七話 おじさん、魔王と弟子の手を取る
ミリアは手を前にして、レンジに差し出した。
「ミリアさん?! これは何?!」
レンジはそれに対して、驚きと戸惑いを見せるもミリアは一切表情を変えずに答えた。
「師匠は僕と暫定妹(仮)。どっちと迷宮に潜るのかを聞いてるのです。本当は、僕はまだ、師匠の横に立てる程のレベルではありません。でも、僕以外がそこに立つ奴があるなら、この思いを譲るつもりは毛頭ありません」
ミリアは表面上は笑っているが、目はその逆。
圧に満ち溢れていた。
その圧から、レンジは、複雑な緊張感に晒されると頭で今の状況を整理しようとした。
(こ、これは、選択を誤れば、死が見える?! ミリアってこんな子だったっけ?!)
その時、7年前、まだ17歳だったミリアが無邪気に言った言葉が、脳裏を過る。
「師匠! 僕、師匠のお嫁さんになりたいんだ!」
17歳の少女に言われた言葉、それをレンジは間に受けることなどはなく、思春期の女の子がそんなことを気軽に言ってはいけないと咎めた日が何故か、掘り起こされた。
(意外とこういう子だったかもしれない。何だか、僕は彼女ちゃんと見れていなかったんだな)
そんな考えがレンジの頭の中を走り回っていた。
一方で、何だか面白そうなことが起きていると理解したマーラは、ワザとミリアの闘争心を滾らせようとレンジに近付き、媚びるような態度で口を開く。
「え~、お兄ちゃん、俺を連れてってくれないの~? 約束したじゃんね! 俺と一緒に【魔王】を殺すって」
「はぁ~?! 何ですか!? それ!? 僕知りませんよ?! それよりも【魔王】を殺すって何ですか?! 暫定妹(仮)、貴方は何者ですか!?」
ミリアに突然、【魔王】殺しの話をして、動揺させると彼女は案の定、先ほどよりもマーラに対して、殺意を向けながら肩を握り、ブンブンと揺すった。
「あ~! いた~い! ねえねえ! 見た! お兄ちゃん~! ミリアお姉ちゃんがいじめる~」
「ダァ~! この、羽虫! 師匠! こんな奴の何が良くて! 横に置いてるんですか!」
2人が取っ組み合いの喧嘩を勃発させそうになるも互いに相手から手を離す。そして、深呼吸をするとレンジへと寄って、同じタイミングで声を上げると各々が片手を前に出した。
「僕を!」「俺を!」
「「迷宮に連れてって!」」
2人の考えはまるで別で、片方は本気で師であるレンジに手を取って欲しいから、もう片方は本気で彼を困らせたいから。
そんな中、情報量の波に着いて来れず、ショート直前のレンジの脳内が叩き出した答え、それは――――――。
「両方だ」
「「え??」」
2人の手をレンジは握るとレンジはミリアとマーラに対して、声を上げた。
「2人とも一緒に、迷宮に潜ろう」
一人を選べば、必ず後悔と憎悪が残るとレンジは直感していた。ならば──二人を同じ船に乗せるしかないと、彼はその判断を下した。
(はっ?! 僕は何を言ってるんだい?! これ、もしかしたら最悪、この場でミリアに切り殺されるのでは?!)
恐る恐る視線をミリアの顔へと上げると、彼女の表情は固まっていた。何を考えているのかはサッパリ読めないが、レンジに握られた手を離さずに強く握りしめた。
一方、マーラもまた、握られた手を握り返すと、邪悪に微笑みながら、答える。
「ヘェ~、お兄ちゃん、大胆! でも、いいね! 俺は2人となら一緒に【魔王】殺しをしてもいいよ!」
こちらはこちらで底知れない闇の様なものを見せつけており、レンジは手を出したことを瞬時に、後悔した。
沈黙が続くミリアであったが、彼女の内心はトキメキと憎悪のハーフ&ハーフで互いに争っていた。
(し、しし、師匠が、僕の手を、握ってくれた!? 死?! いや、死ぬな!? それよりも横の羽虫! あれも一緒?! ふ、不埒! 僕だけを選んでくれないなんて! ゆ、許せない! で、でも、僕の手を、取ってくれてる。う、うわぁぁぁぁ!!!! あ、頭、ショート、しゅる)
星空ミリアは配信を行う最中、表情と内心を切り離して出力する事が出来るようになっており、現在、それを大いに発揮した。
表面上の感情は冷静沈着、むしろ、若干の怒りすら見える様な表情をレンジ達には見せている。だが、内心は既に脳で処理し切る情報を超えており、師匠のレンジ同様、ショートしかけた。
「…です」
「え?」
何とか絞り出す様に放った言葉。
それは
「ズルいです」
「…それは、うん。ごめんね、ミリア」
「でも、僕は、その、師匠が、僕の手を取ってくれた事が、嬉しいです。羽虫と一緒なのは癪ですが」
表情は変わらないが、それでもミリアはマーラよりもレンジの手を強く握り返す。
「師匠、腹は立ちますが、その、よろしくお願いします」
「うん! よろしくね! ミリア!」
天上の人となっていた弟子とかつての宿敵であった【魔王】との再会、それらがいっぺんに起きたが、レンジは何故か、ワクワクしていた。
いつしか感じていなかった、若かりし頃にあった熱。
それを間近に感じ取れて、少しだけ楽しくなってきていた。
「それはそうと、【魔王】殺しってなんですか?」
ミリアがその言葉を言うまでは。
「あー、うーん、その」
レンジが目を左右に動かし、明らかな動揺を見せるとマーラは逆に淡々とした態度で答える。
「まぁ、一緒に殺すんだろう? 【魔王】。なら、嘘吐く必要ねえかな。ミリアお姉ちゃん、俺はね、コイツに殺された【魔王】だ」
「……?!」
ミリアは唐突に告げられた事実に、突然、冷静になる。
「え、は? どう言う事です? 意味がサッパリ」
「オイオイ、俺の力を見て何も思わなかったのか?」
自分に肉迫するマーラの姿を思い返すと、たしかに歳の割には、実力があった事で妙な説得力があった。
「じゃ、じゃあ、師匠の妹というのは」
「嘘だ」
「名前は?」
「カーマじゃなくて、マーラ。【第六天魔王──空絶のマーラ】だ」
「……」
ミリアは黙った。
平然と嘘を吐くマーラに対してもだが、師匠であるレンジが自分に嘘をついていたのにもミリアはショックを受けた。
「本当にごめんなさい!」
ミリアが自分が嘘を吐いたことでショックを受けているのだけは分かったからか、レンジは頭を下げていた。
「師匠」
「はい」
頭を下げたまま、レンジは返事をするとミリアは喋り出した。
「嘘、吐きましたね?」
「滅相ございません」
「それでは、師匠。師弟規則を覚えていますか?」
「え、え~と、その、はい。覚えてます」
師弟規則とは、レンジとミリアが決めた互いに守るとした約束事であり、彼女はそれを今、取り出して来た。
「嘘を吐いたら、一つ相手の要求を飲む。無理じゃないものに限る、でしたよね?」
「はい」
「それでは、僕から一つ要求します。1日、師匠の休日を貰います」
「へ?」
ミリアが出して来た要求に、レンジは間の抜けた声を出した。
「師匠に嘘を吐かれたのは相当ショックなので、これくらいはしてもらいます」
「ちょっと待って、それは全然良いんだけど、そんなので良いの?!」
「そんなの? 僕からしたら、最大の罰です。断るのは無しで」
「あ、その、はい。承知しました」
レンジはミリアが何故、そこまで自分に執着するのか分からず、頭を抱えた。そんなレンジを見て、ニヤニヤしていたマーラに向けて、ミリアは声を上げた。
「それでは横の暫定【魔王】、貴方に質問です」
「え~、俺もう疲れちゃった~」
「僕の質問に答えなきゃ、この場で切り殺します」
「答えまーす」
ミリアの殺気にマーラは流石にこれ以上はやる気が無くなったのか素直に即答する。
ここから始まるのは長い尋問作業、ミリアの詰めが始まった。
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