九話 おじさん、選抜戦に挑む⑦
蘆原勇剣は手に握る刀を構え、その刃に【魔力】を注いだ。
注がれた刃からは溢れんばかりの【魔力】で満ちており、それを彼は適当に振るう。
4人の【冒険者】との距離は離れており、今の勇剣の攻撃は当たらない。
だが、あまりにも膨大なまでの【魔力】を満たされて放つ、刀の一振りはその距離の利点を蹂躙する。
「伏せろ!」
4人の【冒険者】の内、最も早く、その一撃の正体に気付いた孔純哲が放った叫び声、それが響いた瞬間、3人は一斉にしゃがんだ。
勇剣の【魔力】を込めて放つ一振りは、市街地の家を一気に切り裂き、横薙ぎの真っ二つにしてしまった。
その光景を目の当たりにした孔純哲は、後日、それについてこう語った。
あれはバケモノだ、と。
「な、なんと言うことでしょうか!? 何も【スキル】を発動しない攻撃が家を丸ごと切り裂いた?!」
実況席で勇剣の攻撃を見た、カナは目を丸くするもその横でミリアは彼の攻撃の正体について、解説した。
「何もしてない訳じゃありませんよ。彼は自分の得物に【魔力】を注ぎ込んでました。それから斬撃を放ったんです」
「え、えーと、それって【魔力】のコントロール練習とかでやるお遊び、【魔力】飛ばしをしたってことですか?」
【魔力】飛ばし、それは【冒険者】成り立ての人間がやる【魔力】コントロール練習の1つで、自分の持つ得物に【魔力】を込めて、それを的に飛ばすと言う物。
「ええ、そうです」
「あ、あれって結局、【スキル】で【魔術】系の攻撃を出すための練習とかであって、普通はあんな威力になりません、よね?」
【魔力】飛ばしはあくまで【魔力】の流れを掴み、操作するためのものであり、実践的に使える様なもので無い。
むしろ、今は魔弾や、その他の形で【魔力】を放つ技術があるため、【魔力】飛ばしは本当に練習のためのお遊びであった。
「【魔力】の量と流し方、それによっては【魔力】飛ばしも武器になります。蘆原選手の【魔力】量はザッと見て、S級【冒険者】の平均の3倍はありますので、ハッキリと言って兵器と呼んでも差し支えないでしょう」
「さ、3倍?! ですか?!」
「ええ。なので、戦闘中に【魔力】が尽きることはほぼありません。大雑把な【魔力】操作でも、武器に込めて、それを放つだけで、あの威力になります」
勇剣は続けて、刀に【魔力】を込め、それを斬撃の様にして飛ばした。
4人の【冒険者】はそれを避けるために一気に散会すると斬撃が再び家にぶつかり、巨大な音と共に視界を遮る砂埃が舞う。
(クソ! 4人で追い詰めるつもりだったのに、分断された! だが、【魔力】量が多すぎて、何処にいるかは明白すぎる! なら、一旦、ここは退くに限る! 声を出さず、散るぞ!)
4人の【冒険者】はA級の中でもベテランであり、勇剣と言うバケモノを相手に冷静に判断し、全員がその場から距離を取る選択を取った。
「勇剣、3時の方向、1人、砂埃から抜けた。飛ばすか?」
耳につけていた無線から松風の声がした。
勇剣はそれに対して、すぐに返答する。
「お願いします」
勇剣の答えを聞き、松風はため息を吐きながら、手元にあるノートパソコンから飛ばしておいた小型ドローンを操作し始める。
松風のドローンは光学迷彩が装備されており、【魔力】を敢えて用いらないことで、【魔力感知】から避けることが出来る。
そして、ドローンが予定する位置にマーキングをすると松風は自身の【スキル】の内、1つを使用する。
「瞬間転送」
瞬間転送、それはマーキングした場所に物や、人を転送できる【スキル】。
一見、便利なスキルだが、条件が難しく、あくまで自分を転送することは出来ないし、マーキングした場所にしか飛ばせない。
制約の割には扱いづらい【スキル】であるが、 松風隼人はそれを使い熟す。
彼の【配信】スタイルは罠などを張りながら迷宮で、あれやこれやを試していく、かつて、その様な形で動画配信をしていた時代、古の【配信者】のスタイル。
だからこそ、勇剣は松風に目をつけた。
自分という個を扱い、持て余さない彼を。
転送先、そこには4人の内の1人が逃げる直前であり、彼は突然、目の前に勇剣が現れたことで思考が停止した。
「ごめんね」
その瞬間を容赦なく、勇剣は突くと彼の首を刎ねた。
「討伐選抜戦! 第二試合の初ポイントは! 蘆原勇剣選手だぁ!!!! 蘆原選手所属パーティに2ポイント! そして、個人に5ポイント追加!」
そう言ったのも束の間、勇剣の一振りは視界を遮っていた砂埃を一気に払い退けた。
「嘘だろ!?」
無防備に晒された背中、3人は必死に逃げるがそれに目掛けて、勇剣は追撃する。
1人は先ほど同様に、【魔力】の斬撃を飛ばし、もう1人はその背中から刀を投げ捨て、貫いた。
斬撃は逃げる【冒険者】を飲み込み、投げつけた刀も無防備な背中を貫き、一撃で仕留める。
「蘆原選手、怒涛の2キル!? 所属パーティに4ポイント! そして、個人に10ポイント追加! 止まらない! 誰が彼を止めるのか!?」
そんな中、4人の内、最後に残った純哲は勇剣が得物を失ったことで、勝機を見出したのか、仲間の仇を取るために彼に向かって走り出した。
(【魔力】をドバドバ出しすぎだ! 今なら、入る! ダメージが!)
純哲は仲間達がやられる最中、勇剣の弱点に気付いた。
彼の弱点、それは【魔力】の操作が大雑把であること。
莫大な量を誇ってはいるが、それのせいか、勇剣の【魔力】操作は他の【冒険者】に比べて遥かに雑。
立ち込めている【魔力】は、蛇口を捻りっぱなしで出力し続けるせいか、斬撃を飛ばした直後、体に纏う【魔力】が薄くなっててしまう。
【冒険者】として、迷宮に潜る時に習う基礎的な技術であるがなのに、勇剣はそれを鍛えてこなかった。
今の彼を傷つけることは以前よりも遥かに容易であり、純哲はその隙を突いて、一か八かの賭けに出た。
(上手いなぁ、この人。僕の動きをよく見てる。それでいて、ちゃんと僕を仕留めるつもりだ。すごいな)
自分の弱点を突く敵に対して、勇剣は心の中で賛辞を送る。
「勇剣、刀、転送するか?」
純哲が手に握る槍を勇剣へと向けた瞬間、松風から援護の提案があった。
「いえ、大丈夫です。ドローン、壊す数も少ない方がいいですし、1人で対処します」
松風からの援護を断り、向かい来る純哲に対して、彼に向けて敬意を表しながら、勇剣はあえて、何も構えずに立ち尽くした。
放たれる【魔力】を込めた槍の一突き、それに対するは無防備な肉体。
「弾丸」
立ち尽くしたのは、自分が無防備であると誘うため。
【魔力】を体に纏わせないのは、防御を取っていないと相手に油断させるため。
嘘の二段構え、それを持ってして、純哲の肉体は勇剣の放つ魔弾によって、消し飛んだ。
「蘆原選手、勢い止まらずに4キル! 所属パーティの合計点は8ポイント! そして、個人20ポイントになった! 圧倒! 他者を寄せ付けぬ、前進! これがA級最強! これがS級に最も近い男の実力か!」
カナの蘆原勇剣を讃える実況が止まらない。
蘆原勇剣、【魔王】討伐選抜戦にて、肋屋レンジに対して、歌島徳茂が送り出した刺客であり、彼が最も忌み嫌う英雄の素質を持った男。
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