それに……。」
「はい?」
「雄馬くんと話してると楽しい。」
雄馬は固まる。
「え?」
「次の映画も主演、お願いしようかな。」
「ほ、本当に?」
「ただし。」
「ただし?」
「今度は転ばないこと。」
「そこですか!」
「そこ。」
二人は顔を見合わせて笑う。
その様子を見ていた助監督が小さくつぶやく。
「監督。」
「なに?」
「ラブコメ映画も撮れそうですね。」
美優は照れ笑いを浮かべる。
「……それも、悪くないかも。」
その瞬間、着ぐるみ姿のラテカ役が遠くから手を振る。
「みんなー! 打ち上げ行く人ー!」
雄馬が笑う。
「ラテカが一番陽気ですね。」
美優も大笑いした。
ホラー映画『ラテカ』の撮影現場は、今日も悲鳴より笑い声のほうがずっと多かった。




