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ラテカ

作者: だぶのー
掲載日:2026/07/07

笑える作品だと思います!

映画スタジオ。


「はい、カット!」


若き映画監督・美優がメガホンを下ろした。


長い黒髪に整った顔立ち。モデルのような抜群のスタイルを持つ彼女だが、現場では誰よりも熱血だった。


「雄馬くん!」


「は、はいっ!」


主人公を演じる俳優・雄馬は慌てて駆け寄る。


どこか冴えない雰囲気で、緊張するとすぐ噛む。


「さっきのセリフ。」


「はい。」


「ホラーじゃなくて、お化け屋敷で迷子になった小学生みたいだった。」


スタッフが笑う。


「す、すみません……。」


「謝らなくていいから、怖がって。」


「頑張って怖がります!」


「頑張って怖がるって何?」


また笑いが起きる。


助監督が肩を震わせていた。


「監督、この現場、ホラーじゃなくてコメディですよ。」


「それは主演次第。」


「責任重大だ……。」


雄馬は肩を落とした。


今回の映画のタイトルは――


『ラテカ』


古い洋館で、"ラテカ"という謎の存在に追われるホラー作品だ。


しかし撮影は、まるで別ジャンルだった。


大道具スタッフが言う。


「監督、ラテカの顔が取れました。」


着ぐるみの頭部がポロリ。


中から暑そうなおじさんが顔を出す。


「すみません、水飲んでいいですか?」


美優は吹き出した。


「怖さゼロ!」


雄馬も笑ってしまう。


「ラテカさん、普通にいい人ですね。」


「娘が映画好きでね。」


「設定まで優しい!」


現場は爆笑だった。


休憩時間。


雄馬は缶コーヒーを飲んでいた。


そこへ美優がやって来る。


「隣、いい?」


「もちろんです。」


二人はベンチに座る。


美優が笑う。


「最初はさ。」


「はい。」


「雄馬くん、頼りないなぁって思ってた。」


「やっぱり。」


「でも。」


「でも?」


「みんなを笑わせる才能ある。」


雄馬は首をかしげる。


「狙ってないんですけど。」


「そこが面白い。」


「褒められてます?」


「たぶん。」


「たぶん!」


二人は笑った。


午後の撮影。


美優が説明する。


「ここでラテカが出る。」


「はい。」


「全力で逃げる。」


「はい!」


「転ばない。」


「はい!」


本番。


「よーい……スタート!」


ラテカ登場。


「うわぁぁぁ!」


雄馬は全力疾走。


しかし何もない場所で転ぶ。


「ぎゃっ!」


さらに勢い余って、ラテカ役の俳優まで巻き込む。


「うわぁ!」


二人とも転倒。


「いたたた……。」


ラテカ役が起き上がる。


「大丈夫?」


「ラテカが心配してる!」


スタッフ全員が笑い転げた。


美優はお腹を抱えている。


「カット! ダメ! 笑っちゃう!」


「監督が笑ってどうするんですか!」


「無理! 今日一番面白い!」


夕方。


撮影が終わる。


夕日がスタジオを赤く染めていた。


雄馬が頭を下げる。


「今日もありがとうございました。」


美優は笑顔で答える。


「こちらこそ。」


「ちゃんと主演、できてますか?」


「うん。」


「本当ですか?」


「ホラー映画なのに、現場を明るくできる主演なんて珍しいよ。」


「それっていいことですか?」


「もちろん。」


少し照れながら、美優は続ける。


「それに……。」


「はい?」


「雄馬くんと話してると楽しい。」


雄馬は固まる。


「え?」


「次の映画も主演、お願いしようかな。」


「ほ、本当に?」


「ただし。」


「ただし?」


「今度は転ばないこと。」


「そこですか!」


「そこ。」


二人は顔を見合わせて笑う。


その様子を見ていた助監督が小さくつぶやく。


「監督。」


「なに?」


「ラブコメ映画も撮れそうですね。」


美優は照れ笑いを浮かべる。


「……それも、悪くないかも。」


その瞬間、着ぐるみ姿のラテカ役が遠くから手を振る。


「みんなー! 打ち上げ行く人ー!」


雄馬が笑う。


「ラテカが一番陽気ですね。」


美優も大笑いした。


ホラー映画『ラテカ』の撮影現場は、今日も悲鳴より笑い声のほうがずっと多かった。

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