一話 おじさん、弟子とデートする①
【第四戯魔王マキナ】討伐より、10日が経過した頃。
何日経っても、肋屋レンジが自分を誘って来ないこと。
星空ミリアは激怒した。
必ず、かの無頓着の師匠を引っ張りださねばならぬと決意した。
「今日という今日は許しません。以前、嘘をついた罰、受けてもらいます」
1人で誰に聞かせる訳でもなく、そう呟くミリアは自身の部屋から飛び出るとレンジの部屋にある合鍵を勝手に使って、その扉を開けた。
「ミリア!? なにごと?!」
無言でレンジの服の襟を掴んで、引き摺るとアイスを食べていたマーラに一瞥し、ミリアは声をかけた。
「お兄さん借りて行きますね」
「ミリアさん!?」
マーラはそれを面白そうに感じ、適当に答える。
「お好きに~」
「カーマ?!」
その直後、レンジはミリアに連れられるがまま、【東響】へと足を運ぶのであった。
ミリアは外に出る前に、サングラスをかけて、レンジにも同様の物をつけると迷うことなく、スタスタと足を動かした。
「あ、あの~、ミリアさん?」
それにレンジは何度か問いかけながら着いていくと、彼女が向かった先、そこは【東響】で最近、巷で話題のカフェであった。
「師匠、覚えてますか? 僕に嘘をついたこと」
「あ、はい。覚えてます。一番最初の頃です」
「僕は師匠の口から誘ってくれるのを待ってました。ですが、師匠はそんな僕の気持ちを無下にしました。何が言いたいのか分かりますか?」
ミリアはサングラス越しから軽くレンジを睨んでおり、彼はその圧の強さに気圧された。
「え、えーと、自分から誘う、べきだった、とか?」
「とか?」
「いえ、自分から誘うべきでした」
完全に押し負けたレンジを見て、何かを言いかけたが、一度、冷静さを取り戻すために、カフェに入るとサッサと注文をし、テラス席へと移動した。
注文した物のお代はサッとレンジが払い、彼らはテラス席にて、対面で座った。
そして、少しの間、沈黙が流れた。
それに耐えられなくなったレンジがミリアへと声をかける。
「ミリア、さん?」
「何ですか」
「まだ、怒って、ますよね」
「それは勿論。僕は師匠との約束を首を長くして待っていたので」
そのタイミングで店員がコーヒーを2つ運んで来た。
2人の目の前には、互いに1つのカップが置かれ、ミリアはそれにゆっくりと口を付けた。
口どけは滑らかでありながら、チョコレートのような風味と深いコク、口内にそれらが一杯に広がり、ミリアはそれを味わうとようやく気持ちが落ち着いたのか、深いため息を溢す。
レンジも同様にコーヒーを口に含み、ミリアが怒っていた理由を探した。
考えて、考えて尚、出てきた答え、それは
(分からない。ミリアが僕を贔屓してくれる理由が、分からない。僕は確かに、彼女の師匠だった。でも、それ以上でもそれ以下でもない。なんなら、ミリアは僕なんてとうの昔に超えてる。僕なんかに目を向ける必要なんて無いはずなのに)
そんなことをゴチャゴチャ考えているとミリアはレンジへと喋りかけた。
「師匠、こちらの生活には慣れましたか?」
突然、普通の話題を振られたことで、レンジは呆気に取られ、反応が遅れた。すぐに頭を振り、それに答えた。
「う、うん。意外と直ぐに慣れたよ。これも全部ミリアのおかげだよ」
「いえ、僕は師匠に貰ってきた恩を返しただけです」
ミリアは先程までの厳しい態度とは打って変わって、普段通りに戻っており、レンジは少しだけ戸惑いを隠せなかった。
「ねえ、ミリア、1つ質問していいかな?」
「僕が答えられる範囲のものであれば何でも聞いてください」
「何でミリアは、僕に良くしてくれるんだい?」
レンジにとって、意識のしてなかった当たり前に、ミリアは救われていたということを彼は問いてしまう。
だが、ミリアは気にしなかった。
むしろ、レンジの当たり前は他者から見たら優しさであり、それを意識せずにやってのけてしまう、彼であるからこそ、ミリアは尊敬していた。
「師匠と会った時のこと、覚えてますか?」
「それはもちろん」
ミリアとの出会い、それは彼女が12歳の頃であった。
迷宮に勝手に入って来てしまい、魔物に襲われたミリアをレンジが割って入って、彼女を守ってくれた。
それは今でも鮮烈な記憶であり、ミリアにとって、それまでの自分がどうでも良くなるほどに。
「あの時から僕は師匠に師事してきました」
「あはは、たしかにそうだったね。僕がミリアのチャンネルと【冒険者】の登録したんだっけ」
「両親に許可を取るのに必死でしたが、何とか許可を取れてラッキーでした」
「そうだ。ご両親は? 一度、会った以来、会えずにいたんだけど、元気にしてらっしゃる?」
レンジが両親について尋ねるとミリアは少し、気不味そうにした。
「両親は5年前、事故で亡くなりました。ちょうど、僕の【配信】が安定した頃だったので、生活は大丈夫でしたけど。結構、色々揉めました」
「ごめん。迂闊な質問だった」
「いえいえ、気にしないでください。僕も2人とはある程度、割り切った関係だったので。それで、師匠の質問に戻りますけど。僕が師匠を良くする、これ別によくしたつもりはないんですが、まぁ、そういうことにしましょう。それはですね」
ミリアが本題の答えを伝えようとしたその時、彼らの横に1人の男が走り去る。
「ヒッタクリよ! 誰か止めて!!!!」
女性の叫び声が聞こえた瞬間、レンジは無意識のうちに、立ち上がり、男の方へと駆けた。
(ミリアの話の途中で体が動いちゃった!? でも、もう走り出しちゃったし、しょうがない! とりあえず、アイツを捕まえちゃおう)
ミリアの話の腰を折ってしまったことを申し訳なく感じながらもレンジは人中を駆けながらもグングンとヒッタクリ犯との距離を詰めて行く。
「ヒィッ! 邪魔ダァ! 退け!」
ヒッタクリ犯は人混みを掻き分け、レンジから遠ざかろうとすると彼の視界に、1人の青年が現れた。
背丈は凡そ170前半で、オーバーサイズの白いボリュームネックパーカーに裾を通し、髪をセンター分けにした青年はあえてヒッタクリ犯の道を遮るように、立っていた。
「退けヨォ!」
青年へと怒号を浴びせ、彼にぶつかる直前、レンジは彼の横にいた少女に目を奪われる。
(何だ、あれ? 【魔力】の塊?)
青年は退くことなく、そこにただ立っただけ。
少女は碧いワンピースを着こなし、無邪気に笑いながら青年へと喋りかけた。
「勇剣、壊す?」
「いや、マナカ、やりすぎないで。軽く潰すだけにして」
青年と横にいる少女は短く言葉を交わした直後、彼女はその姿を変化させる。
そこには複数の漆黒の翼を幾つも重ね合わせた肉体に、狼のような鋭い牙と口を兼ね備えた化物としか形容し得ない何かが現れるとヒッタクリ犯目掛けて、その手に当たる部位を振り下ろした。
ヒッタクリ犯は有無を言わさずに、地面に叩きつけられ、その叩きつけられた衝撃で吐血した。
「ぐ、あは、な、ん、だ?」
何が起きたのか分からないヒッタクリ犯に一切、目を向けず、青年は彼が持っていた鞄を持って、レンジの方へと歩み寄った。
(何だあれ。何なんだ、あれ?! 【魔力】の塊、際限のない【魔力】の源流。【魔王】に並ぶぞ、あれは)
レンジは怪物に目を奪われていると青年が彼にヒッタクリ犯から奪い返した鞄を差し出した。
「おじさん、コレ」
青年は爽やかな笑みを浮かべ、レンジはそれに呆気に取られた。
「大丈夫? おじさん。疲れちゃった?」
「あ、いや、その。ありがとう、鞄取り返してくれて」
「ううん、気にしないで。僕は当たり前のことをしただけだし、何もしてないよ」
青年はレンジに鞄を渡すと直ぐに振り返り、その場から去ろうとした。
そんな青年の横には先程まで怪物に姿を変えていた少女がいつの間にか元に戻っており、何事もなかったかのように歩いていた。
彼女はレンジが自分を捉えているのに気付いたのか、彼の方向を向いて、ベーと舌を出した。
「あの! 君!」
「ん? 何? おじさん」
「横の可愛らしいお嬢ちゃんにもありがとうって伝えておいてくれないか」
レンジが伝えたかったのは彼らへの感謝。
青年だけではなく、それに手を貸してくれた何かに対しても感謝を述べた。
その言葉を聞き、青年は目を丸くした。
そして、何も言わずに、レンジの元からスタスタと遠ざかってしまう。
1人残されたレンジは彼らの機嫌を損ねてしまったのか、申し訳なさそうに呟いた。
「嫌がることしちゃったかな」
そんなことをしている内に誰かが警察を呼んでいたのか、レンジはヒッタクリ犯同様に事情聴取を受ける羽目になった。
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