八話 弟子、魔王を問い詰める
ミリアが押し掛けて来てから数時間が経過しており、彼らは夜明けを待った。
マーラが側から見れば、少女の姿であったため、この時間から何処かに行くかは怪しまれてしまうこととなるとレンジとミリアは判断した。迷宮の顕現により、綺麗に削り取られたレンジの部屋の前で、ミリアは彼女へと幾つかの質問をしながら夜を過ごすことになった。
そして、そこで幾つかの事実が判明する。
「それじゃあ、一応、整理しますね。マーラ、貴方は20年前に師匠に殺された【魔王】であり、復活したのは、他の【魔王】が持ってる自分の肉体を取り戻すため」
「おう、そうだな」
「それで自分の肉体を取り戻して何をするんですか?」
マーラがボヤかしていた部分を、明確にしていくミリアに対して、彼女は嬉しく感じており、堂々とした態度で答えた。
「そりゃ、全盛期の肉体でレンジと殺し合うためだ」
言い切るとミリアは、得物である刀を前にして、レンジ向けて声を上げる。
「師匠、コイツやっぱり殺しましょう。危険因子とかじゃなくて、真っ当に敵ですよ」
「えー、ミリアお姉ちゃんと仲良く出来そうだったのに~。それに、俺を殺すと、【魔王】達は出て来なくなるぞ」
「出て来ないならいいじゃないですか。それで変わらず過ごせるなら」
ミリアの言葉に、マーラは自身の人差し指を立てて動かした。
「チッチッチ~! ミリアは分かってないな~。【魔王】達はもうこの世界には来てるんだよ。俺を殺す=ソイツらの準備時間を増やすのかって話だ。20年も経ってるんだぞ? アイツらにそれだけの猶予を与えてるって時点で、俺が復活するより、不味いんじゃないか?」
マーラの言葉を信用するならば、それは恐るべき脅威であり、看過できない状況に堕ちると言っても他ならない。だが、レンジは一つ引っかかっていた事をマーラに尋ねた。
「マーラ、お前、【権能】のせいで、嘘をつけないって言ってたよな。それなのに僕とミリアの前で、自分を腹違いの妹と偽り、名前も別のを名乗った。これ明らかに嘘をついたよな?」
マーラは自身の【権能】で嘘をつけない。それはレンジがかつて、マーラと戦った際に、知り得た事実で、彼女は相手の問いや、自らの言葉に嘘をつけないのである。
それが何故だか、平然と嘘をついた。
レンジは、その一点でのみ、マーラという【魔王】を信用していたからこそ、その信用が揺らいだことが気になったのである。
「ん? ああ、あれな。あれはな、俺の【権能】の力が弱まってるからだよ。俺は【権能】を使う対価に嘘がつけなかったんだが、今は、弱まってて嘘がつけた。初めて吐いたな! 案外、気分がいいな!」
その微笑みは邪悪としか言えないほどニンマリと口角が上がっており、彼女の影が一瞬だけ、少女ではなく禍々しいかつての【魔王】の形になったのをレンジは見た。
そして、彼は、これは不味いと考えた。
レンジにとって、マーラが嘘をつけてしまうと言うのは、大きな不安要素であった。ミリアも同じ判断をしたのか、彼よりも過激に行動しており、今にでも彼女に向けて、刃を走らせようと刀を構えている。
それをなんとか納めるために、レンジは率先して、マーラへと声を上げる。
「マーラ、僕達はパーティを組むってことは信頼が大切だ。お前が【魔王】であっても、嘘をつかないと言う一点に限っては信頼出来た。だけど、ここで嘘を吐くなら今、ミリアが切り掛かってしまいそうなんだけど、どうする?」
脅しとも捉えられる問いに、マーラは逆に嬉しくなったのか笑みを止めず、答えた。
「ククク、オイオイ、レンジ〜。あの時は仕方なかったけど、今は別に嘘を吐く必要がないだろう? それに、俺は必要ない事はしない主義だ」
マーラは別に嘘を吐いてもいいと思っているが、それでも彼らが他の【魔王】を共に殺してくれるには、信用を勝ち得ないといけないことを理解している。
だからこそ、質問には全て嘘なく応える。
だが、質問されていないこと、余計な事は喋らないと自身の線引きをしていた。
「はぁー、分かりました。とりあえず、その言葉だけは表面上は受け取っておきます。それでは質問に戻ります」
「え~! 俺もう疲れたぞ」
「はぁー、マーラ、あなた子どもじゃあるまいし」
「体は子どもだから、疲れやすいんだよ」
「はぁー、もう分かりました。最後、一つだけ、お願いします。そしたら、僕が美味しい物食べさせて上げます」
「答えまーす。何でも聞いて」
マーラは嫌々言っていたのが嘘の様にピッシリと背を伸ばし、ミリアの最後の質問を待った。
ミリアはこの質問は絶対にしようという物があり、大きく深呼吸をして、呼吸を整える。そして、真っ直ぐとマーラの目を見ながら、ミリアは口を開いた。
「マーラ、僕達が殺そうとする【魔王】は何人いるか教えて下さい。あなた以外にいる敵は一体、何体いるのですか?」
ミリアは【魔王】を殺すとマーラが言っていたところで、常に抱いていた疑問があった。
それは【魔王】の数である。
何体の【魔王】を殺す必要があるのか、それはレンジにも伝えておらず、マーラはあえて黙っていようとしていた。
だが、それをミリアに突かれると、マーラはため息を吐く。続けて、ミリアとレンジの両者の目を確認しながら、口を開く。
「【魔王】は5体」
「5体もいるのかい?!」
レンジが驚嘆すると、それに対して、更に彼を驚かせようとマーラは再び喋り出した。
「そうだ。【第一幻魔王――唯一なるゲーテ】、【第二戦魔王――無双のバアル】、【第三禁魔王――惨憺たるナハト・ナハト】、【第四戯魔王――支配のマキナ】、【第五獣魔王――極刑なるケルヌンノス】。それが俺の体をバラバラにして持っている5体の【魔王】の名前だ」
5体の【魔王】の名が、レンジ達に告げられると彼は表面には出さないが、内心、童心に戻ったかのように興奮してしまっていた。
【第六天魔王――空絶のマーラ】、彼女に並ぶのがまだ、5体もいるという事実は、多いなどとは微塵も感じておらず、むしろ、今まで、出せていなかった物全てをぶつけさせてくれる、そんな気がして、他ならない。
(コイツらを、僕は殺すのか。ふー、落ち着け。1日で、色々なことがあったから感情が昂るのは仕方ないし、本当なら地球の危機で、こんなことを言うのは不謹慎かもしれない。でも、それでも、ワクワクしてしまう! マーラを倒すと決めた時、首元に剣を突き立てたあの日の熱を、また、感じ取れるとしたら…。僕はその時、冷静で入れるのだろうか)
レンジの眼には闘争の炎が燃えており、それを理性で抑えようと必死になっていることをマーラだけは理解していた。一方の、ミリアはレンジの根底にある闘志に、気付いておらず、マーラの回答を自身の【スマホ】に記載すると、ひと段落がついたのかその場に立ち上がった。
「5体の【魔王】ですか。はぁー、また、骨が折れそうですね。とりあえず、分かりました」
「もう良いのかい? ミリアお姉ちゃん」
「貴方が疲れたと言ったのでしょう、全く。師匠、とりあえず、朝になったので、みんなでファミレスにでも行きましょう! 僕もお腹空きました。配信打ち切って来たので!」
ミリアの言葉で、レンジはようやく現実に戻って来たのか、その声を聞き、ハッとした表情で前を向いた。
「あ、あぁ、うん。そうだね」
反応が悪いレンジに対して、ミリアは体調が悪いのかと考え、彼の近くに寄った。
「師匠?」
「…ごめん。少しだけぼうっとしちゃった」
「体調が悪いならすぐに言ってくださいね?」
「うん、ありがとう。でも、大丈夫! とりあえず、みんなでご飯にしよう!」
レンジも立ち上がると、彼らは近くで営業しているファミレスへと向かう。
これから始まる旅の門出の一歩を、レンジ達は踏み出すのであった。
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