十二話 おじさん、選抜戦に挑む⑩
吹き荒れる暴風雨と氾濫して溢れる河。
視界は悪く、前を見るのにも一苦労するほど。
肋屋レンジが転送された先、そこは氾濫する川の近くであり、足場も悪く、とりあえず、身を隠すために準備しておいたローブの様なものを纏った。
(まさか、天候までランダムだなんて、思いもよらなかった。スマホも開けないから、マーラとアルディーニの位置も把握出来ない。ふー、落ち着け。この状況、あまりにも慣れない状況だけど、考えろ。僕が打てる一手を、よく考えて行動するんだ)
レンジは耳につけていた無線に手を置き、マーラとアルディーニへと連絡を計ろうとした。
その時、彼の背後に誰かが立った。
不意打ちをするわけでもなく、そこに立つとレンジは、それが纏う【魔力】からマーラとアルディーニではないことを理解し、得物に手を置いた。
「初めましてやな、肋屋レンジ」
レンジの背後に立つのは嵐吹き荒れる中でノースリーブを着たピンク髪の女、足利ルリであり、彼女は腰に差している刀の柄を握っている。
「不意打ちはしないんだね」
「不意打ちしても、この前みたいに弾かれるだけやろ。そんなら無駄なことはせん。真正面から切り裂いたる思ってな」
レンジは鞘を前にし、振り向くとルリはその所作を見つて、彼の実力、彼の持つ剣士としての底知れなさに見惚れた。
(やっぱり、【配信】で見るより、カッコええわ~。圧が違う。ミリア様もそうやけど、見れば分かる。これは本当にあの人の師匠や。こりゃ~、私も気合い、入れ直さなあかんなぁ)
そんな考えをしたのも束の間、レンジの放つ圧にルリも誘われたのか、自身の型の構えを取っており、いつでも勝負に出られる様にしていた。
氾濫する川の側、2人の剣士。
そこで何も起きない筈はなく。
刀の持ち方は真逆、逆手と順手。
互いに視線を交えた瞬間、彼は、彼女は手に握る得物を構え、相手の首元へと刃を迫らせるために一歩を踏み出す。
「無明一刀流」
「地麝流居合」
刹那、レンジは一瞬にしてルリとの距離を詰めようとする。
足場は悪く、ぬかるんでいるにも関わらず、それらを気にしないほどの俊敏性、そこから放たれる光速の逆手抜刀。
ルリという剣士を認めているからこそ放つ最速の一手。
「旋」
だが、レンジの逆手抜刀が抜かれるよりも先に、ルリの刀は彼の目の前にその刃を現した。
レンジは技を放つ直前に、相手の間合いをしっかりと読んだ上で刀を抜く筈であった。それなのに、何故か、ルリの居合はその範囲外から放たれており、一瞬で勝負を喫するための技を潰されてしまう。
間合い外の斬撃に対して、レンジは【夜叉】を抜き、それを弾くと再び鞘に刀を納め、抜刀の構えを取る。
(今のが、足利ルリが放つ居合、地麝流居合。通称、伸びる居合か。動画で見た時よりも射程距離が遥かに長いな、これ)
地麝流居合、それは足利ルリの家系が継いできた相伝の剣術である。
「颯!」
抜刀共にルリの放つ斬撃が再びレンジへと襲いかかった。
風を纏った斬撃はレンジの首を一撃で断とうと真っ直ぐに伸び、彼はそれを身のこなしだけで避ける。
そして、その斬撃の射程距離が先ほどよりも更に伸びている事に気付いた。
(まだ射程距離が伸びてる。こりゃ、これまでの動画のデータは参考にならない。しかも、さっきよりも切れ味が増してる気がする)
レンジの予想は正しい。
足利ルリが継いだ地麝流居合は彼女の活躍により、【ユニークスキル】と成っている。
「おおっと! まさかの試合開始直後に足利選手と肋屋選手、会敵! パーティエース同士の打つかり合いだ!」
序盤から試合が動いたことで、カナは彼らの戦いの実況を始めた。
「アルベールさん、序盤から前週で大活躍だった会敵! しかも、2人とも独特な剣術の持ち主なのですが、飛び交う斬撃は、私の目では全く追えてない! なので、アルベールさんに解説いただきたいのですが、可能ですか?」
「いいよ、両方とも解説出来るからどっちからがいい?」
アルベールに投げた問いが何故か別の形になって、自分に選択肢として投げられるとルリは少し考えた後、すぐに答えを出した。
「それでは足利選手からお願いします!」
「OK。じゃあ、足利選手の居合、地麝流居合の原理から教えるね。あれは抜刀と同時に刀の先に風魔法を纏わせて、放ってるんだ」
アルベールは何処からか取り出した小さなホワイトボードにルリの絵を描きながらそれを説明し始めた。
「そんなこと出来るのですか?」
「結論から言うと可能ではある。けれど、それだと肋屋選手よりも早く剣技を放てない。足利選手は自身の居合を【ユニークスキル】にしてる」
迷宮では、人々の認知によって、冒険者達が持つ扱える【スキル】が変化する。それこそが、【ユニークスキル】であり、冒険者が至る一つの極みである。
ルリは自身の剣術を他者に認めさせることで【ユニークスキル】へと昇華させていた。
「なるほど! 【スキル】でかかる筈の詠唱を【ユニークスキル】にまで至ったおかげで短縮! 自身の【ユニークスキル】を言うだけで、風魔法が付与された斬撃が放てると言うことですね!」
「それだけじゃない。足利選手の居合はそれに加えて、残心を保つことで斬撃の射程距離を伸ばしてる。珍しい技とかは、【ユニークスキル】に変化しやすい。けれど、それに至るまでに、血の滲むような努力をして来たのが分かるね」
その言葉と同時に、レンジとルリの戦闘は勢いが加速する。
「地麝流居合! 花信風!」
レンジは一度、体勢を立て直すべく、ルリから離れ様とした。
しかし、ルリにとって最も地麝流居合の真骨頂を発揮するには持って来いの状況に陥ってしまう。
伸びる斬撃などと称される地麝流居合であるが、それはただ伸びるのではなく、技を放つごとに射程距離は伸び、放つごとにその斬撃の切れ味は上がっていく。
既に氾濫する川から離れているにも関わらず、レンジをしっかりと捉えて放たれる斬撃は必ず獲物を逃さないと言う彼女の意志の現れであり、一方的に彼へと斬撃を襲い掛からせた。
(これ思ったよりもずっと斬撃が伸び続けるな。早いうちに決着をつけないと不味いことになる)
レンジは距離を取りながらも何処かのタイミングで攻戦に出ようとしていた。
だが、そんな彼の前に、1人の【冒険者】が姿を現した。
両手には【冒険者】がよく使う剣と大型の盾、それらを握り構えるジェームズパーティの一員、川上春であった。
「手合わせ、いいですか?」
春は短くそう尋ねるとレンジは走りながら【夜叉】の鞘を前にする。
「勿論!」
大盾を持ってレンジに挑まんとする春と彼を追って斬撃を放ち続けるルリ。
対するは、2人に挟まれながらも戦いへと興じるレンジ。
いつの間にか揃った3パーティ、三者三様、エース同士の三つ巴。
怒涛の【魔王】討伐選抜戦第六試合、その激闘の火蓋が切って落とされた。
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