九話 魔王、冒険者を目指す
【今が熱い! 迷宮配信業について!】
迷宮配信業、それは最高のエンタメであり、今最もコンテンツです!
ダンジョンは攻略するだけの場所じゃない! 視聴率も人生も一攫千金!?
かつて、財宝や、名誉、人類のために、命を賭して英雄が挑んでいた迷宮!
だが今、その在り方が変わった。
【冒険者】達はただ潜るだけではない。
その様子を【配信】するのだ!
今もっとも熱い職業、それが迷宮配信業である。
この職業の始まりは20年前。
【魔石】による【魔力】を介した通信が普及し、誰でも手軽に迷宮内に物資を持って来れる様になった。そこで映像を中継できるようになっると一気にブームが爆発した。
血沸き肉躍る戦闘、生々しい悲鳴、そして驚く様な【戦利品】…。
それら、すべてがリアルタイムで視聴者の五感を刺激する!
中には、一度のボス討伐で再生数一千万を叩き出した者も現れ、彼らは今や【冒険者】として芸能人同様の人気を誇る。
特に呼ばれる上位層、S級【冒険者】は、企業案件やスポンサー契約で年収10桁も夢ではないという。
一方で、底辺配信者も多い。
視聴数ゼロ、コメント欄は静寂、迷宮の闇よりも深い孤独…。
だが、そんな中から【伝説】が生まれることも!?
そう、例えば
かつて世界を救った伝説の踏破者が、今は過疎配信おじさんとしてカメラを前にぼやいている…、なんて話もあるかもしれない。
この業界において、どんな配信がバズるかは、誰にも分からない。
だが一つだけ確かなのは、「迷宮配信は最高のエンタメである!」ということだ!
さあ、あなたもルーンカメラを手に取り、未知の階層へ潜ってみないか?
もしかしたら、次のトレンドを掴むのは、あなたかもしれない!
迷宮配信するなら、WAAに登録を!
***
マーラはファミレスにて、モーニングメニュー以外にも、多く料理を注文し、それら全てを平らげるとレンジの【スマホ】を借りて、【冒険者】の記事を読んでいた。
(なるほどな、俺が25年前にこっちに来て、レンジに殺されたのがちょうど、20年前。このタイミングから【魔王達】がこれに関与してそうだな。となると、俺が次やることは一つか。着実に目標を達成していこうか、マーラ! 俺がレンジを殺すためにな!)
マーラは自身の役割を決めると頼んでおいたオレンジジュースを飲み終え、デザートのパンケーキを口に運び、それを頬張った。
「朝から胃もたれしそうな量食べるな、マーラ」
「そうか? 俺、昔からこれくらい食べてたし。なんなら、昔のが食べてるな。それでも、大分食べる量減ってるぞ?」
レンジはモーニングメニューのトーストセットとコーヒー飲みながら、目の前で元気よく朝食を頬張るマーラを見て、少し引いていた。
一方、ミリアは、黒いサングラスと帽子を被りながら、レンジ同様のモーニングメニューとサラダを注文し、ゆっくりとそれらを口に運んだ。
(はぁ~、師匠と朝ごはんなんて、何年振りでしょう! なんて光栄! それにしても、師匠は少食じゃなかったはずなのですが、食べる量が減ってますね? 歳はいってましたが、そんなに減るものなのでしょうか?)
そんなことを考え、ミリアはホットコーヒーを口に含むと、マーラは彼女に喋りかける。
「なぁ、なぁ! ミリア~!」
「気軽に喋りかけないでください」
「感じ悪~」
マーラはベロを出して、ベーとしながら茶化すとミリアは気にせずに、会話を続けた。
「それでどうしたのですか? パーティから抜けるとかなら大歓迎ですけど」
「はぁー、ミリアはあれか? 嫌いな奴には容赦ないタイプだな。理解理解。まぁ、それは置いといて、俺、【冒険者】ってヤツになりたいんだけど」
マーラの言葉に、ミリアは一瞬固まるも、すぐに彼女の真意を察した。
「迷宮潜るには登録が必要ですし、ゲリラ的に出た迷宮に巻き込まれた時はお咎めないですが、これから迷宮に潜るとなると登録は必須ですね」
ミリアは少しの間、考える。
そして、一つの結論を出し、レンジの顔を眺めた。
「師匠、提案がございます」
「? どうしたんだい?」
「マーラを【冒険者】に登録するために、東響に向かいましょう」
「マーラを、【冒険者】に?! 流石に、身分証明書が無ければ無理じゃないかな?」
【冒険者】となるには、自己を証明する身分証が必要であり、レンジはついさっき突然、現れた【魔王】がそんな物を持っている筈ないと踏んでいた。
「あるぞ」
マーラはレンジの考えを読んだのかの様に、【肋屋カーマ】と書かれたカードを目の前に出した。
「え、えぇ、どうやって作ったんだい?」
「【魔王】だからな、これくらいは出来て当然だ」
「あー、そう言うことね。【魔王】だからか。なら、仕方ないか」
レンジは【魔王】という存在の無法さ加減を知っており、マーラが時折見せる万能とも呼べる行動に対して、理解を諦めている。ミリアは、逆にマーラの見せた手際の良さに対して、対して驚きを示さない。
S級【冒険者】として、最前線を疾る彼女にとって、目の前で起きた軽い超常現象など、気にすることのなく、淡々と話を進める。
「身分証もあれば問題ないですね。僕も、今日は【配信】おやすみなので、時間もありますから、案内しますよ」
ミリアの提案に対して、マーラは目を輝せる。
「東京か! 俺がいた迷宮ゲヘナがある場所だな! 早く行こうぜ!」
「まぁ、そうか。結局、僕達がパーティを組むにも、【冒険者】にならないと行けないからね。でも、僕、部屋壊したし、色々やらなきゃ行けないこといっぱいあるんだよな」
「それなら、もう業者に連絡入れて、僕がやっておきましたので、大丈夫ですよ」
ミリアの手際の良さに、レンジは呆気に取られる。だが、それを有耶無耶にするかの様に、マーラが勢いよく、声を上げた。
「それじゃあ、決まりだな! 目指せ! 東京! 俺の【冒険者】生活の始まりの一歩だ!」
マーラは今後の方針が決まったことで、嬉しそうにしていたが、ミリアはやれやれとため息を吐く。
その一方で、レンジは少し浮かない表情を浮かべた。その理由、それはレンジにとって【東響】とは、自身が英雄となった地であり、自分が英雄として、死んだ、墓場の様な場所であったから。
レンジがゲヘナ踏破後、迷宮配信業が一気に流行り、【冒険者】は皆が皆、【配信】する義務がつけられると自分という存在は、一瞬にして忘れ去られた。
レンジは自身を一瞬にして、見切りをつけた世間からの疎外感により、【東響】での活動を止めると各地を転々としながら、小型迷宮に入っては、そこを踏破し続ける暮らしをしていた。
故に、【東響】という場所に少し苦手意識があった。
(だからといって、逃げ続けるのも良くないよな。別に、場所が悪いって訳じゃないし。僕も新しい一歩を踏み出すべきだね)
ただ、マーラとミリアとの出会いで、レンジ自身も新しい一歩を踏み出したいと感じており、ただ老いていく自分を奮い立たせた。
レンジが覚悟を決めた直後、ふとした疑問が頭を過った。
(あれ? なんで、ミリアは僕の居場所を知ってたんだろう? 僕、彼女に居場所を教えてなかったのに)
その疑問を、ミリアに投げようとするが、彼女とマーラは既に、ファミレスを出る準備をしていた。
「師匠? どうか致しましたか?」
ミリアの星のマークが刻まれた両眼に見つめられるとレンジはドキリとして、何故か、投げようとした疑問を押さえ込んでしまった。
そして、首を横に振ると、ミリアは首を傾ける。
「? まぁ、良いでしょう。それでは行きましょう、師匠! 迷宮最先端都市、【東響】へ!」
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